《ひそやかな呼吸法(後)》

「――い、おい。白河」
「ああ。ごめん、何」
「『何』じゃねえよ。早く風呂場開けてやんねえと次が詰まるだろ」
「……ああ」
どっか調子悪りぃの?とカルロスに聞かれた。調子は悪くない。体調面も、技術面も。むしろ良いくらいだ。
「いや、別に」
「ならいいけどよ。あ〜今日も疲れたな」
「ん」
カルロスの話に適当な相槌を打ちながら食堂へ足を進める。その間にじろじろと顔を覗き込まれて、少しイラっとする。
「お前まじで変じゃね?」
「そうでもない」
「いや、ぜってーおかしい」
カルロスは視野が広く、周りがよく見えている。それは日常生活や部活中においては非常に助かってるし、こいつの長所だと思う。けど今はそれが却って厄介だった。
「まあ無理にとは聞かねえよ」
「ん」
「喉乾いたな、食堂行こうぜ」
「ああ」
その後、また他愛もない話をしながら廊下を歩く。一個上に綺麗な先輩かいるとか、明日の日替わり定食はアジフライだとか。正直あまり頭に入ってこないまま、食堂へとたどり着いた。
「なんか騒がしいな、鳴か?」
「それ以外誰がいるんだよ」
相手は樹だった。チッと舌打ちをすればカルロスにまあまあと宥められる。いつもの事じゃねえかと言うが、いつもの事だから呆れてるんだよ。
「――鳴さん!僕の絆創膏どこにやっちゃったんですか!!」
「だぁから!俺も知らないんだって!」
「もーー!」
ドアを開けてすぐ話の内容を理解した。それはカルロスも同じなようで、チラリとこちらを見てくる。めんどくさ。
「……樹」
「あっ白河先輩、神谷先輩!お疲れ様です」
「絆創膏なら俺が持ってる。その馬鹿がテーブルに置きっぱなしだったから、預かってた」
「馬鹿って言うな!」
「えっそうなんですか」
「部屋にあるから、取りに来て」
「はいっ」
冷蔵庫を開けてペットボトルを取り出す。それから多田野に声をかけて、2人で食堂を後にした。

「これでしょ」
「はい!本当にありがとうございます」
「お前さ、」
絆創膏を大事そうに受け取った多田野は、首を少し傾けながら俺の次の言葉を待っている。
「……好きなの?その女子のこと」
「ええ!」
俺の質問に、多田野は少し困ったようにぽりぽりと頬をかいた。ああやっぱり。
「えっと、――」

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