(2)
トレーニング用具やサイクル関係の備品ばかりが並んでいる部室。当たり前の光景だけど、なんとなくさみしい。
少しくらいならスペースを使ってもばれないんじゃないかと思い、手のひらサイズの多肉植物をふたつ窓のそばに置いてみた。
ぷっくりとしたフォルムが愛らしい。
実はもう名前を付けてある。アンディとフランク。
部屋の隅の窓辺なら誰にも気づかれないだろうと思いながらたまに霧吹きで水をやっていると、
「あれ?」
という声がした。
「その植物、みょうじさんのだったんだね」
「ばれてたかー、そうなの」
泉田は「ずっと気になっていたんだ」と言いながら手元を覗き込む。
「可愛いね。そんな立体的な草があるんだ」
「多肉植物っていうんだよ。実は名前も付けてあるの」
「へえ、どんな?」
「アンディとフランク」
えっ、と彼は言った。そりゃそうだ。
「それはボクの大胸筋の名前だけど・・・」
「愛着がわくかもと思って・・・勝手に付けてごめんね」
「いや、いいよ。そう言われるとなんだか可愛く見えてくるね」
泉田はそっと指先でふくらんだ葉を触る。
「なるほど。この質感、まるで筋肉のようだ」
「水分なんですけど・・・」
その日から彼もいろいろと気にしてくれるようになった。
「今日は天気が良いからすこしだけ窓を開けておいたよ」
「ありがとう、アンディとフランクも喜ぶね」
そうだね、と泉田は笑う。そして、
「ボクも植物を買ってみたんだけど、アンディたちの隣に並べてもいいかな?」
と言った。
「もちろんいいよ。なにを買ったの?」
これだよ、と彼は取り出す。サボテンだ。
「丸くて小さなトゲがたくさん生えているのが福富さん、太いトゲが生えているのは荒北さんって呼ぶことにしたんだ」
「福富さんと荒北さんかー」
「本当は新開さんって呼びたいんだけど悠人がいるからね」
そうだった。たしかに部長がサボテンを「新開さん」と呼んで可愛がっていたら複雑な気持ちになるだろう。
「2人にも水をあげないと」
「そんなに頻繁にあげなくてもいいから楽だよね」
むしろあげるのを忘れてしまいそうになる。
「そうなの?毎日お世話したいくらいなんだけど・・・そうだ、プロテインとかあげたら大きくなるかもしれない」
「ならない」
***
最近、みょうじと塔一郎が仲がいい。今日も廊下でなにやら盛り上がっている。
「前に比べてアンディが成長したと思うんだ」
「私も思ってた!同じ環境で管理しているのに、きっとフランクはのんびりしてるのかもしれないね」
のんびりした筋肉ってなんだよ。ていうか別に、変わった感じしねェけど。
「フランクに触ったらちょっとだけ弾力が増してたかも」
「やっぱり少しずつ大きくなっているんだね」
おいおいおいおい。弾力が増してるってなんだ。触ってンのかおまえは、フランクに。
「なァ、おまえらさっきからなに話して、」
そういえば、と塔一郎が沈んだ声で言った。
「福富さんの元気がないんだ」
「そうなの?どうしたんだろう・・・もしかして泉田、ほんとにプロテインとかあげてないよね?」
「あげてないよ。栄養剤だけ」
栄養剤って、福富さんに何かあったのか・・・?2人が個人的にやりとりをしていたことも初耳だ。
「えー!まさか1本分じゃないよね!?」
「そうだけど・・・まずかったかな」
さすがに多すぎると思うんだけど、とみょうじに躊躇いがちに告げられた塔一郎は青ざめる。
「まずい・・・!荒北さんにも挿してきてしまったから早く抜いてやらないと」
「はッ・・・!?」
オイ!とオレは思わず割って入る。
「おまえ荒北さんになにをしたんだ!?」
「ユキ。びっくりした」
「びっくりしてンのはこっちだわ!福富さんが元気ないってのも気になるし、荒北さんに至っては何をどうしたんだよ!!」
「あ、いや、だから栄養剤を・・・」
ちょっと待って、とみょうじが仲裁しようとする。
「だいたいおまえもむやみに塔一郎の体に触ってんじゃねえ!ヘンなウワサが立っても知らねェぞ!」
「は、はあ!?触ってないし!」
「ウソつけ、さっきおもいっきり言ってたじゃねェか。フランクの弾力がどうとかって」
「・・・あ」
肩で息をつくオレに対し「ユキは誤解してるよ」と塔一郎が言った。
「ア!?誤解って、」
「実は・・・」
***
「こっちがアンディでこっちがフランク。それでその隣にいるのが」
福富さんと荒北さんだよ、と言うふたりの説明をオレはげんなりしながら聞いていた。
「分かるかそんなん!」
「これに関してはボクたちも悪かったと思うけど・・・」
「もともと部室の隅でひっそり育てるだけのつもりだったしねー」
こっちがフランクだよ、とみょうじが差し出す植物におそるおそる触れてみる。
「おお・・・なんかプニプニしてんな・・・」
「どうせなら東堂さんもいてほしいな。そうなるとやっぱり新開さんも・・・」
「だったら私はファビアンを置きたいな」
緑に侵食されていく部室を想像する。
「・・・これ以上増やそうとすンじゃねェ!!」
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