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アラームよりも先に目が覚めてしまった。本日は連休初日。二度寝の誘惑をのけてウンと思いきり伸びをしてカーテンを開ける。
駅前のカフェでモーニングをゆっくり堪能、本屋をちょっと眺めた後はノープラン。
そんな浮わついた気分でアパートの階段を降りようとした瞬間、
「えっ・・・」
大きな衝撃に背中を押され前のめりのまま意識を手放した。
***
「・・・ッダイジョーブですか!?」
焦ったような声が覚醒を促す。
「う・・・・・・」
全身に走る痛み。ザワザワとした人の声が聞こえる。
「救急車呼ぼうか、」
「私見ました、誰かがこの人の背中押すの」
状況がサッパリ理解できない中、なんとか体を起こそうと力を入れる。
「あ、まだじっとしてたほうがいいッスよ!」
大丈夫?立てそう?と別の人の声がした。
「ホームの階段から落ちたんだよ。誰かが押したの見たって人がいるから、被害届出したほうがいいかも。もうすぐ駅員さんが来るから」
ホーム、駅員さんってなんのことだろう。私まだ駅になんて着いてないのに、
「ゴメン俺もう行かなきゃなんだけど、あと君にお願いしていい?」
大丈夫っす、というなぜだか聞き覚えのある声。
「(えっ)」
花垣武道!!
思わず叫びそうになった口を手で押さえる。いやでも待ってそんなはずない、そう思っていると、
「おーいタケミっち。どったの?」
前髪を上げた金髪の小柄な子と、体格のいい独特なヘアスタイルの2人がやって来るのが見えた。
「マイキーくん、ドラケンくん!大変なんすよ、なんか突き落とされたみたいで」
「マジ?その人大丈夫なん?」
「駅員の人が来るはずッス」
「フーン・・・」
アンタ大丈夫?と覗き込んできた相手の顔を間近で見た瞬間、痛み以上の驚愕に全身が包まれた。
マイキー、ドラケン。
「あ、イタッ」
「どこが痛い?」
ドラケンに尋ねられつい「全部」と答える。
「まあ、あの上から落ちりゃなあ・・・」
つられて視線の先を見上げた。
・・・トリップ?乾いた思考が導き出した短絡的な答え。でもそれ以外考えられない。
バタバタと駅員さんが駆けつけてくる。
「君たちがやったの!?」
「ア?違ェし。んなことするワケねえじゃん」
呆れたようにマイキーが言った。そばにいた女の人が「この人たちじゃないです」と弁護する。
「犯人、黒いニット帽をかぶった中年くらいの男の人だったと思います」
「ほらあ、オレらじゃねえじゃん」
駅員さんは「ごめんごめん」と謝る。
「あなた、大丈夫?怪我とか。犯人見た?」
「あ、いや・・・見てないです」
「目撃者の人いるし被害届出す?」出したほうがいいすよ、と言う花垣武道に「俺もそう思う」とドラケンが頷く。
「え・・・でも、」
「高校生?親御さんに連絡入れられる?」
「・・・コーコーセー・・・?」
思わず足者に目をやって驚愕した。
制服着てる・・・なんで???
