手嶋純太の告白


「2年の子が手嶋くんに告ったんだって」
「え?」
フラれたらしいけど、そう言って友だちは笑った。そんなの初耳だ。
「手嶋くん、なんも言ってなかった?」
「聞いてないけど」
「そっか。好きな子には内緒にしときたかったのかもね」
そうやってからかう、と言った私にけらけら笑いながら「んなことないって」と彼女は言った。
子供の頃から続いてきた幼なじみという居心地のいい関係を、たった一言で壊してしまう勇気が私には出ない。
話題を変えるつもりで「次の時間小テストだね」と言うと、
「だるいなー数学。文系科目にしとけばよかった」
と友だちは嘆く。
その時、
「なまえーいる?」
「!」
私を呼ぶ声に振り向けば、廊下で純太が軽く手を振っていた。
「な、なに」
あわてて立ち上がって教室の外へ出る。
「あのさ、教科書貸してくんねえ?」
「なんの?」
「数III」
「あ、ごめん。私も同じ」
「オレは4限。これから体育だから先言っとこうと思って」
「そっか、なら大丈夫」
悪ィな、と純太は笑う。
「始まる前に取りに来るわ、じゃあまた後で」
変なこと言わなかったかな、動揺してたのばれてたらどうしよう。
短い会話を心の中でくり返しながら席に戻るとにやにやした友だちが「よかったじゃん」と言った。
「うん」
「やっぱ脈あると思うけどな。いくら仲良くたって、フツーは女子から借りないもん」
「そうかなあ」
「そーそー。なまえは幼なじみって言葉でなんでも片付けすぎ」
チャイムが鳴って、私たちは会話をやめて前を向く。
半分は授業に集中しつつ、もう半分は好きな人のことでいっぱいだった。
人あたりがよくて優しい性格の純太のことを好きになる子は多い。3年になってからは特に。
誰かと付き合ったなんて話は聞かないけど、そうなったら私は死んでしまうような気がする。それくらい、彼に対して片想いをしている期間が長いから。
・・・私じゃだめかな。好きだってやっぱり自分からは言えないよ。顔を見るだけでも胸がうるさくて、まともに話せている自信もないのに。
4限の前、再び彼はやってきた。
「はい教科書」
「サンキュ、お礼に今度ジュース奢るから」
「ありがと。たまたま私が持っててよかったね」
皮肉のように聞こえたかもと一瞬で焦る私に、
「いやーマジなまえのおかげで助かったわ」
と純太は笑う。
「あのさ、今日一緒に帰らねえ?」
「えっ、でも部活は?」
テスト週間だろ、と彼は言った。
「あ、そっか」
「忘れてたのか?よかったな、たまたまオレが覚えてて」
まるでさっき私が言ったような言葉が返ってきて思わず笑ってしまう。
「外で待ってればいい?」
「いや、終わったら教室に行くから待ってて。お、」
青八木!と遠くにいる親友に声をかけて、
「じゃあまたあとで」
と純太は行ってしまった。残された、ほうけている私。
「(マジか・・・)」
ヨッシャ、と心の中でガッツポーズをした。もうテストでもなんでもこいって感じだ。

