※薬師でワイワイしてるだけ

きついきつい冬練のメニューをこなし、本日の練習が終わった。吐く息が白いなか、エナメルバッグを担いだ真田が先頭に立つ。

「おーし、行くか」

その後ろをぞろぞろとついて行く部員数名。プラス私。なんたってマネージャーだからね。唯一の。

「えっ、えっ」
「ほら雷市も行くの」

そう言って、彼の手を引く。
何も聞かされてないであろう雷市が、不安そうに周りを窺う。そのまま帰宅する組か、真田について行く組か。しかし、今の彼に選択肢はないのだ。

「おれ……も?」
「雷市も!」

私がそう言えば、彼はそそくさとエナメルを担ぎ直して歩き始めた。目的地は教えてあげない。ついてからのお楽しみってことで。まあ彼以外は全員知ってるんだけれども。

「雷市ー、ちゃんとついて来いよー」
「う、んっ」

相変わらず頭上のはてなマークは消えていないが、それ以上にすごく楽しそう。『なんだか遠足みたいだ』って、雷市は嬉しそうに笑っていた。本当に今日が何の日か、分かってないんだなあ。

「ねえ、今なに食べたい気分?」

# # #
学校から一番近いコンビニで、各々買い物を済ませた。店からでると、ガタイのいい男たちがニヤニヤとしながら雷市を出迎える。

「はい、これ」
「これもなー」
「ほらよ」
「えっ、あっ、う、」

ああ、ああもう。雷市の腕の中が食べ物でいっぱいになっている。あたふたと慌てる姿がとても面白くて、とても可愛い。当の本人は、なぜ自分がこんなに優遇されているのか、全然理解してないようだけど。

「なんで、おれ……?」

何かした?とでも言いたげな表情。さすがに怖くなったのか、心配そうにこちらをみてくる。真田も三島も秋葉も。ニシシと笑うだけで、理由を教えてあげてないらしい。

「も〜言ってあげればいいのに」
「女子から言われる方がテンション上がるって」
「そうかなあ」
「マネさん!どうぞ!」
「うっさい三島」

そんなやりとりを、雷市はオドオドとしながら見ている。何もそこまで不安がらなくても。ちょっと笑っちゃう。

「雷市、誕生日おめでとう」

彼の大きな目が数回瞬く。そのままピシャリと固まったまま、一切動かない。

「ヴッ、うっ……」
「ええ、泣くの!?」
「マネさんが雷市泣かした!」
「だから三島うるさい!」

真田も秋葉も笑ってる場合じゃないから。誰かタオルなりティッシュなり貸してあげてよ。

「ありがと、う!ございます!」

差し出した袋を受け取り、目をゴシゴシと擦る。雷市のこれ以上にないほど幸せそうな顔に、なぜかこちらまでウルっときてしまう。

「私のは肉まんだから、冷めないうちに食べちゃって」
「は、い!」

みんなから貰ったプレゼントを、大事に大事にエナメルに仕舞う。その姿がとても可愛らしい。ふふっと笑っていると、それに気付いた雷市も嬉しそうに笑う。
きっと今年のセンバツで、彼の名は一気に知れ渡るだろうな。それでも、雷市にはずっとこのまま、素直で野球の事しか頭にないような。真っ直ぐな野球バカでいてほしいなあと、私は思うよ。

前ならえじゃつまらない
20200916(Twitter再録)


「カハハハハ!」
「笑うか、泣くか、食べるかはっきりしろ!」
「こら!近所迷惑だからボリューム落として!」
「マネさんが1番デケェ!」


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