総北


デパートのコスメ売り場。
妹に付き合わされている間、手持ち無沙汰にその辺を眺める。
「(・・・へえ)」
ハンドクリーム。
頭の中に、いつも洗い物をしたりボトルを用意してくれているマネージャーの指先が思い浮かんだ。あんまりまじまじと眺めたことなんてないから荒れていたかまでは分からない。
ちょっと悩んでから、サイフを取り出しそれを買う。荒れていないなら、これで手荒れを防いでくれれば良いし、荒れているならきっとマシにはなると思う。シアバターとかいうのが入っているし。

「おっ」
頼まれたおつかいのために並んだスーパーのレジ横に並んだハンドクリーム。
ふいにマネージャーの先輩を思い出した。いきなりこれをプレゼントしたらもしかして、
「キャー鳴子くんありがとう気が利くわあ」
なんて喜んでくれたりするやろか。たまにはロード以外でもいいとこ見せたろ、そう思ってカゴに放り込んだ。

アキバのドラッグストア。
「はっ、これは・・・!」
あわてて自分の口を塞いでそれを手に取って眺める。
このラブヒメコラボのハンドクリーム、めっちゃくちゃかわいい・・・!でも僕が使うのはちょっとなー・・・。
諦めかけた時「そうだ」と思いつく。マネージャーさんにあげよう。女の人だし、きっとこういうのも使ってくれるかもしれない。
店員さんにラッピングしてもらったそれを大事にリュックにしまった。

***
「マネージャーさん!」
水仕事をしている背中に呼び声がかかって振り向く。
「鳴子くん」
「なんっとプレゼントです!」
ジャーン!という声と共に差し出された、赤いパッケージのハンドクリーム。尿素とでっかく書かれている。
「えーいいの!?ありがとう!」
「もっちろん!いつも頑張ってくれてありがとうな」
母の日かよ・・・!嬉しすぎて呻きそうになるのをこらえる。その時、
「あ、いた!マネージャーさん」
わざわざ走ってきた小野田くんは息を整えながら「あの!」と何かを差し出す。
「・・・ハンドクリーム?」
「はいっ、あの、いつもいろいろありがとうございます!」
鳴子が「お、小野田くん・・・!」とよろける。
「ワイとしっかりかぶってもうてるやん!」
「ええっ、そうなの・・・!?ご、ごめんね鳴子くん」
「ええよ別に、けどちょっと驚いたわ」
ローズオイル配合、ラブヒメコラボの限定パッケージ。
「すごい、初めて見た」
「アキバ限定らしくて。僕はそういうの使わないんですけど、よかったら」
小野田くんからもいただいてしまった。感無量だ・・・。
「ありがとう、大切にするね・・・」
「な、泣いとる・・・」
「涙・・・!?」
すると、今泉と目が合った。こちらへやって来た彼は「どうぞ」とラッピングされた何かを差し出す。
「なんやスカシそれ」
「別に」
あいかわらず鳴子相手だとドライな反応だ。今泉は私に向き直ると、
「ハンドクリームです、良さそうなのがあったんで」
と言った。なんと、またしても。
「いいの?」
「はい、いつもお世話になってるんで」
すると「ちょっと待てえい!」と鳴子が叫んだ。
「な、ん、でっ、よりによってハンドクリームなんや!!空気読め」
わけも分からず怒られた今泉の眉間にシワが寄る。
「いきなり突っかかってきてなんなんだお前」
「まあまあ鳴子くん、今泉くん実は・・・」
小野田くんの説明を聞いて彼はぽかんとした。
「はあ、3本も・・・」
「まあ?ワイのが一番効くに決まっとんのやけどな、ニョーソって書いとるし」
次点は小野田くんや、と鳴子は笑う。
「オレが買ったやつはオーガニックだぞ、次点は小野田、お前のは知らん」
「知らんってなんや!?ちゃんとしたやつ買うてきたわアホ!」
「まあまあ落ち着いて・・・」
私はそれを大切にポケットにしまう。
「これ、大事に飾るね・・・開封すると劣化するから袋に入れとく」
「「「使ってください」」」


- 38 -