***

そわそわしながら帰り支度を整えている私の耳に、
「なまえー」
と呼ぶ声が聞こえて心臓が跳ねた。き、来た。
急いで席を立って「お待たせ」と言うと、
「ん?いや、今来たばっかじゃん」
「そっか」
あーばか私。もうしくじったよ。するとクラスメートの男子が、
「手嶋ーカノジョの迎えか?」
とからかう。純太は、
「ちげーよ」
と軽いトーンで答えた。
「またまたーホントはお前ら付き合ってんだろ?」
「それが違うんだな。行こうぜなまえ」
「あ、うん」
つきん、と胸の奥が痛い気がした。
やっぱり私たちはいつまで経っても幼なじみのままなんだ。いつか純太に彼女ができたら、こんなふうに一緒に帰ることも教科書の貸し借りもなくなっちゃうんだ。
そう思うと、なんだか気持ちの中にあった風船みたいなものがしゅんと音を立ててしぼんでいく。
・・・あんなに帰るのが楽しみだったのになあ。靴を履き替え、自転車を取りに行った純太が戻るのを校門で待つ。
「わり、お待たせ」
「ううん。行こっか」
ロードバイクには乗らず、車体を押しながら純太は「青八木がさー」と話し出す。相づちを打ちながら歩いていると「あのさ」と彼は立ち止まった。
「もしかしてなんか怒ってる?」
「え、なんで?」
鋭い。正確に言えばへコんでいるんだけど。
「や、なんとなく」
「怒ってなんかないよ」
「ならいいけど・・・」
なんもよくないわ。あーもう、どうしてくれるんだこの気持ち。いっそただの友だちだって割り切れたらいいのにな。
「テストやだよなあ。勉強してる?」
「もう分かんない・・・」
「分かんないって・・・あ、」
ぽつ、と鼻の頭に水滴が降ってくる。
「やべ、オレ傘ねえ」
「私持ってる、折りたたみだけど」
あわてて取り出してバッと開く。
「(せ、狭・・・)」
ただでさえ小さい1人用の傘の中、急に近づいた距離に動揺してしまう。
「ごめん、自転車濡れちゃうね」
「あーいいよ、濡れても平気だから」
ごめんな、と純太の声が耳元で響いた。ひゃああああ勘弁して・・・!
しとしとと肩が濡れるのを感じながら歩いていると、
「あのさ」
「うん」
「うちの部、今年もインハイ出るじゃん」
隣を歩く純太の表情は見えない。
「終わったらさ、オレ、なまえに言いたいことある」
「え、」
何を、そう聞き返そうとして見上げた瞬間、傘に溜まった水滴が盛大に降ってきた。
「どわっ!」
「あっごめん!」
一瞬でびしょびしょにしてしまったのが申し訳なくてハンカチを出そうとしていると、
「いいって、もうすぐ着くし」
「でも」
「大丈夫だって。なまえこそこれ使って」
カバンを漁る純太の上に傘を傾けていると、差し出されたタオル。
「純太が使いなよ」
「カサ借りといて自分だけタオル使うってのはねえだろ。早く、テスト前なのに風邪ひくぞ」
テスト前なのは純太も同じじゃん。そう思いつつ、
「ありがとう」
と素直に受け取って軽く肩を拭う。
「そのまま掛けとけよ。んでまた入れて」
「はいはい・・・で?」
「ん?」
言いたいことってなに?と尋ねれば、
「だから、インハイ終わったらだって」
と返ってくる。
「なんで今じゃないの、」
「食い下がるなあ・・・インハイあるからだよ」
「インハイと関係あるの?」
しばらく考えてから、
「・・・ある」
と純太は答えた。
「くっそー、気になるなあ」
「くっそーって!はーおっかし・・・なあ、なまえはさ」
好きなやついんの?と何気ない口調で質問がくる。え?は?もしかして言いたいことって恋愛相談なの?
「・・・いる」
「そっか」
「純太は?」
そう聞き返せば、
「いる」
と彼は言った。
「そうなんだ」
目の前が真っ暗になった気がした。好きな人、いるんだ・・・。
「おーい、なまえんち着いたぞ。どこまで行くんだ?」
「あ、え?」
いつの間に到着していたらしい。
「じゃな。あ、傘借りてっていい?」
「いいよ。もっと大きいの持ってくるから待って」
玄関を開けて普通の傘を開いて渡す。
「サンキュ、明日返すから。それじゃ」
「うん、じゃあね」
ドアを閉めてのろのろと靴を脱ぐ。
「(好きな人いるんだ・・・)」
ショックだった。いやもう、私ホントにだめになっちゃうかもしれない。テストもあるのに。
「ただいまー」
はた、と考える。言いたいことってなに?
「(・・・ひょっとして、)」
いや、ないない。やめようこんな都合のいい妄想をするのは。だって、だとしたらあんな会話するか?でも、だけど・・・
「うーーーーん・・・」
頭の中がぐるぐるする。インハイの後、純太は私に何を言うつもりだろう。
こわい。・・・でもちょっと、ほんのちょっとだけ、
「(期待してもいいのかな・・・)」
インハイまであと2ヶ月。胸の中は不安と緊張、少しの期待ともどかしさでいっぱいだ。

