《グレープフルーツと誠意》

「――では多数決の結果、2-Bはコスプレ喫茶になりました」
学級委員長が黒板に丸をつける。コスプレ喫茶って何か少女漫画みたい。というか何故か女子より男子のほうがノリノリだ。本当に何で?
「うわあ勝之顔死んでるじゃん」
「黙れ」
「そんなに嫌?」
「当たり前だろ」
野球部はいつも準備等に参加できないため残った係に割り振られる。顔が死んでる原因はそれか、と納得した。たしかにコスプレ喫茶なんて何させられるかわからないもんね。
「ブリブリのメイド服着せられたりして」
「……」
「こっわ」
完全に目が据わってる。安心してほしい、怖すぎて誰も勝之に提案すらできないと思うから。
「まあ私も着ないけどね」
「あっそ」
「調理係でもしとくよ」
調理と言っても、既製品をお皿に移したり、ちょっと温めたりするぐらいだけど。楽だしそれでいいやと思う。
「着ろよメイド服」
「やだよ。神谷君が着れば」
「色々やばいだろそれは」
机に肘をつきながら意味のわからない提案をされる。メイド服とか絶対着ない。絶対似合わないと思うし、何より恥ずかしい。そういうキャラじゃないもん。
「神谷君は軍服とか似合いそうだね」
「まあ似合うだろ」
「ちょっとは謙遜しろ」
「私も思った」
似合いそうと思ったのは本当だけど、こうも自信満々に返されたらそれはそれで気に入らない。
「じゃあ白河は?」
「え?」
「白河には何が似合うんだよ」
「ええ……」
神谷君に言われてちらっと視線を勝之に移す。ばっちり目が合わさって、思わずうっと息を飲む。これは下手なこと言ったら殺されるかもしれない。
「……スーツとか?」
「なんだそりゃ」
無難な回答をすれば、神谷くんは呆れたように鼻で笑った。だってそんな急に言われても思いつかないし。ちょっとむかつくな。
神谷くんを睨んでいれば、横から肘を軽くつつかれた。
「ところでお前、テストどうだったの」
「ああ、赤点が2つです」
「補習決定?」
「うん」
そうだ。文化祭が終わったら私の土曜日はなくなる。気が重い。
「じゃあどっちにしろ試合見にこれないな」
「え?!」
「試合、平日か土曜ばっかだし」
ピラッと見せられたのは大会の日程表だった。慌てて受け取りカバンから取り出した手帳と照らし合わせる。
「その補習が終わっても期末テストの点数が悪かったら夏休みにまた補習でしょ」
もうお前一生勉強してれば、と言われる。困ったな。私は公欠なんて出来ないから平日は無理だし、土曜日は行きたくない補習だし。
「この日程表、写真撮ってもいい?」
「それ元からお前の分」
「そうなの?ありがと」
お礼と同時に授業の終わりを知らせるチャイムが鳴った。エナメルを背負って部活に向かう二人を見送った後、私はぼんやり日程表を見つめる。
「夏休み中ならいけるか……」
とりあえず優先すべきことは期末テストで赤点を取らないことである。

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