マラカスやらタンバリンやらがじゃんじゃか響く室内。無駄に広いパーティルームの隅でジュースをすする。あーあ、さっき入れたばかりのメロンソーダがあっという間に空になってしまった。
「えっとなまえちゃんだっけ」
「そう、です」
男子たち合流してすぐに自己紹介をし合ったが、緊張しすぎて誰一人として覚えていない。だって初めてきたんだからしょうがないでしょうよ、なんて心の中で勝手にキレた。
「あはは、お前誰だっけ?って顔してる」
「えっそんなことは……なくもない、けど」
「正直!いいね。面白いや」
「はあ……」
嫌な顔せずにもう一度自己紹介をしてくれた。何というか、好青年・爽やか100%って感じの男の子だ。不意に頭の中をよぎった幼馴染とは真逆な感じの、男の子。
「実は最近フラれてさ」
「おお」
急にヘビーな話に持っていくな。
「すげえ好きだったのに、フラれた」
俺の何がダメだったんだろ〜と彼は隣でうな垂れた。未練たっぷりなのになんで来たのかと聞けば彼の友人が『こういう時は新しい出会いだ!』とこの合コンをセッティングしてくれたらしい。友人の気遣いを無駄には出来なかったようだ。
「優しいね」
「普通だと思うけど」
「はっきり『迷惑だ』って言う人も世の中にはいるよ」
少なくともヤツは言う。迷惑にプラスでうざいとまで言ってくるだろう。
「なまえちゃんは何で今日来たの?」
「経験を積みに……?」
「経験?」
彼が聞き返して数秒後。なぜか彼はボッと顔を赤くした。ぐいっと両肩を強い力で掴まれたので、私の頭にはクエッションマークが沢山浮かんだ。
「ダメだって!自分の体は大切にしないと!」
「は、はあ?」
周りは盛り上がりすぎて誰もこちらを気には留めない。最近人気のK-POPの曲をバッグに私は思考を巡らせた。経験……自分の体……?
「ち、違うよ!」
「え?」
「そう言う意味ではない」
「ならいいけど……」
ゆっくり掴んでいた手を離してくれた。びっくりした。それにしても今日会ったばかりの女に、よくもまあこんなに親身になれるものだ。いい人だな。
「……飲み物とってくるね」
「待って。俺も行ってい?」
「ああ、どうぞ」
# # #
トングで氷を2、3個入れてから、今度はミルクティーを注ぐ。
「なまえちゃんさ、ちょっと俺の元カノに似てるんだよね」
「え?」
「性格?雰囲気というか」
微妙な空気が流れる。もしかしてこれは、少し不味い?力技でねじ伏せられたら抵抗もできないし、逃げたほうがいいのかも、とか思ったり。
「あっ手出そうとかは思ってないから」
「……」
「いや本気で」
演技か本心かを見抜いてやろうと思ったが、生憎私にそんな技能は持ち合わせていなかった。ひとまず、信じてみよう。
「彼女さん、あ、元カノさん」
「うん」
「どんな人だったの?」
並々注いだミルクティーをストローでくるくるかき混ぜてみる。隣で氷を入れていた彼の動きはぴたっと止まった。
「俺の事、どう思ってるのかわからない子」
「え?」
「それ以外のことなら全部顔にでるのに」
彼は切なそうに笑った。そっとトングを元の位置に戻して彼は烏龍茶を注いだ。私は今日彼と初めて会ったし、元カノさんのことも何も知らないけれど。
「もし本当にその元カノさんと私が似てるなら、」
「ん?」
「下手なんだと思う。本当に好きな人に、自分の感情を表すのが」
ポカンとした表情で見つめられてふと我に帰る。何を言ってるんだ私は。大して恋愛経験もないくせに。
「ご、ごめん。変なこと言った」
「いや。全然」
彼の視線は満タンに注がれたコップに移る。心無しか少しだけ明るい表情にも見える。
「俺もっかい頑張ってみようかな」
「う、うん!応援してる!」
「ありがと」
そう言ってドリングバーから少し遠い部屋を目指す。
「ねえ私も一個質問なんだけど」
「お?」
「男子が女子の寝顔見つめる時って、どんな気持ち?」
「そりゃあ……」
彼は顎に手を置いて少し考えた後、たどり着いた部屋のドアノブを握る。
「可愛いなあ、とか」
「ほお」
「あ〜好きだなあ、みたいな?」
「……え!?」
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