手嶋
※IH2年目
「うーん・・・」
放課後、部活が終わったあと少しだけ居残ってインハイの作戦を練る。
「(無難な策でいくか、それとも可能性に賭けるか・・・)」
時計を見上げれば下校時間が迫っている。その時、教室の外から最近付き合い始めたというクラスメイトの話し声が聞こえた。
集中が途切れて指先でペンを回す。
「(・・・彼女ねえ)」
このところ忙しすぎて、彼女がどうとかっつーのは別の次元の話だ。そういや、小野田は2次元がどうのとか言っていたな・・・いやいや、オレはやっぱり3次元のがいい。
一緒にいると楽しくて、話してて飽きない、優しくて可愛い歳上の、
「・・・は?」
思わずペンを取り落とした。
なんで今オレ歳上って限定した?同学年でも後輩でもいーじゃんか。だって、オレのよく知っている歳上と言えば1人しかいない。
そりゃみょうじ先輩にはいっぱい世話んなったし、まあその逆もあったけど・・・むり無理あの人なにげにモテたし、と自分に言い聞かせる。
入部した時は右も左も分からない中、とにかくなんでも一生懸命にやる人だった。今年もマネージャーをやって欲しいくらいだ。たとえば、今みたいに行き詰まっている時とか話ができたらいいのにと思う。
今なにやってんだろうな。バイトとかしてんのかな。それとも彼氏とかいたりしてさ。
「はあ・・・・・・」
やめやめ。こんな理由でため息つくとかオレらしくない。
ちら、と携帯に目をやる。・・・連絡したら迷惑だよな。
オレからしたら大学生がすげえ大人に感じるように、高校生なんて子供っぽく見えるんじゃないか。先輩がそういうのを気にするような人なのかは分かんねえけど、そうじゃなければいいと思う。
いや、だからどうってワケじゃねえよ?ただ、もし付き合っている相手とかいたら悪いし。
頭の中は作戦のことでいっぱいだった。インハイじゃなく、どうすれば今さら連絡をしても気まずくならないかという作戦の。
話してえな・・・けど、やっぱうざいかな。しばらく携帯の画面を眺めてから、苦肉の策でスタンプを送ってみた。
「お、」
すぐに既読がつく。まじか。
“手嶋くんからの新しいスタンプ、スクショした”
なんでだよ、と思わず笑みがこぼれる。たしかにこないだ買ったばっかのやつ送ったけど。そうそう、そういえばこういう人だったわ。
指先だけで会話が続く。
“元気ですか”
“元気です、手嶋くんは?”
“元気です”
「ふっ、」
なんだこのやりとり。誰もいない教室、思わず笑ってしまう。
“大変?”
“まあまあですね”
“そっか”
それから先が続かない。・・・勇気を出して、少しだけ図々しくなってみようか。
“今、忙しいですか”
“ううん。なんで?”
少しだけ電話してもいいですか、とメッセージを送った。いっそ声が聞けるだけでも良い。
「!」
すぐに着信を知らせる画面に変わる。通話ボタンを押して「もしもし」と緊張する声を出した。
“もしもし、手嶋くん?久しぶりだね!”
去年と変わらないテンションがなつかしい。
「久しぶりです、いきなり連絡してすみません」
“いいよいいよ全然、手嶋くんの声が聞けて嬉しい”
明るい声が耳元で響く。
まじか、まじか。ていうかなんでこんなに舞い上がってんだオレは。
「実は、部活の仕事でちょっと手こずってて。それでなんとなく、先輩の声聞けたらなって思ったんです。いきなりでホントすいません」
いいよとふたたび先輩は笑う。
それから10分、30分、あっという間に時間が刻まれていくのを目で追いながらはっとする。やべ、あんま電池ねえかも。
“あのさ”
「はい」
“手嶋くんが空いてる時でいいからさ、なんかおいしいもの食べに行かない?”
「え、」
気分転換になるんじゃないかと思って、と先輩は言った。それって2人でですか、という言葉がどうしても出てこない。
“手嶋くん?”
「あ、いや、なんでもないです!」
“そう?じゃあ金城くんたちにも声かけとくね”
「あ、ハイ・・・」
電池を理由に電話を終える。だよなあ・・・。
「(いや、)」
いいんだ今は、これで。すべてはインハイが終わってからだ。待ってろよ、みょうじ先輩。
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