荒北
「!痛ッて」
「っすいません」
擦りむいた肘に触れた瞬間上がった声にあわてて手をひっこめる。
「・・・悪り、いーよ」
ばつが悪そうな荒北さんのお許しが出たため、遠慮なく消毒液を付けた。
「ぐッ・・・」
「すみません、もうちょいですから」
マネージャーさァ、と荒北さんは唸る。
「マジでそーいうとこあるよなァ」
「だってだらだらするほうが痛みが長引きますし」
ガーゼを当ててテープで止め、おしまいにネットをはめる。
「はい、終わりです」
「おーすげ」
伸ばしたり曲げたりをくり返している姿に、
「あんまり動かすと取れますからね。お風呂も気をつけて入ってください」
と注意をする。
「ア、そだ風呂。どうすんの?」
「取らない方がいいとは思いますけど・・・やっぱりもう一度し直すのがいいのかなあ」
「自分でなんてできねェよ」
「どなたかに頼んどきましょうか」
「んーどうすっかなァ」
すると彼は突拍子もないことを言った。
「んじゃ風呂から上がったらいったん外出るわ。だからマネージャーもっかいやり直してくんない?」
「エッ!?そ、外でやるんですか?」
「ベプシおごるから」
「いや、いいですけど・・・」
「なに、ベプシきらいかよ」
「そういうことじゃなくて」
なら学食おごる、と荒北さんは言った。
「悪いからいいですよ。分かりました。ガーゼ、外で直しますね」
「アンガト。それから、おごってやるっつってンだから素直におごられとけ」
軽くオデコをはじかれ私は「いて」と呟く。
「ありがとうございます。お昼、楽しみにしてます」
さっそくメニューを確認しなくては。
「たぶん20時くらいになると思う、そン時になったら連絡する」
「分かりました。あ、でも私、荒北さんの番号知らないです」
「ん」
「え?」
差し出されたそれを思わず受け取る。
「オレの番号」
「あ、はい」
その時、ドアが開いて先輩たちが顔を出した。
「靖友、大丈夫か?」
「ずいぶん派手に転がったな」
「ウルセー転がってねーわカチューシャ」
「な!カチューシャは関係ないだろう」
あいかわらず悪口のボキャブラリーが貧相だな、と東堂さんは笑う。
ウッセと悪態をつきながら荒北さんは立ち上がった。
「んじゃ行くわ。アンガトネ」
あ、はいと私はまたうなずく。
彼らがいなくなってようやく、手の中のノートの切れ端に目を向ける。
それはまるでずっと握られていたかのようにしわくちゃだった。
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