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勉強会という名目で集まったカフェ。
結局は会話に花が咲いて、帰りがすっかり22時を回ってしまった。
広いくせに暗い道、響き渡るバイクの爆音。歩道を歩いているのに、すれ違うたびにスカートが揺れる。
「(早く帰りたい・・・)」
できるだけ急いで足を動かす。できることなら走って帰りたいけどそれもなんだかバカバカしい。
「アレレー?」
一台のバイクが止まる。
「なんか可愛い子が歩いてんだけどー?」
絡まれた・・・最悪・・・!
「ねえねえトーマンって知ってる?」
「はっ?ト、トーマン?」
よくよく見ればこのクソは東卍のトップクを着ていた。やっぱりこういう輩もいるんだな・・・。
「いや・・・すいません・・・」
「てかメアド教えてくんね?」
会話が通じない。きっとギッタギタのメッタメタにされるんだ・・・
「オイ、んな場所で止まってンじゃねえ」
「ア?はっ、あ、バジさん」
突然現れた場地くんは私に気付いて怪訝そうな顔をする。
「何やってんだオマエ」
「帰り道の途中で・・・」
「帰り?ガッコの?」
ファミレスにいたことを伝えると、場地くんは呆れたような顔をする。
「こんな遅い時間までほっつき歩きやがって」
「ウソ・・・場地くんに言われるとは思わなかった、すいません」
彼は「ハアー」と盛大な溜息をつく。そして、
「あそこのコンビニで待ってろ」
と言ってどこかへ行ってしまった。え?え???
仕方なく言われたとおりに店内に入ると時計が目に飛び込んでくる。22時。こんな時間まで外にいたとは。金曜日ってこわい。
なんとなくお菓子を眺めていると、いつの間にか来ていた場地くんに「おい」とどつかれる。
「イテ、場地くん」
「送る」
「えっ」
「買うならさっさと買え」
「あ、いや、えっとじゃあ待って」
あわててポテチやチョコを手に取り会計を済ませる。外で待っていてくれた場地くんに「ごめんお待たせ」と声をかけた。
「太んぞ」
「違うの、場地くんに」
袋を差し出すと場地くんは目を丸くした。
「は?なんで」
「だってわざわざ遠回りして送ってくれるから」
「おまえがこんな時間にチンタラ歩いてるからだろーが」
「だってつい…あ、ペヤング買ってない」
バイクにまたがった彼は「メット」とそれを放る。
「わ、!」
「菓子の袋、とりあえずしまっとけ」
言われた通りにバッグにしまい、リュックのように背負って場地くんの後ろにまたがる。スカートだけどしょうがない。振り落とされないようにしっかり捕まった。
「行くぞ」
「お願いします」
大きな音と強い振動の波。
「(千冬はいいのかな・・・)」
松野千冬とはまだ会っていない。遠くから見てみたいとは思うけど、積極的に絡まなくていい。成り行きでこうなってるとはいえ場地くんだってそうだ。
だって腹が減ってむしゃくしゃしたから車に火をつけるってイカれすぎでは???
バイクの躯体が勢いよく左に曲がる。
「うおお」
うおおって、とツッコむ場地くんの声が聞こえた。
「アイマイミーマイン!」
「え!?」
「アムイズアー、ユーユアユーユアーズ!ヒーヒズヒムヒズ!シーハーハーハーズ!」
バイクを爆走させながら場地くんはbe動詞や三人称をでかい声で暗唱する。
「合ってっか!?」
「合ってる!!」
「ッシャ!」
テンションが上がったのを示すように蛇行するバイク。
「ぎゃああああやめてー!また警察来ちゃう!」
「サツぅ?ハッ、上等だよ」
気絶しそうになりながら家の前にたどり着いた時には、足に力が入らなくなっていた。
「送ってくれてありがとうございます・・・」
「オウ」
「あ、そうだお菓子」
ビニール袋を場地くんに渡すと、「律儀だな」と言って受け取ってくれる。
「ありがとな、もらっとくわ。千冬と食う」
「うん」
「あ、千冬ってダチな。ペケJ飼ってっから今度見してやるよ」
じゃーな、と言って場地くんは走り去っていった。
ペケJには会いたい、でもこのまま彼らと知り合っていくのはこわい。うまくいく歯車がうまくいかなくなったら。
「(とりあえず花垣さんには言っておこう・・・)」

