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特進クラスから退出する丸い背中。小学生の稀咲くんは姿勢が悪い。
いつもなんとなく覇気がないからすぐに分かる。
「稀咲くんおつかれ」
「・・・ア?」
眼鏡の奥から睨みつける鋭い眼光。
「こわっ」
「・・・ああ、アンタ特進の。何か用ですか」
「目の前にいたから挨拶しただけだよ。ね、こないだの模試どうだった?」
カンケーないでしょ、と彼はソッポを向く。
「冷たいこと言うなよー後輩じゃないの」
「たまたま校区が被ってるじゃないスか」
ほっといてくれと言わんばかりに歩き出す彼の隣で歩調を合わせると、
「ハーーーーー・・・・・・・・・」
と低くて長いため息が聞こえた。
「そう言うアンタは?」
「え?うーん、とりあえず志望校は合格圏かなあ」
「フーン」
興味のかけらもないような返事だったけど、そうだと思っていたので気にしない。
「つかなんで俺に声かけるんですか」
「え・・・」
私が稀咲くんに興味を持った理由。それは、遊戯王に出てくるインセクター羽蛾にちょっと似てると思ったからだった。なんて本人には口が裂けても言えないので、
「稀咲くん頭がいいから、分からないところ出てきたら教えてもらいたいと思って」
と答える。
「はあ?自分こそ特進のクセに、年下つかまえて何言ってんだ」
クチ悪〜〜〜。それによく考えたらさっきからずっとタメ口を使われている。
「アンタ志望校どこ」
「へ、」
学校名を告げると稀咲くんは「へえ」と言った。
「アタマは悪くないんだな」
「そう言われると照れちゃうナ」
「あ?気色悪ィからやめろ」
睨まれてしまった。
「とにかく帰るから」
「あ、私も帰り、」
「着いてくるなって言ってんだよ」
「スイマセン」
そういうことか・・・。
「そうだ、」
「あ?」
口どころかガラまで悪くなっている相手に「手出してみて」と言うと、訝しげな表情を浮かべつつも従ってくれる。
「なんだこれ」
「アメちゃん」
「言い方ババアか」
さっそく口に放り込んだ稀咲くんだったがすぐにハッとする。
「賞味期限、」
「切れてないよ!」
証拠として買ったばかりの袋を見せると安心したように口の中でコロコロしだした。玄関まで来ると稀咲くんは振り返る。
「じゃあな」
「うん、また明後日ね」
「俺のスケジュール覚えてンなや・・・」
同じ塾で受講している先輩と後輩。見かけるたびに心の中で「羽蛾くん羽蛾くん」と勝手に呼んでいた子が実は通っていた学校の2個下だと知ったのは最近だ。なんだか親近感が湧いたので話しかけ今に至る。
「帰り道暗いから気をつけてね」
ウザ・・・と呟く声が聞こえた。さっさと帰っていく小柄な後ろ姿。
まさか、のちに彼があんな変貌を遂げる日が来るとは思わなかった。

***

中学に入って稀咲くんがグレた。
え?え???あれどういうこと?めっっっっちゃ怖いんだが?イメチェンってこと?
これっぽっちもなくなってしまった羽蛾の面影を恋しく思っていると、なんの感情も浮かばない視線とかち合う。
ちっとも猫背じゃないシャンと伸びた背中。稀咲くんは背も伸びた。
「お疲れ様でーす」
「・・・・・・」
プイ、とそっぽを向かれてしまった。そのまま歩き出した彼の後ろを着いて行く。
「・・・オイ」
「はい」
俺の後ろに立つなとかゴルゴみたいなこと言われたらどうしよう。
「舎弟でもねえのにクソみてえな挨拶すんな」
「はあ、スイマセン。ねえねえ模試の結果どうだった?」
「・・・A」
「すごいなあ、さすが稀咲くんだねえ。第一志望のとこ?」
「まあな。アンタは」
「私もとりあえずは合格圏。でもずっと受験勉強してるような気がする」
高校受験の次は大学受験、進学校はつらいよという感じだ。
「ハッ、んなの効率的にやりゃいいだけの話だろ」
「そうだけどたまには遊びたいでしょ?」
勝手に遊んでろ、と稀咲くんは容赦がない。
「稀咲くんはいつも何して遊んでるの?」
「俺を参考にするな」
「稀咲流の息抜きを教えてよ」
そう食い下がると、稀咲くんはため息をついて横目でこちらを見る。
「別に。アタマ使うの嫌いじゃねえし」
「じゃあボドゲとかやったりする?」
しなくはない、と稀咲くんは答える。
「でも俺より強いヤツに会ったことがねえ」
主人公のセリフか、と心の中でつっこむ。
「じゃあ私とやろうよ」
ハ?と稀咲くんが弾かれたような声を上げた。
「何を、」
「なんでもいいよ。できればやったことあるのがいいけど」
ハーーーーー・・・・・・・・・と深いため息をつかれた。
「やだよ」
「なんでよ、やってよ。こう見えても将棋とかできるんだよ」
1回だけだからな、と稀咲くんはげんなりしたように言った。

***

「やったー勝ちー!イエーイ!」
「・・・ハ?」
目の前に座る稀咲くんはポカンとしている。飛車角金銀を犠牲にしたと金での勝利だった。
「これで稀咲殿の連勝記録は敗れましたな」
「キショい喋り方すんな」
怒られた。
「フツーこんなアガリ方するか・・・?」
考え込む相手にカフェのアイスコーヒーを飲みながら「王将以外は全部使い捨てるやり方だよ」と答える。
「間違えたら一気に自滅するだろ」
「間違えないようにするの」
「ンなの相手の出方次第だろ。捨て身戦法じゃねーか」
「ウーン・・・だから相手より深く読むっていうか」
ジャコジャコ、溶けかけの氷をストローで砕く。
「そういうのはなんか楽しいと思う」
「・・・アンタが野郎ならな」
「えっ?」
なんでもねえ、そう言って稀咲くんはソファの背にもたれた。
「ねえねえ、何か食べてから帰ろうよ」
「なんでだよ」
「せっかくカフェに来たんだし」
「なんで俺がアンタとメシ食わなきゃなんねえんだっつってんだよ」
「いや?」
「そういう話じゃねえ」
「忙しいってこと?」
「ああ」
「効率的にやればいいだけなのでは?」「ア゛?」
「特大ブーメランですな」
「キショい喋り方すんな」
ギュ、と足を踏まれた。
「先輩なのに・・・」
「うぜえんだよ」
「!」
目の前にポイと投げられるメニュー。そっぽを向いた稀咲くんに尋ねる。
「何食べる?」
「食うのに時間かかんねえやつ」
「そうなると・・・冷ややっことひじきとかになるねえ。私はハンバーグプレートにしようかな・・・イデッ」
両足を踏まれた。


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