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あれから花垣武道には会っていない。もちろん連絡も取っていない。
今の彼は確実にリアル中坊花垣武道だから知り合いヅラするわけにはいかない。
本音を言えば、心細いなと思う。取り繕った関係性の友だち。希薄な親子関係。調べてみたところ、母は既に他界していて現在の父親とは再婚だということが判明した。
「(夢小説にありがちな展開だな・・・)」
ありがたいっちゃありがたい。さすがに17年間も培われた記憶や思い出は一朝一夕でカバーなんかできないからだ。
さて、夏休み真っ只中とはいえ、少しでも知識を詰め込むために勉強をしている。家にこもっていると気が滅入るので図書館通いの毎日。おかげで少しずつ思い出してきたものの、やっぱり英語理数はちんぷんかんぷんだ。ちょっとマシとはいえ国語も社会もちんぷんかんといった感じだけど・・・。
「はあ・・・やってらんねえ・・・」
本当なら今頃ボーナスもらってウキウキだったのにな・・・。アスファルトの照り返しがきつい。
その時、
「あれ、オジョーじゃん」
「!!!」
振り返れば甚平姿のマイキーが立っていた。
「私服だから一瞬誰か分かんなかった」
屈託なく笑う彼に「久しぶりだね」と乾いた声で答える。終わった。
タケミッチーそういやお嬢と会ったよと話して「誰すかそれ?」となるに決まっている。
「マイキーくん!」
「ん?」
「お願いがあります・・・!」
「おねがい?」
「まずは一緒にそこのコンビニに行きましょう」
とりあえず彼をすぐそばのコンビニに引きずり込み、「どれでも好きなアイスをどうぞ」と促す。
「え?いーの?」
「うん、いくつでも」
「溶けるからいっこでいいよ」
手に取った2本入りのアイスを奪い、レジでお金を払う。
「はい」
「よく分かんねーけどサンキュ。ほい」
「え?」
真ん中から割ったひとつを手渡されぽかんとしていると、
「一緒に食ったほうがうめーじゃん」
とマイキーは笑った。
「そんで?なに、お願いって。誰かシメてほしいとか?」
「違う違う全然違います。あの・・・私と会ったこと、花垣さ、くんに内緒にしてほしくて」
「なんで?てか別に言わねーけど」
「え、あっ、そっか、それなら別に」
墓穴を掘ったのかもしれないな・・・。
「なんで言っちゃいけねーの?」
「あの・・・ちょっと微妙な感じになってしまったので・・・」
「?ふーん」
マイキーはよく分かっていないような顔をする。たしかに自分でも何言ってんだこいつって感じだ。何も微妙ではないけど、とにかく取り繕うしかない。
「まあよく分かんねーけど黙っとく」
「変なこと言ってごめんね」
「いやー?てかオレもしばらく会ってねーんだよな」
今さらだけど、大人の花垣武道と中坊の花垣武道はよく辻褄を合わせてたな。もしも自分なら知らない間にヤカラの知り合いが増えまくってたらこわくて家から出られなくなると思う。
「お嬢さー」
「ハイ」
名前なんだっけ、とマイキーはあっけらかんと尋ねた。
「え?」
「ごめん、忘れちった」
そのまま忘れてくれて良かったんだけどなと思いつつ「なまえです」と答える。
「そうそれ。てかなんで敬語?前にケンチンもいらねーって言ってたじゃん」
「あ、そういえば・・・」
「だろー?」
「でもマイキーくん総長だし」
「なまえちゃんは隊員じゃねえじゃん。いいよ、フツーで。オレも年下だけど敬語とか使ってねえし。てか使えねー」
実にからりとしている。ふと、梵天のトップに君臨した姿を思い出して複雑な気持ちになった。
「そういやこの後どっか行くんだっけ?」
「うん、図書館に勉強しに」
「夏休みなのに?遊ばねえの?」
「遊びつつ勉強もしとこうかなって」
「んじゃ今日はオレとあそぼ」
「えっ?」
「このあとヒマなんだよねー。ケンチンも入院してっし」
「あ、え、そうなんだ・・・」
「タケミッチから聞いた?」
曖昧に頷いておく。
「そっか。んー・・・どうする?」
「どうって?」
「何がしてえかってこと。アイスもう食ったしなー。あ、オレんち来る?」
なんて?なんで???しかしマイキーが歩き出してしまったためしょうがなく後ろを着いて行く。
「やっぱりいきなりお邪魔するわけには・・・」
「いーって、じいちゃん今日いねえし。エマは、あ、妹ね。いるかもしんねえけど別にいいし」
無敵のマイキーの自宅は日本家屋だった。本を読んでイメージしてたよりもずっと大きい。
「ここね」
ただいまーという声が広い家に響く。返事はなし。
「エマいねえんかなー。ま、好きに座ってて」
大人びた部屋。ほとんどが佐野真一郎の物のはずだ。ベッドの上に目を向けた瞬間はっとする。あのタオルは・・・!