***

「・・・ってことがありました」
ファミレス。目の前に座る花垣さんは「濃いなー」と言った。
「いつの間にそんなに場地くんと仲良くなってたとは・・・」
「たまたま偶然が重なっただけで仲良くはないんです」
「オレまだ場地くんのことよく知らないんだよね・・・でもヤベえってことは分かる」
あの節くれだったコブシで殴られたらめちゃくちゃ痛いだろう。
10月31日、場地圭介は死ぬ。そのストーリーは決まっていて、覆してはいけない。
・・・本当に?もしもこの物語の筋が変わってしまったらどうなるんだろう。来るべき結末が来なかったら一体どうなってしまうのだろうか。
「なまえさんは、この後どうなるか知ってるんですよね・・・?」
頷く。声は出ない。途端にひとつも情報を伝えることができなくなる。
「あっ!」
「えっ!?」
「場地くんにズボン返すの忘れた・・・!」
完全に失念していた。ジャージズボンを返さねばいけないのだった。ということは、もう一度場地家を訪れなければならない。
「終わった・・・もっかい場地くんちに行かないと・・・」
「なんで?」
「ズボン借りっぱなしなので・・・」
ああー・・・と花垣さんは苦笑した。
「あ、じゃあ今日が良いかもッスよ。集会あるんで」
「ということは、場地くんに・・・?」
「会わなくて済む!」
「最高です花垣さん!」
「なんか最近集会多くて。やっぱキナ臭くなってきてるんスかねえ」
おまいうなのは分かってるんですけど、と前置きした花垣さんは、
「みんな勉強とかどうしてんのかなあ・・・」
とゲッソリ呟いた。
「トーマンって高校生とかもいるんですか?」
「さあ、どうなんでしょう・・・?オレまだ親しくいヤツ全然いねえから分からないッスけど、けっこうガタイいい人もいるから年齢的には年上も全然いるかもしんないですね」
あ、いや、いる。ムーチョが。エス、エスなんとかというあれの、
「ムーチョが・・・う」
灰谷兄弟、と言おうとしてまたしても喉が詰まる。このワードもだめなのか。
「ムーチョ?」
「トーマンに、あの、年上で・・・います」
「へえーそうなんだ。やっぱマイキーくん人望あるんですねえ」
むちゃくちゃだけど、と言いつつ花垣さんはドリンクバーのおかわりのために席を立った。

***

期末テストに追われ気付けばカレンダーは8月を迎えた。
「(戻らない・・・)」
帰りたい、帰れない、とほほ・・・。バイトでもすべきかなあと考えながら8月の日付を眺めていると、ふとハチサン抗争というワードが浮かんだ。
「ん!?」
ハチサンってことは8月3日になんかあるってこと!?いや確実に抗争だな、でもどこで誰が・・・?そういえばもうドラケンは刺されたんだっけ?あとなんかパーちんがメビウスの長内くんを刺して逮捕されてたな・・・。
時系列は覚えてないけど断片的に何があったかは残っている。そういえばしばらく花垣さんに会っていない。なんか夏祭りがどうこうだったのを思い出し、8月3日にお祭りがあるかどうかを調べてみる。
「あった・・・」
点と点が繋がる。ペーやんの裏切り、キヨマサがドラケンを刺して花垣さんが「花垣武道でしょーが!」と大絶叫してオトしドラケンは一命を取り留め、花垣武道とヒナちゃんは、
「お、おおお・・・」
濃い。そしてこれには絶対に関わってはいけないのだと再認識して、あさっては何があっても家から出ないことを決意した。

***

ハチサン抗争が終わり1週間後。
図書館にこもって参考書と睨めっこしていると花垣さんからメールが届いた。

”お疲れ様です。一度帰ろうと思ってます”

この時点で帰ると何がどうなってるんだっけ・・・?次に花垣さんが戻ってくるのっていつ・・・?
「うーーーーーん・・・・・・」
勉強そっちのけでルーズリーフに思い出せるだけの展開を書き出してみる。穴だらけの年表。
たしかこっちに戻ってきた時は銭湯のシーンだった気がする、ドラケンがシャンプーハット使っててマイキーが笑ってて・・・それで・・・?

”お疲れ様です。花垣さんはトーマンに入りましたか?”

もう、と打とうとして文字が消える。そうか、もうトーマンに入ったか?だと入隊が確定することが伝わるからだめなんだ。
「ケチくせえ・・・」
思わず呟く。なんだこの歴史改変阻止ルール。
とにかく、彼のリベンジはこれで終わりではない。そして私はあくまでイレギュラーな存在であることを肝に銘じて、このアウトローな世界で生きていくほかないのだろう。
それに、仮に花垣さんのリベンジが成功したとしても、死んだ人間は生き返らない。佐野真一郎も、場地くんも。稀咲鉄太も黒川イザナも。それは私だって同じに違いない。
梵天という犯罪組織の中核にいたマイキーくんと花垣さんが死の直前にタイムリープしたところまでは読んだ。でも何がどうなってどうなった、みたいな有識者じゃない。
ドラケンくんのお腹はよくなったのかな。痛くて眠れない日もあっただろう。抗争なんて中学生が起こしていいものではないし、ましてや刺したり刺されたりなんてのは絶対にあってはいけないのだ。
お腹を刺されたドラケン、ブロックで殴られた三ツ谷、刺され撃たれた花垣さん、もしかしてこの世界って痛覚鈍いのかな?
シャーペンを手の甲に刺してみる。
「イッテ・・・!」
隣の席の学生が引いた顔をしてこちらを見ていた。


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