《光を砕く》

「準備できたやつからバスに乗っていけ」
原田先輩の指示に従いながら、ぞろぞろとバスに乗り込む。寮に戻ったら全体ミーティングをしてから、自主練。今日は1試合しか出ていないため、疲労はいつもに比べて少ない。
「鳴のやつ、監督にしっかり絞られてたな」
柑橘系の匂いを纏うカルロスが、俺の隣に座る。
「当たり前でしよ。本来ならあの球は見せる予定なかったんだし」
この時期に余計な情報を与えるなんて、馬鹿なやつだ。まあ遠くから一目見たぐらいで打てるようなものでもないだろうけど。
「鳴のチェンジアップ、後ろから見てても抜け具合がえぐいな」
俺も打てるかどうか、とカルロスは苦笑いをする。確かに俺もそう思う。褒めるのは好きじゃないが、敵に回したくないと思うぐらいには認めている。
「ねえオイラ今日絶対完封できたのに」
「お前が監督と主将の指示に従わねえからだろ」
後からバスに乗り込んできた成宮が、不服そうな顔を見せながら前の座席に腰を落とした。「1球ぐらい良いじゃん」だの「エースなのに」だのとにかくうるさい。お前がいい投手なのは認める。ただその性格をどうにかしろ。
「去年は滝川で今年は丹波だろ」
「青道ちょっとやべえよな」
人が多くなって車内では微妙な空気が流れ始めた。原因は3試合目で起きた青道のエースである丹波さんの負傷だ。横に座るカルロスもそっと口を開いた。
「あのまま病院直行らしいな」
「ああ」
「修北のピッチャーもメンタルきてそうだったし」
「顔付近のデッドボールは打者投手共に何かしらのダメージはあるからな」
俺の言葉にカルロスはこくこくと頷く。同じ野球をする人間として大事に至らなければいいけど、と思う。しかしエースを欠いた青道に同情している時間なんてものはない。むしろ今まで以上に手強くなるだろうと、より一層気を引き締めるべきだ。
「白河、戻ったら3カゴ付き合えよ」
「は?お前今日散々打っただろ」
むしろ俺の方が打ちたいんだけど。今日は犠打や捉えたのに野手への正面ライナーだったりと、ヒットが出ていない。
「じゃあ2カゴでどうよ」
「俺が3でお前が1」
そう言って頑なに譲らなければ、渋々了承を得た。
最後に原田先輩と監督が乗り込んで、バスが出発する。嫌そうな声を出す成宮の横に原田先輩が座って、相変わらず駄々をこねる坊やの相手をしている。
「雅さんおっきいから狭いんだけど」
「うるせえ。小さい奴だな」
「はあ!?高校で2センチ伸びましたけど!?」
「身長の話じゃねえよ。器の話だ」
「器もでかいし!」
一体どの口が言ってるんだと思った。多分この車内にいる全員の総意だと思う。誰も言葉にはしないけど。
ふと信号待ちでバスが停止する。明日の天気はどうだったか。何か課題プリントあったっけな。ぼんやり窓の外を見つめながら考えていれば、遠くのカラオケ店から出てくる男女のグループに視線を奪われた。
「……なまえ」
「ん?なんか言ったか?」
「いや、なんでもない」
隣で今日の試合のスコアブックを見ていたカルロスが顔を上げる。見られたら面倒だと思ったが、すぐにバスは動き出してその場から離れた。あっそとカルロスの視線は再びスコアブックの方に戻る。
もう一度窓の外を見てみると、当たり前だが先ほどの景色とは変わっていた。

もどる