--一筋




休日のサッカー部部室に入り込んだ私は、一緒に入り込み隣にいる立向居に問い掛けた。

「仮にも数分前まで彼女だった私にさ、あれ、どう思う」
「あ、あれは…さすがに…」

言葉に詰まっている立向居。それはそうだ、人のフラれ方をどうだったって聞いて、すらすら答えられる人の方が珍しい。そう、私はついさっき、人生初の彼氏にフラれました。

お前、何かうざいんだよね。まあお互い本気じゃなかったしいいだろ?じゃーな。…という台詞と共に。しかもそれを、周りに少しだが人がいたのにも関わらず堂々と。

最初からかなり軽い感じのやつだったけど、まさかこんな終わり方になるとは思いたくなかった。だって、好きだったから。遊びなんかじゃなく、私なりの本気、だった。その分ショックが大きくて、偶然そこに居合わせた立向居に付き合ってもらっている。こういう場合は一人になりたいという人が多いのかもしれないけど、私個人としては誰かに話を聞いてもらいたかったから、言い方は悪いけど、その点立向居はとてもいい人選だった。

はあ、っとため息が出てしまう。泣きはしないが私の表情はあんまりよろしくないらしく、巻き込まれただけの立向居の方ががよっぽど泣き出しそうな表情だ。

「ごめんね立向居、こんなことに付き合わせちゃって」
「そんな、俺は先輩の役に立てたならそれで…」
「はは、ありがと。……あーあ、やっぱ私ってばうざいだけの魅力のない女子なんだなー…」
「…!そんなこと、ないですっ!」


ふと漏らした言葉に、思いがけず強く反論してきた立向居に驚いて振り向く。その時の立向居は、初めて見る顔をしていた。
いつものきらきら輝く表情じゃない、悲しそうな、どこか熱っぽい光をその視線に宿した、真剣な表情。

「先輩は、そんな人じゃないです。俺はそれをよく知ってます」
「え…?」
「他人を気にかけてくれる優しいところ、綺麗な笑顔…先輩にはいいところがいっぱいあります。貴女もあの人も、それをこれっぽっちもわかってない」

「俺はそんなところだけじゃなくて、全部全部、全部魅力的に見えます」

身を乗り出し、囁きかけるような雰囲気で語りかけてくる立向居。いつの間にか、床についていた右手に手が添えられている。

「俺、いっつも思ってました。なんで俺じゃないあの人なんだろうって」
「立、向…」
「なまえさん、…俺、貴女が好きです」

息を呑んだ。立向居の気持ちを知ったことと、その短い言葉に込められた真っ直ぐで純粋な気持ちが、あまりにもするりと心に伝わったことで。
それはちょうど、呆気なく私の心から消えた彼氏のように、私達があっという間にこの部室に入り込んだように、自然に入ってきた。


「少しでいい、俺のことを見てください。後輩とかそんなのじゃなく、貴女の隣に居るのは、」

俺じゃ、駄目ですか。


その時私はうっすらとだが知った。
複雑に絡んだ思いも、綺麗に装飾した思いも、真っ直ぐは伝わってはくれない。
目の前の瞳のように、流れ星のように飾られていない、ただ一筋の思いであるほど、驚くぐらい自然に、真っ直ぐ伝わってくるのだと。
そして伝わった思いは、流れ星のように一瞬で消えたりはしない。

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