真波


自転車が通り過ぎるたび、タイムをチェックし記録していく。今日は風が強い日だ。
「っ!」
やばい、砂が入ったかも。次の部員が来る前になんとかしなきゃとぐしぐし目をこすっていると、誰かが足を止めたのが見えた。
「先輩?」
「・・・真波?」
「泣いてるんですか?なんで?」
「目に砂が入っただけ。ごめん、途中なのに」
「えっ大変ですよ。見せて」
覗きこんだ彼は「真っ赤になってる」と呟く。
「保健室行かないと」
「でも他の部員が来ちゃうよ」
「代わりますから。泉田さんには言っときます」
そう言われてしまい、もう一度「ごめん」と謝って洗面所に向かう。保健室の先生にも大丈夫と言われ、念のため目薬をもらって部室に戻った。
「あ。目ェ大丈夫だったか」
「黒田。ごめんね、途中で投げ出して」
「いや、引き継いだ真波がちゃんとやってくれたから問題ねえ。なあ塔一郎」
「ああ。もし大丈夫だったら、真波のタイムを測ってやってもらえないか?」
もちろん、と私は頷く。
「真波ならさっきの場所にいるはずだ。くれぐれも無理はしないでね」
「ありがとう」
私が走って行く姿が見えたのか、遠くから真波が手を振っている。
「先輩、大丈夫ですか?」
「うん、もう平気。ありがとう真波」
よかった、と彼は笑った。
「走ってたら先輩泣いてるんだもん。驚いちゃいました」
「ごめんね、変な誤解させて」
「でもちょっとだけラッキーだったかも。あ、目にごみは別ですけど」
「ラッキー?」
真波は自転車にまたがる。
「それじゃ、出ます」
「あ、うん。いつでもオッケーだよ」
先輩、と彼は言った。
「オレのことちゃんと見ててくださいね」
そう言い残して自転車は走り出す。
「・・・見てるよ、ずっと」
私の返事はきっと聞こえない。


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