--夜の太陽に縋る




深い群青色の星空を背にするヒロトの鮮やかな赤髪は、まるで夜に輝く太陽のようだと思った。実際に彼は私にとっての太陽かもしれない。

最低限の設備すら整っていない孤児院。劣悪な環境の中では人の負の部分がさらけ出されるもので、幼い子供達ですら醜い負を纏う。虐めや争いなど当たり前の日常だった。
徐々に色を失い、精彩を欠き始めていた私の日常。そんな中、そこに突然現れた緑の瞳。それは私の中で唯一輝く存在になった。それから毎晩やってきては、夜明けには消えていく彼に、私はすっかり魅入られてしまった。

ある日、彼は言った。自分は最近話題になっている宇宙人であると。
その時の彼の表情は随分と不安げであり、不思議に思った私がどうしたのと尋ねると、君に嫌われるかと思って、と答えられた。
笑みが零れる。私はもう、ヒロトがいない日常は考えられない。そして彼もまた、少なからず私を必要としてくれているのだと思って嬉しかったから。その旨を素直に伝えると、彼は小さく笑みを浮かべて言った。

「俺は、君がいない世界は嫌だ。できるなら、片時も離れたくないぐらいには、君に依存しちゃってるからね」

依存、まさしくそうかもしれない。押し倒すようにして私を抱きしめるヒロトと抱き返す私。互いが互いに依存して離れられはしない。
君が僕だけのものなら良かったのに。

彼は言った。君が望んでくれるなら、今すぐにでもさらってしまうのにと。

ぱっと光が散る。何度、何度考えたことか。ここから出て、ヒロトと過ごす日々を。けれどいくら醜い負を纏おうとも、ここの人々は私の枷になっていた。私が明日には売られる、などという事実を知るまでは。

白み始めた空を背にするヒロトは、まるで懇願するかのように私に縋り付く。君が、望むなら。


私が望んだなら、ヒロト、あなたは。あなたは、

「私を、この世界から連れ出してくれる?」

「…君が、望んでくれるなら。僕は今すぐ、君を連れ出してさらってみせるよ」

夜明けとともに、私は夜の太陽に縋りつく。

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