***

あの雨の日から、純太とはほとんど話をしないまま夏休みに入ってしまった。
夏期講習に模試。純太よ、夏が終わって受験に困っても知らんぞ・・・とはいえ彼はテスト勉強ばかりの日々を過ごしている私とは違う、充実した時間を駆け抜けているんだろう。
そういうことができるのは正直、羨ましい。私は運動部じゃないから大会なんて出たことがないし、ロードバイクに跨ったこともない。
荷台がついてたら2人乗りできるのにね、と言ったら「ロードに荷台てだっせ・・・!」と大笑いされたことがある。
携帯の画面を見つめながら考える。・・・連絡、してみようかな。たまにはいっか。

“元気?”

と一言だけ送ってみると、すぐに返ってきたメッセージ。

“今インハイ2日目”

そうだったんだ。なんだかすごいタイミングで連絡をしてしまったらしい。

“勝ってる?”

しばらくして、ぱっと画面が光る。

“勝つ。そのためにやってきたんだから”
“見に行ってもいい?”
“いいけど、今年は栃木でやってんだ”

栃木・・・!?まさかの県外だとは。行けないことはないけど、栃木か・・・。
「うーーーん栃木・・・」
時計を確認する。20時。
頭の中で会場に着く時間から出発時刻を逆算してみる。お金は貯めてるバイト代から出すとして・・・そうだ会場、急いでホームページを検索する。これ、もしかすると行けちゃうかもしれない。
再び画面が光る。

“見に行きたいって思ってくれたのは嬉しいよ。
でも、全員がゴールできるわけじゃないから”
“どういうこと?”
“そういう仕組みなんだよ、ロードレースって”

自分はゴールに辿り着かないかも、ってこと?だとしても、やっぱり行ってみたいと思う。
この時のために純太がずっと積み重ねてきたことを知っているから、同じ空気を感じてみたい。
きっと目の前を自転車が通過するのは一瞬だろう。それでも、私の声がペダルを回す純太に届いてほしいと思ってしまったから。
分かったよ、と返信しておく。内緒で行こう。
待ってろ栃木、頑張れよ純太。

***

「あっつ・・・」
コースマップを見比べながら良さそうな場所に立って自転車が来るのを待つ。
目印は黄色いジャージ。6人いるけどたぶん分かると思う、髪形とかで。
スポーツドリンクを飲みながら携帯をいじっていると、
「どこの学校の応援?」
と話しかけられた。
「あ、総北です」
「総北!二連覇かかってるからね」
はいとうなずけば「でも箱根学園も強いよ」という答えが返ってくる。
「ラスト1秒まで目が離せない戦いだからねー」
そうなんだ・・・私が携帯をポケットにしまった瞬間、遠くのほうから「来た!」と聞こえた。
「あ、来るよ!」
観客席の空気が変わる。風を切って走るロードバイク。
「(純太じゃない、)」
青いジャージ、黄色いジャージ。その気迫に思わず「がんばれ!」と声をかける。彼らの姿はあっという間に彼方だ。
すごい。あれがロードバイクなんだ。
思わず手を握りしめる。それからしばらく経って、再び黄色いジャージがやって来るのが見えた。
「!」
純太だ。間違いない。目の前を通り過ぎる姿に、
「がんばれ純太!」
と叫ぶ。
一陣の風を残してあっという間に小さくなった背中をが見えなくなるまで、瞬きもせずに立ちつくしていた。
きっと彼は私がここにいたことを知らない。でも、それでいい。
たくさんの応援に私の声が混ざって、それが彼の背を押す力になってくれるなら。

***

「おーす」
「はよ、おまえ焼けたなー」
休み明けの学校。高校生活最後の夏を満喫した子、勉強に取り組んでいた子と肌の色はさまざまだ。
私もそこそこ勉強したつもりだったけど、それでもやっぱり少しは色が付いたような気がする。こっそりインハイを観に遠征したし。
「おはよーなまえ。休み中どっか行った?」
おはよ、と言いかけてまじまじと友だちを見つめる。彼女は「焼けたでしょ」と笑った。
「海行ったからねー。なまえ、手嶋くんとはどうなった?」
「どうもなってない」
「えーなんだそうなの?」
適当にごまかして「そういえば」と話題を変えた。

