--恋するまでの、




3、
エドガー率いるナイツオブクイーンとの試合に勝利したことでみんなのテンションは最高潮、さらに冬花ちゃんの提案で明日は休みになったこともあり、みんなかなり遅くまで騒いでいた。監督達が声をかけなければいつまでだって騒いでいたと思う。
ついに響木監督からもう寝ろ!との声がかかり、ぞろぞろと各自の部屋へ帰っていくメンバー達。ここで注意してもらいたいのは、メンバーの大半が疲れきった男子だってことだ。何が言いたいかっていうと、要するに片付けをしないというか、片付けができないのがほとんどっていうか。鬼道くんなんかは手伝おうと言ってくれたけども、あんな眠そうな姿見たら、ねぇ。というわけで、女子組でお片付け開始。それにしてもよく散らかしたものである。

そこで一つ発見。誰かの忘れ物らしいケータイを拾いました。それが置いてあったのは、よく不動くんが座っている机。これっぽいケータイを使っているのをちらと見たこともあるし、これは不動くんのだろう。真っ黒なケータイは不動くんのイメージにあっていて、なんかケータイかっこいいな、なんて。とりあえず部屋の前に置いておけば気づくだろう。私はそのケータイをポケットにしまった。ああ眠い。



2、
で、しくじった。
片付けも終わり、いざ部屋へ戻ろうと階段に足をかけたとき。やっぱり私も疲れていたのか、うっかりバランスを崩してしまった。幸か不幸か、咄嗟に手摺りに捕まったので大きな音は出さずにすんだが、右足だけこう、ぐぎっ、と。痛み始めた足をそろりと床に下ろすと、ずきんと痛みが走る。

まいった、どうしよう。残りは私がやるから、と、秋ちゃん達は先に部屋に戻ってもらっている。ここ階段の一番下だし、大きな声を出してもう寝ているであろう皆を起こしてしまうのも忍びない。これはもうはい上がるしかないのだろうか。でもこの階段けっこう長いし、緩やかとはとても言い難い傾斜角度である。なんかやる気失せた。

片足立ちも疲れたので階段に座り込み、手摺りにもたれ掛かる。
先程拾ったケータイで時刻を確認させてもらうと、ぴったり23:00を表示していた。



1、
「おい、起きろ」

肩を揺すられて目を開けると、隣に不動くんがいた。あれ、と思って体を動かすと、足に痛み。
私、足を捻って、階段に座って…もしかしなくてもそのまま寝てしまったようだ。どうりで体が冷えているわけである。

「お前、なんでこんなとこで寝てんだよ。風邪ひくぞ」
「あー…不動くんこそなんでここに?」
「ケータイ忘れたんだ。見なかったか?」

ケータイ…ケータイ、そういえば。ポケットからケータイを取り出し、不動くんにはい、と言って手渡した。お、ありがとさん、と、意外にもしっかりお礼をいってくれたことに驚いた。軽く微笑んだようなそれが新鮮で、少しかっこよく見える。



0、
ケータイを開いて少し弄る不動くん。外側の小さな鏡のような場所に時刻が表示される。23:32。私は約30分間ここにいたらしい。
じゃ、戻るかと軽くあくびをしながら階段を上がろうとする不動くんをぼんやり見ている私。寝ても足は治らなかったためだ。立ち上がらない私を見た不動くんが怪訝そうな表情を浮かべた。

「…何してんだ?」
「足痛くて立てないんです」
「は?」
「さっき捻りました」
「お前なぁ…それならそうと言えよ、たく」

眠い。すごく眠い。だから今のは幻聴だと思った。けど体がふわりと浮いた辺り、幻聴でもなかったみたいだ。

「こんなとこに女子一人置いとくわけにもいかねえから、連れてってやるよ」

部屋どこだ、と聞く不動くんの予想外の優しさを見て、不覚にも心拍数があがってみたり。



すとん、
部屋まで運んでくれた不動くんに改めてありがとうとお礼を言う。一歩一歩私の足に負担がかからないように歩いてくれてたみたいで、正直すごくびっくりした。

「ありがと不動くん、重かったでしょ。今度、何かお礼するね」
「いーよそんなん、めんどくせえ。別にお前なんて重くねーし、もっと食った方がいいんじゃねえの」

それじゃオヤスミ。私の頭をくしゃっと撫でて部屋から出ていく不動くんの後ろ姿をぼんやりと見つめながら、無意識に撫でられた頭に手をやる。ふと壁にかかっている鏡を見ると、何故だか頬の赤い私。理由はわかっているけども。


ケータイの表示時刻は00:00。ああ、眠い。






恋するまでの3、2、1、0、
(すとん、恋という眠りに落ちました)



10/07/02

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