「(マイキーの大事毛布・・・!)」
こんなアホみたいな名前じゃないけど、とにかくメンタルを支える大事なものなんだろう。
「お待たせ。麦茶しかなかったけどいい?」
「うん、ありがとう」
「あちーね、エアコン勝手に点けてくれて良かったのに」
佐野真一郎の、マイキーの部屋。もしかしなくてもここ、めちゃくちゃレアな聖地なんだろうな・・・。
しん、とした空気。
「(何を話せば・・・)」
麦茶の氷が溶けるカランという音さえも鮮明に聞こえた気がした。
「なまえちゃんさ、もう怪我治った?」
「うん。あの時は助けてくれてほんとにありがとう」
「背負ってったのはケンチンで、ついてたのはタケミッチだし。オレはなんもやってねーよ」
言われてみればそうかもしれない。
「でも犯人見つけたらシメとくね」
「あ、ありがとう・・・あ、」
部屋の隅に無造作に置かれている黒い服。
「ああ、あれ。トップク」
ひえ・・・聖衣じゃん・・・。
「夏だから正直あれ着てっと暑いんだよなあ」
「冬も同じの着てるの?」
「ジャンパーはあるけど基本は同じやつだよ。ケンカしてるとどうせ暑くなるから脱ぐし。あれさ、ダチが作ってくれたんだ」
三ツ谷隆。無免でバイクを走らせる妹思いの手芸部部長。推し。
「いいなあ・・・」
「トップクが?」
「うん」
いいよねトップク、隊員にはなりたくないけど欲しい。マイキーは「洗濯してねえからなあ・・・」と呟く。
「えっ、いやそんな、おそれ多い!」
「はは、なまえちゃんてけっこう面白れーよな」
「うそ、そうかな・・・」
「うんうん。気に入ったわ」 
その時「マイキー帰ってるの?」という声が聞こえた。
「あ、エマだ。おーいエマー」
「なあにー?」
麦茶のおかわり持ってきてー、とマイキーは言った。横着だな。
「もうマイキーお茶くらい自分で・・・えっ!?」
私を見た瞬間、エマちゃんのぱっちりした目がさらに丸くなる。
「か、カノジョ!?」
「ちが、違います」
「ちげーって、ダチ。お茶さんきゅな」
ホントに友だちー?とエマちゃんは疑いの目をマイキーに向ける。
「ホントだって、な?」
「ウン」いつの間にダチになっていたんだろう・・・。
「妹のエマな。エマ、ダチのなまえちゃん」
「よろしくねー!」
「よろしくね、エマちゃん」
可愛い、キュートすぎる。よくドラケンはクールでいられるな。私なんかとっくにメロメロなのに。
エマちゃんは遠慮がちに「あのさ・・・」と口を開く。
「もしかしてマイキーより年上?」
私の代わりにマイキーが「そー、高2だって」と答える。
「マジ!?先輩じゃん!」
「?うん」
「もー・・・ごめんね、ゆっくりしてってね」
ああ行ってしまう、行かないでエマちゃん。
「あ、そーだ。今日ドラケンのお見舞い行く?」
「んー、たぶん」
「じゃあゼリー買ったから持ってってね」
そう言い残してエマちゃんは部屋を出て行った。やっぱりドラケン、まだ入院してるんだ。
「ケンチン刺されてさ」
ぽつりとマイキーは言った。
「・・・うん」
「死ぬわけねーって思ったけど、・・・死ぬかもしれねえって思った」