***

小テスト続きの1日も残すところあと2時間。
昼休みがの後の気だるい午後の空気の中、黒板を書き写す。面倒だけど、内申点をもらうにはノート提出が欠かせない。
ようやく5限が終わりラスト1教科は、
「(数学か・・・)」
帰ってアイスが食べたい・・・。すると頭上から声がした。
「みょうじ」
「あ、」
男バレのクラスメイトだった。あいかわらず爽やかだな君は。
「だらけてんなー」
「数学なんてテンション下がるよ」
「そう?俺は好きだけど」
その代わり英語苦手、と笑う彼とは同じ委員会に入ってから割と話すようになった。
「あのさ、話したいことがあるんだけど」
「なに?」
その時がらりとドアが開いて先生が入ってくる。
「6限終わってから東棟の屋上の階段で待ってる」
「えっ」
小テストだぞーという声。
一気に眠気が吹き飛んだ。ちょっと待って。
起立、礼、着席。それってまさか告白なんじゃ・・・いやいやない、絶対ないって。まさか、ねえ。
頭では冷静に考えているくせに、心臓ときたら告白予告(仮)のせいでドッドッドッドッと痛いほど鳴っている。
でもまだ決まったわけじゃないし、そう言い聞かせながら震える手でシャーペンを握る。・・・めちゃくちゃビビってるな私。
結局、時計と睨めっこして授業は終わった。ついでにテストも。
「なまえー帰る?」
「ごめん、私ちょっと用ある」
そうなんだ、と友だちはあっさり納得した。
「?どしたの」
「いや・・・ううん、なんでもない」
怖いくらい動揺しているのを感じながら、人目を避けて階段にやって来た。一段登るたびにめまいがしそうだ。
「あ」
ごめん呼び出して、と彼は言った。
「ううん、大丈夫」
「そっか。あのさ・・・、」
9月の熱気にさらされて向かい合っている私たち。彼は固い表情のまま告げた。
「俺、みょうじが好きなんだ」
やっぱりそうだった・・・でもなんで私?納得と驚きと疑問が頭の中でぐるぐるになる。
「急にこんなこと言ってごめん。でももし良かったら付き合ってもらえないかな」
私は「ごめん」と乾いた声で言った。
「そっか・・・どうしても?」
「うん・・・」
彼は「そっか」と再び呟く。
「ごめん。でも、ありがとう。言えてよかった」
ありがとう、と私は答える。
「こっちこそ。暑いのに来てくれてありがとう・・・じゃあ」
階段を駆け降りていく白い後ろ姿。暑いはずなのに、緊張しすぎて汗なんかかいていない。
「ハーッ・・・」
張り詰めていた息をようやく吐き出す。瞬きするのも忘れていたかもしれない。
今しがたの出来事を頭の中で何度も再生しながら、とっくに閑散としている教室に戻った。のろのろと帰る支度を整えていると携帯が震える。
純太だ。

“もう帰った?”

帰るんだよ今から・・・ようやく解放された緊張が、幼なじみからののんきなメッセージでいらいらに変わってしまいそうだ。

“今から帰るとこ”
“一緒に帰らねえ?”ちょっと部活に顔出してからになるけど”

慣れない経験でだいぶ神経がまいっている。今の私では優しい対応はできんぞ純太・・・。コンビニで待ってる、と返信すると、

“了解”