フリーズしている私を見て駅員さんは「アタマ打っちゃったかな・・・?」と心配そうな声を出す。
「てかタケミっち犯人見たん?」
「オレは下にいたから・・・いきなりその、落ちてきて」
未だジンジンしている手足をさすっていると交番の人がやって来た。
「あ、こっちです!」
「大丈夫?怪我は?あ、してるね立てる?」
犯人を見たという女の人が肩を貸してくれたものの、痛すぎて立てそうにない。
「オレが運ぶ」
マイキーが「ケンチン」と驚いたような声を出す。
「いいの?君ガタイいいしお願いしようかな」
駅員さんの言葉を聞いてドラケンは私の目の前にしゃがんだ。
「乗れよ」
「え・・・でも、」
「ケンチーン、エマが怒んぞ」
「困ってんのに助けねェほうがダセエだろうが」
こんなやりとりをこの目で見ることができるとは・・・。感動していると「早く乗れって」と促される。
「すみません!し、失礼します・・・」
こわごわ体を預け、肩に触れると重さを確かめるように軽く上下させられる。
こ、これがドラケンの背中・・・!広いしデカくてあったかい、ドラケンが、生きてる・・・!胸がいっぱいで体が痛い。
そして情緒がめちゃくちゃになった。
***
意識がない時から側についていてくれたということで、花垣武道と一緒に構内の部屋に通される。
持ち物を探ると、財布や携帯の他に学生証が出てきた。同姓同名の高校1年生。眩暈がした。
「(若い自分が写真に写ってるのコワッ・・・)」
「めっちゃお嬢様学校すね・・・」
「そうなの?」
「なんか有名私立女子高?みたいなとこですよね?」
「へー・・・」
すごいことになってしまった。というか元の私の体ってどうなってるんだろう。思い返してみれば、あの時誰かに突き飛ばされたのかもしれない。
・・・え?もしかして同時に同じ目に遭ったから入れ替わったってこと?向こうの私の体にこの子の意識が入ってる?最悪な考えが頭をよぎる。
「君、大丈夫?すごく顔色が悪いよ」
駅員さんの心配そうな声に「大丈夫です・・・多分」と答えるも、内心は蒼白だった。必死になってぐるぐる考える。
前提:マンガの世界に高校生の私が存在している
仮説:同じ瞬間、同じ衝撃を受けたのが理由で意識だけが入れ替わった
「(打ち所が悪くて私の体が死んでたら、入れ替わったこっちの私も死んでる・・・?生きているとしたら、高校生の私が同じような状況になってるってこと?)」
向こうの体が死んでたら私帰れないじゃん!いや、帰るったってどうやって・・・?花垣武道の場合は握手だけど、私は毎回転げ落ちないといけないってこと?無理なんですけどそんなの!
そもそも同じタイミングで同時に衝撃を受ける確率なんて限りなく0に等しい。
「(詰んだ・・・)」
駅員さんに「救急車呼んどく?」と聞かれハッとする。
「あ、だ、いじょうぶだと思います」
部屋の外ではマイキーとドラケンが彼を待っている。被害届を用意する駐在の人と駅員さんに聞こえないように、私は「あの」と花垣武道に話しかけた。
「はい」
タイムリープ、と小さく声に出す。瞬間、彼の顔色が変わった。
「ッえ!?なんでそれ、」
「君のこと知ってます、あの・・・ストーカーとかじゃなくて、エート・・・」
ダラダラドロドロ、見えない汗が流れる。
「あの・・・連絡先聞いちゃだめでしょうか・・・」
この世界の治安悪すぎるから主人公の近くにいればなんとかなるかも、と藁にもすがる思いだった。
「えっ!?あっ、ハイ!」
パカッと携帯を開いてくれる花垣武道。初対面なのに優しすぎる。
すっかり忘れてしまった赤外線のやり方にもたもたしていると、
「ここです多分」
と指先で教えてくれる。
「オレもあんま慣れてないんですけど」
「やさし〜・・・」
思わず声に出てしまった。すると駐在さんがこちらを振り返る。
「あとは彼女に書いてもらって確認するだけだから、君はもう大丈夫だよ」
「あ、はい!」
花垣武道は立ち上がる。
「それじゃ、エートまた」
「あ、あっハイ!」
***
「イテテ・・・」
大きな青アザができた足でなんとか自宅にたどり着く。セキュリティがしっかりしたマンションの3階だった。ポストに名前はない。
あの後、この体の持ち主のお父さんという人と電話で少しだけ話したけど、なんとなく距離を感じた。治療費が必要なら振り込んでおくから医者には行きなさい、と言われたのでそのつもりではいる。
携帯にはママ、とかお母さん、といった連絡先はない。同じ名字の女性の名前もなかった。
「お、・・・おじゃまします」
狭くも広くもない、シンプルな室内。同じ顔、同じ名前の他人が使っていた部屋。
クッション、ラグ、マグカップ。ひとつひとつに染みついているこの子の生きていた形跡を思うと、ぞっとするような悲しいような、やるせない気持ちになる。
スクールバックに入っていた教科書やノート、ペンケース、
「・・・ん!?」
つまり学校に通って勉強しなきゃいけないってこと?社会人になって久しいというのに?
「・・・・・・」
広いベランダに出て外を眺める。綺麗な空。
「終わった・・・・・・」
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