《焦げついた青》

「本当に助かった……」
「良かったな」
机に伏せて安堵の息を漏らすなまえに、カルロスがいつもの調子で話しかける。先程くだらないコンテストの男装役を誰がするかという話し合いが行われた。男装役だけが決まらず、クジ引きにしようかとなっていたところ、学級委員の女子が引き受けることになった。
「もし私がなってたら文化祭の実行委員もしてコンテストにも出る女だよ?」
文化祭ガチ勢女じゃん……、となまえはグッタリとしていた。あながち間違ってはないと思うけど。お前学校行事のなかで文化祭が1番好きそうだし。わりと毎年はしゃいでるだろ。
「あ、そういえば多田野も出るっつってたな」
「へえ」
「タダノ?」
「野球部の後輩。多分クラスの女子にゴリ押しされたんだろうよ」
まあ確かにアイツはそういうの断れなそうだ。でもまだ線も細いし案外違和感なくこなしそうだな。あとで成宮に散々茶化されるだろうけど。
「――なまえ〜!ごめん絆創膏持ってない?」
「あっ、持ってるよ」
なまえがポーチから取り出した絆創膏をみてカルロスが目を丸くした。ああそう言えば樹に絆創膏を渡したのがなまえだってことを言ってなかったな。色々と察したカルロスが苦笑いでこちらに視線を向けてきたため、俺は小さくため息をついた。

# # #
「で、多田野の運命の相手がみょうじ?」
突然部屋に押しかけてきて第一声がそれか。タイミングが良いのか悪いのか同室の先輩は留守だ。帰れと言ったのに、カルロスは聞く耳を全く持たず部屋の中に入ってくる。図々しい。
「いーだろ。ちゃんとパンツ穿いてきたんだし」
「それ以外も着ろ」
「アチぃじゃん」
「知るか」
床にあぐらをかいて座るカルロスはどこか上機嫌で、イライラが募る。こいつがニヤついてるときはいつもロクな事がない。
「でも多田野の運命の相手がみょうじとはな」
「……それ成宮が勝手に言ってるだけ」
「は」
「樹はそんなこと思ってないらしい」
近くにある椅子を引いて、腰を落とす。カルロスは俺の方を見上げるようにしてキョトンとした表情を浮かべた。はあ、とため息をついてから、樹と話したあの日のことを、カルロスに話す。

『好きなの?その女のこと』
『ええ!――好き、とかではないと思います』
『……は?』
『え?』
『なら何でそんな大事そうにしてるわけ』
『それは、えっと、せっかく頂いたのに使わずに無くすなんて失礼かと……』
何だそれ。
『じゃあ運命的な出会いって言ったのは?』
『そ、そんな事一言も言ってません!』

明らかに初めて聞いた事実だと、アイツの表情が物語っていた。そこで俺は全てを察した。あの馬鹿エースが適当なことを言って話を盛っただけか、と。
一連の話を聞いたカルロスは『何だそりゃ』と床に寝そべった。
「おい、用件は済んだ――」
「じゃあもし、」
「は?」
「もし多田野が『はい』って言ったら?」
「……」
お前どうすんの?とカルロスは聞いてくる。そんなこと、俺自身が1番知りたい。もし本当に樹がなまえのことを好きだと言ったら、あの時俺はどうしていたんだろう。樹に、一体何て声をかけていたんだろう。
「……さてと、俺そろそろ戻るわ」
「ああ。さっさと帰れ」
「へいへい」
部屋から出て行くカルロスを見送ることもせず、俺は自分のベッドに移動する。そのままベッドに身を預けて瞼を閉じた。
どうしていたか、なんてわからない。でも、樹の口から『好きではない』と聞いた瞬間、ひどく安心したことだけは確かだ。

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