(1)
10月。
どこのクラスでも文化祭の出し物の話で盛り上がっている。
もっとも3年生の私たちには関係がない。それよりも大きな舞台が3月に控えているからね・・・。
ため息をついていると「マネージャーさあん」と真波がやってきた。
「オレ今年ミスコン出ることになったんです」
「へー!すごいね」
ミスター&ミスコンテスト。各学年と、学校一の美男美女が投票で決まる。真波ならひょっとすると総合優勝だって狙えるかもしれない。
「お願いがあって。スカート貸してくれません?」
「なんて?」
「あれ、もしかして知りませんでした?今年は逆転ミスコンなんですよ」
「逆・・・?」
「男装と女装で逆ミスとミスターを選ぶんです」
へえそうなんだ、と思う。
「え、それでスカート欲しいの?」
「欲しいワケじゃないんですけど・・・貸してもらえると助かるなあって」
私のスカートを真波が履く。それは、
「ちょっと無理かなあ」
「そう言わずにお願いします」
ちゃんと洗って返すんで、と頭を下げる彼にあわてて弁解する。
「いやとかじゃないよ。ただ、真波の割れた腹筋で履くのはきついんじゃないかと思って」
「そっか、そうですよね。先輩も女子ですもんね」
「もってなんだ」
失礼なやつめ。
「ユートも出るんですよ」
「そうなの?」
「はい。なんか気合い入れるって言ってました」
そういえば少女願望があるって話だ。どうなるんだろう。
「真波はともかく、悠人くんはしっかり男の子の顔だちだからどんなふうに変わるか楽しみだねー」
「それ、オレが女の子みたいってコトですか?」
すねたような口調で真波は尋ねた。
「そう意味じゃないけど、逆ミスだったらなんとなく真波のほうが有利そうだと思って」
「でもオレ負けませんよ。逆ミスでも男らしさでも」
真逆の方向性なのに自信すごいな。
***
部室のドアを開けようとして止まる。言い争うような声が聞こえたからだ。
「そんなの知るかよ!」
「ひどい!ちゃんと選んでください」
揉めている。こっそり様子をうかがおうと覗いていると、声の主が目ざとくこちらに気付いた。
「みょうじ先輩!聞いてくださいよ、黒田さんがひどいんです」
「なんッでだよ!悪いのオレかよ」
女心が全然分かってないす、と悠人くんはそっぽを向く。
「オマエだって野郎だろうが・・・!」
「まあまあユキちゃん。いらっしゃいみょうじ」
葦木場くんのふしぎな挨拶に「おじゃまします」と答えて中に入る。
「ここは家か!おまえは子どもの友だちに声をかけるお母さんか!」
あいかわらず黒田は元気だ。
「先輩、ドリンク飲みますか?」
「ありがとう真波、おかまいなく・・・えっ」
二度見した。
スカート履いとる。レーパンも履いてるけど。
「これ、演劇部から借りたんですよ」
「そうなんだ、よかったね」
男子サイズのスカート、小道具に使うのかな・・・それにしても足がごつい。
上半身はだぼっとしたセーターでごまかしているけど、スカートから伸びているのは鍛え上げられた下半身だった。
私の視線に気づいた彼は「そーなんですよねー」と笑う。
「上半身だけエントリーするってだめですかねえ」
ダメに決まってんだろ、と黒田が言った。
「それじゃアピールタイムどうすんだよ」
アピールタイム?と尋ねると悠人くんが答える。
「各自3分間の持ち時間があるんです。だからオレ、アイドルのダンス完コピしたのに黒田さんがメイク見てくれないんですよ」
彼は「どっちのグロスが似合うと思います?」と言って、オレンジとピンクのグロスを差し出す。
「オレ的にはこっちがフレッシュ、こっちはセクシーな感じだと思ってるんすけど」
「んなモン塗ったって見えるかよ」
「黒田さん分かってないすね。そんなんじゃ、彼女の変化に気付いてあげられないですよ?」
「余計なお世話だよ!」
ぎゃあぎゃあ聞こえている横で私は真剣に考える。
オレンジ、いやピンクか・・・?悠人くんがつけてるところをあんまりイメージできない。
「たぶんピンクのが濃いし目立つかなあ・・・」
あざっす!と悠人くんは嬉しそうに笑う。
「じゃあこっちにします」
「よかったねユート」
「はい!あ、じゃあオレンジは真波さんにあげますよ」
「オレに?つけるの、これ?」
「そうですよ。メイクしたほうが絶対いいカンジですって!」
えーでもつけ方分かんないよ、としぶる真波に悠人は、
「オレがやってあげますよ」
と嬉々としてグロスをきゅぽんと開ける。
「目つぶる?」
「つぶんなくても大丈夫です。あ、唇は軽く開けてくださいね・・・ん、いい感じ」
動かないで、と悠人がささやく。
・・・私たちは一体なにを見せられているんだろう。
「オレ卒業すんの不安なってきた」
黒田の言葉にうなずく。
「ユキちゃん留年するの?」
「しねえよ!」
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