「あれ、時間やば!」
学校の最寄り駅から呑気に歩いていると、思ったより時間が過ぎていた。朝から走るのは嫌だけど、遅刻扱いになるのはもっと嫌だ。しょうがない。ちょっとだけ走るか。
「――あの人何してんだろ」
ゆっくり足を止め、少しだけ乱れた髪の毛を整える。野球部のグラウンド付近で、独りせかせかと何かを必死になって探してる学生がとても気になった。時間も時間だし、教えてあげたほうがいいのかな。
「あの〜」
「あーーない!!」
「おおっ」
「あ!すみません」
「いえ……」
勝之と同じエナメルバッグを持っているということは、彼も野球部か。バッグから無造作に飛び出てる体操服を見る限り、彼は一年生だ。
「時間やばいけど、大丈夫?」
「えっもうそんな時間ですか!?」
「うん」
「結局見つからなかった……」
がっくりと男の子は肩を落とした。よほど大切なものだったのかな。少し可哀想だと思った。
「よかったら手伝おうか?2人で探したら見つかるかも」
「そんな!悪いです」
「いいっていいって。何探してるの?」
「ああえっと……ボールです」
「野球ボール?」
「はい」
彼は申し訳なさそうに視線を落とした。なんか子犬みたいだ。私は部活に入っていないから、後輩というものが何だか新鮮だった。
「野球ボール1つぐらい失くしても大丈夫じゃないのー?」
だいぶ離れた場所から問いかけてみる。
「あはは、そう言う訳にもいかなくて……。すごく怒られます」
「誰に?」
「せ、先輩に」
「ふうん。一個ぐらい許してくれてもいいのにね!」
細かい男だなあと思った。まあ厳しい部活だし私にはわからない世界なんだろうな。どうせ私は甘ったれた人間ですよーだ。
「あ」
「どうかしました?」
「これじゃない??」
「それです!」
男の子はぱあっと顔を明るくした。そして勢いよく立ち上がると彼は「痛ッ」と腕のあたりを抑える。
どうやらフェンスから飛び出ていた針金が腕を掠ったようだ。
「大丈夫?あとこれボール」
「はい。ちょっと切れただけで問題ないです」
ボール、本当にありがとうございました。彼はそう行ってお辞儀をする。ではと去ろうとする彼の腕を掴んで、鞄をゴソゴソと漁る。
「これ、あげる。よかったら使って?」
とってもファンシーな絵柄の絆創膏をほいと渡す。正直私も使うのが恥ずかしくなるレベルの絵柄だ。でもないよりはマシだと思う。
「休み時間になったら、保健室で無難なやつに取り替えればいいし」
ね?と笑って私はその場を後にした。『あっ時間』と。そう思った瞬間にチャイムが鳴った。
「遅い」
「人助けしてたもん。しょうがないでしょ」
「どうだか」
絶対信じてないなこの男。アンタの後輩を助けたんだってのに。というかそれよりも、あそこから頑張って走って何とか担任より先に教室にたどり着き、セーフを勝ち取ったことを褒めて欲しいものだ。
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