東堂


コール音が続く。出るか、出ないか。
”・・・もしもし”
「おお巻ちゃん!ようやく電話に出てくれたな!」
しつけえんだよ、という気だるげな声に笑みがこぼれる。
「ワハハ、あいかわらず辛らつだな!」
”ったくオメーはよォ・・・ほんとそういうとこ変わんねえショ”
「実は巻ちゃんに報告したいことがあるのだよ」
”報告ゥ?なに”
「すまん、どうしても1番に伝えたくて我慢できずに何度もかけてしまった」
時差って知ってっか?と尋ねられハッとする。
「忘れていた!悪い」
”もういーわ”
「そう言わずに聞いてくれ巻ち」
”だーッから、いいってのは時差の話!んで?用ってなんショ!?”
ひとつ深呼吸をする。そして告げた。
「実はな巻ちゃん。・・・オレとなまえちゃん、結婚することになった」
しばらくの沈黙。
”・・・マジかよ!すげえじゃねえか東堂!”
「うお、」
予想外の大声に思わず電話を離した。
”とうとうやったな。おめでとう”
「ありがとう巻ちゃん・・・祝ってもらえてすごく嬉しいよ」
”祝うに決まってんだろ。しかしま、オメーと結婚するなんてなまえちゃんも物好きだよなあ”
「ずいぶんな言い草だな巻ちゃん・・・にしてもプロポーズというのは、やっぱり緊張するものなのだな」
へえーと巻ちゃんのニヤついた声がする。
”オメーは派手好きだからプロポーズも盛大にやったんショ?”
「いや、普通だぞ。シンプルなやつ」
”どんな?”
どんなって、とオレは口ごもる。
「だから、オレと結婚してほしいとかそういう・・・」
”ホォー”
「頼む巻ちゃん、カンベンしてくれ・・・」”あのトードーサマが真っ先に身を固めるとはなあ”「まあな、ちなみに場所は箱根の山頂だ」すると「ハァ!?」と叫ぶ声がした。
”な、さ、・・・やっぱバカだろオメー”
「なっ、ひどいぞ巻ちゃん!」
”なんでよりにもよって山なんショ!?”
「オレは山神だぞ!山頂は特別な場所なのだ」
”ハァー・・・んで、なまえちゃんはOKしたと”
「まあ、そうなるな」”へいへいご馳走さまショ”
「式には来てくれるだろ?」”呼んでくれンのか?”
「当たり前だろう!オレの人生の門出におまえがいなくてどうする!」
”いや言い方。ま、サンキュな。楽しみにしてるショ”
かけさせて長電話も悪ィしいったん切るわ、と巻ちゃんは言った。
”とにかくおめでとさん。日取りとか決まったら教えてくれ。んじゃな”
「ああ。ありがとう」
通話が切れたことを確認してひとつ息を吐く。
吉報を誰よりも先に告げたいと思った相手はかつてのライバルだった。もしかしたらそれは、彼女に想いを告げた時に見えた懐かしい景色のせいかもしれない。
「オレは世界一の幸せ者だな」


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