まだたった15年しか生きてない彼ら。どうして死と隣り合わせないといけないんだろう。
親の死、兄の死。マイキーはこれからもっとたくさんの死と向き合わなくちゃいけなくなる。
「マイキーくんは、死なないでね」
「死なねーよオレは。オレが死んだら東卍もなくなるじゃん」
「うん、・・・そうだね」
ストーリーを知っている手前なんとも言えない気持ちになる。犯罪組織になった東卍。あらゆる姿で堕ちていくマイキー。
「つか何して遊ぶ?トランプ?」
「トランプ・・・2人だと何ができるかな・・・」
「あ!あれある、桃鉄!シンイチローのだからスーファミだけど」
ドラケンのお見舞いついでに送ってもらう頃にはすっかり地理に詳しくなっていた。

***

お夕飯時。
「なまえちゃん送ってケンチン見舞ってくるわー」
はーい、とキッチンからエマちゃんが出てくる。えらいなあ。
「これよろしくね」
「はいよ」
「あのさ、ホントに付き合ってないの?」
「だから付き合ってないってば」
「だあって、部屋にまで呼ぶんだよ?なんていうかその・・・」
もじもじするエマちゃん、何が言いたいのかよく分かる。
「ずっと桃鉄してたよ」
と言うと、「え!?」と返ってきた。
「あれからずっと桃鉄・・・!?」
「そー、コントローラー2個しかねえからエマのこと呼ばなかった」
「いや、いいけど・・・えー・・・そういうもんなの・・・?」
エマちゃんは「なまえちゃん、今度はウチとも遊んでね!」と言った。
「もちろん、やった」
「やったー!そういえばどこの高校なの?」
学校名を答えるとエマちゃんの目が輝く。
「あのさ、お願いなんだけど、もしいやじゃなかったら一度でいいからあそこの制服着てみたいんだ・・・だめ?」
「制服?いいよ」
なんで制服着てえの、とマイキーが尋ねる。
「だってめっちゃ可愛いじゃん、私立だからウチは絶対着れないし」
「へーそうなんだ、知らなかった。じゃあやっぱお嬢なんじゃん」
「お嬢じゃないって」
エマちゃんに見送られて歩き出す。
「今日の夕飯、きっとカレーだね」
「はは、だなー。なまえちゃん家はなんだろうな」
「なんにしようかなあ・・・うちもカレーかな」
「?自分で作ってんの?」
1人暮らしだから、と答えるとマイキーは不思議そうな顔をする。
「なんで?親は?」
「お母さんはもういなくて、お父さんは血がつながってないから・・・?」
だからなのかな?なんでこの子が一人で暮らしてるのかは不明だ。
「ふーん・・・なんか大変な感じ?」
「どうなのかな・・・でもとりあえずのびのびやってるし、たぶん大丈夫だと思う。学校も行けてるし」
そっか、とマイキーは頷く。
「なんかあったら、うち来いよ。カレーしかねえけど」
ジーン・・・いいやつだなマイキー、あんたが大将だよ・・・。
しっかり家の前まで送り届けてもらって頭を下げる。
「どうもありがとう」
「おー。じゃな」
小柄な後ろ姿。背負うものが大きすぎて潰れてしまう未来が来なければいいのに、と思った。


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