と返ってきた。
先に校門を出て、帰り道の途中にあるコンビニのラインナップをぼんやり観察する。
なんだかまだふわふわしている。嬉しいとかそういう意味じゃなく、告白という非日常的なことがあったから。
「お、いた」
「!純太」
あちーなー、と彼は手うちわであおぐ。
「コンビニで待つの正解だわ。なんか買ってく?」
「・・・アイス」
半分こできるタイプを選んで、レジを終えた彼から受け取る。
「オレの奢りな」
「知ってる、ありがとう」
今さら緊張の第二波が来ているような気がした。手の中で熱を逃していると、
「食わねーの?溶けるぞ」
と純太が言った。
「あ、食べる・・・」
「なんかあった?」
私はしばらく迷って「あった」とぽつりと答えた。
「なあ」
「ん?」
「ちょっと、どっか寄って話さねえ?うち来てもいいし」
ついでに夕飯食ってけば、と彼は笑う。
「いきなりお邪魔したらおばさんに迷惑かかるよ」
「そうかな、あんま気にしねーと思うけど・・・なまえちゃん元気?ってしょっちゅう聞かれるぜ」
ふうん、と答える。手の中でアイスが溶けていく。
私は「告白されたんだ」と言った。
「え・・・は、マジ?」
「うん」
それで、と純太は聞き返す。
「もしかして付き合ったりしちゃった・・・?」
「ううん、断った」
「そっか・・・そういや、好きなやつだっけ?そいつとはどうなん?」
「別にどうもしない。けどかっこよかった」
インハイで一瞬だけ見えた、必死で真面目な横顔がずっと離れない。
「あのさ・・・なまえ、インハイ来てた?」
そう聞かれた瞬間、ぎゅっと心臓が思いきり掴まれたような気がした。いや、やましいことはない。
「うん」
「やっぱり!いきなりなまえの声が聞こえた気がしてさ、でも振り向くワケにもいかねえし。オレあの時マジで幻聴かと思ったもん」
頭も体もフラフラでさーと純太は言った。
「けどあの声聞いた瞬間、元気出たんだよな」
「そ、っか」
良かった。私なんかの小さな応援が純太の背中を押す力になれて。ふいにあの時の熱や気持ちを思い出して、胸の奥が熱くなる。
「純太、おめでとう」
「ありがと・・・ってなんでなまえがうるうるしてんだよ」
ありがとな、と言われて涙腺が決壊してしまった。ぽつぽつと両目からこぼれた涙。
「うお、まじ?」
「違う、間違えたごめん」
言い訳しながら手の甲で拭っていると、ふいに純太は足を止めた。
「なあ」
「なに、」
「オレにしとけば」
振り向けば、彼の耳が赤くなっている。
「凡人だけど、料理とかそこそこ作るし、割とマメだから記念日とかも覚えてると思うし・・・あー、だから」
向き直った純太は言った。
「オレと付き合ってください」
・・・フリーズした。
何が起きているの?1日に2回も告白されることなんてあるんだなあ、なんて頭の隅でぼんやり思ったのはきっと現実逃避に違いない。
好きな人から告白されるのなんて初めてだ。私はずっと純太が好きだったから他の人はありえないけど。
「おーい」
「あ・・・いや、あの、ちょっと待って・・・」
待つ待つ、と純太は苦笑する。
「ホントに?嘘じゃない?」
「なんでこんな嘘つくんだよ。ホントだよ」
私も純太が好き、と呟く。
「・・・マジで?」
「うん」
「うわー・・・なんかすっげー嬉しいかも・・・」
赤くなった顔の半分を手のひらで隠す純太と目が合う。
「なまえ、顔まっ赤」
「純太こそ」
知ってるわ、と彼は照れたように笑った。
「・・・よろしくな」
「うん」
信じられない。こんなことって、人生に起きるんだなあ・・・。
再び並んで歩きながら、
「夏休みの前の言いたいことって、」
と言いかけると「あーそれ、今のやつ」と純太は答えた。
「つかホントびっくりしたわ・・・なまえが好きな相手いるって言った時、内心めちゃくちゃ動揺してたもんな」
「そうなの?」
「うん。なあ」
やっぱ家寄ってけば、と純太は言った。
「そんで夕飯食ってけよ。今日はカレーだって」
「やった!行く行く」
さっきまで遠慮してたくせに我ながら調子いいな、と呆れてしまうけど仕方ない。
オレンジ色に照らされて並ぶふたつの影。きっとあっという間に季節は過ぎていく。夏の終わり、私たちをつなぐ関係は、幼なじみじゃなくなった。


- 48 -