--手折られた花のような、



幼稚園の頃、虎丸くんは意地悪でした。いつも私に嘘をついては、懲りずに毎度ひっかかってしまう私に、ばーか、またひっかかった。そう言ってにやりと笑っていました。

小学校に入学したての頃、やっぱり虎丸くんは意地悪なままでした。入学式とやらで席が前後になってしまった時にも嘘をつかれて、同じクラスの隣の席になった時、いつも通り、ばーか、またひっかかった。そう言ってにやりと笑ってきました。けれどいつも通りの虎丸くんは、緊張していた私をちょっぴり安心させてくれたので、それには感謝です。

小学校ニ年生の頃、相変わらず虎丸くんは意地悪なままでした。けれどクラスも別々で、虎丸くんも男の子同士で遊ぶことがほとんどだったので、ばーか、またひっかかった。その言葉を聞く回数はめっきり減っていました。それがほんの少し寂しいだなんて思った私は、どこか頭をぶつけたのだろうと自分で思いました。

小学校五年生の頃、おそらく虎丸くんは意地悪なまま、だったと思います。クラスは一緒でしたが、校内で話すこともほとんどなかったからです。それでも席が隣になった時、少し声をかけてみました。「元気、ですか?」虎丸くんは一瞬驚き、それからにやり。「ぜーんぜん元気じゃないけど?…ばーか、また、」ひっかかった。たぶん、そう言いかけたのだと思います。ちょうどその時、近くに男の子がいました。その男の子は話をしている私たちを見て、とても驚いたように目を見張り、大きく驚いた声をあげました。それにつられて周りの人がこちらを向きます。たくさんの人からの視線を浴びるのが苦手な私は、ただ下を向いて席で縮こまります。その間に、虎丸くんは慌てて言葉を返したようでした。それを面白がった男の子は、こいつが好きなんだろ、みたいな言葉を言いました。(正直、次に虎丸くんが発した言葉以外、このあたりの記憶はぼんやりしているのです。)

「こ、こいつなんて嫌いだってば!」

こいつから話し掛けてきただけだってば!そう言った時の虎丸くんの声には、嫌悪感が滲み出ているように思えました。いたたまれなくなった私は、早くも笑いあっている周りに目立たないようそっと立ち上がり、次の時間まで離れた教室にいることにしました。立ち上がった時に、「あ、」という虎丸くんの声が聞こえた気がしました(たぶん気のせいです)。泣きはしないけれど、そこまではっきり言わなくてもいいのに。さすがに今回は、悲しいと思った私をおかしいとは思いません。やっぱり虎丸くんは意地悪なままでした。



これが今、六年生になった私の覚えている、虎丸くんに関係する思い出です。虎丸くんとは、五年生のあの時以来お話していません。

そして、あの時自覚した、私の恋心。意地悪なことに、それだけは今も私の中にあるのです。

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