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【その5】

「あーテストやだなあ・・・」
なんだか勉強がはかどらない。だけどそろそろ本腰を入れないとまずいことになる。
「お、珍しい。リビングで勉強?」
「隼人くん」
週末、久しぶりに帰ってきた兄の腕の中にはウサ吉がいる。よりにもよってテスト前、なかなか遊ぶ時間が取れないのがくやしい。
「こいつもなまえに会いたがってたんだぜ。なあウサ吉?」
「だめ、ここで屈したらテストの結果がとんでもないことになりそうだから・・・」
「テスト?へえ」
どれどれ、と隼人くんは教科書を覗き込む。
「分かる?教えてくれる?」
「暗記ものか・・・これはおめさんが自分できちんと覚えないとな」
「だよねえ・・・」
鼻をひくひくさせていているウサ吉のつぶらな瞳と目が合う。
「ねえウサ吉、赤点取ったらどうしよう」
ちょい、と指先で触れればわずかに首を傾げた。可愛いなあ。
「大丈夫だよ、なまえなら。普段からちゃんと勉強してるんだからさ」
「隼人くんはどうやって勉強してるの?」
「オレ?食べながらやることが多いけど」
「そういうことじゃなく」
「いやでも、案外いいかもしれないぜ?例えば、ここに揚げたてのカレーパンがあるとするだろ」
「?うん」
「一口食うためにはひとつ暗記しないとだめなんだ。そうしたら暗記も攻略できるんじゃないか?」
「・・・」
返す言葉が見つからない。
「隼人くん、もしかしてカレーパン食べたい?」
「ヒュウ。よく分かったな、名推理だ」
悠人が聞いたら盛大なため息をつきそうだ。だけど、
「なんだか私も食べたくなっちゃった」
「だろ?もうすぐ昼だし一緒に買いに行かないか」
「隼人くんのおごり?」
「もちろん」
ウサ吉をそっとカーペットの上に降ろして「ちょっとだけいい子にしてろよ」と隼人くんは言った。
「ケージは開けてるし、もうすぐ悠人が帰ってくるはずだから」
「そっか。じゃあウサ吉、行ってきます」
仲良く並んで歩いていると、ロードバイクにまたがった悠人がやって来るのが見えた。
「あれ?お出かけ?」
「ああ。カレーパンを買いにな」
「えーオレの分も買ってきてよ。あとなんか甘いやつも」
「いいぜ」
「やり」
「その代わりウサ吉のこと頼むぜ」
りょーかい、と言って悠人は再び走り出した。
よし、テスト勉強はカレーパンタイムの後にちゃんとやろう。・・・そう思っていても、やはりウサ吉の可愛さには抗えないのであった。


【その6】

「さっぶい」
頬を上気させた悠人がリビングに降りてきた。
「風呂上がった瞬間から凍えそう」
「廊下は寒いもんねえ」
「コタツついてる?」
「ついてるよ。あ、ココア飲む?」
飲む、と悠人は答えた。
「いつものやつね」
「はいはい」
ミルクたっぷりが彼の定番だ。マグカップを取り出しながら、2階にいる隼人くんにも持って行こうかなと考え3人分を用意する。
「なんか面白い番組やってるかな・・・お」
可愛い、と呟く声が聞こえた。
「タイプの子いた?」
「いや、普通に顔とか雰囲気がいいかもって思っただけ」
そっかーなんて答えながらカップの底をかき混ぜていると、再びドアが開く音がした。
「お、いい匂い」
「なまえちゃん、山からヒグマが降りてきた」
隼人くんは「オレがクマなら悠人は弟グマだな」と笑っている。
「それならテディベアにしてよ」
「いいぜ」
「お待たせーココアできたよ」
コタツに入って足を伸ばすと、
「隣入ーれて」
と隼人くんが入ってきた。狭いけど座れなくはないので「いいよ」と答えると、
「ずるい、オレもそっち入る」
と今度は悠人が足を伸ばしてくる。
「ちょっと、さすがに3人はきついって」
「じゃあ隼人くんが出てよ」
「先に隣に入ったのはオレだろ?」
ぎゅうぎゅう、まるでおしくらまんじゅうだ。狭いけどそんなにいやじゃないかも、なんて考えていると、金曜の夜の映画が始まる。
「これ前に隼人くんが読んでたやつじゃない?」
「ああ。原作と映画じゃ結末が違うんだよ」
隣ではすっかり定位置を見つけた悠人がソファーにもたれてココアを飲んでいる。あっさりコタツを離脱した足元にはブランケット。
「なまえちゃんもこっちおいで」
「なまえはコタツ派だろ?」
「隼人くんでかいんだから1人でコタツ使いなよ」
「ふたりとも、映画の音が聞こえないよ・・・」


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