--通りすがりの班長さん



冬の日の入りは早い。夏ならこの時間帯でも明るいのだろうが、生憎今は冬であって、既に辺りは暗いしそのうえ寒い。家の中で火燵に入ってぬくぬくしていたい心境である。

母に頼まれたおつかいの帰り道、ぶるぶる震えながら歩く。まったく、サイダーが切れたから買ってきてだなんてこんな日が暮れてから頼まないでほしい。第一、蜜柑を食べながらサイダーを飲んでいるのは母だけで、私も父さんも弟も誰も飲まないのだから自分で行けばいいのに。

そんなことを考えてぼーっとしていたのと辺りが暗かったのとで、私は角から走ってきた人影に気がつかなかった。十字路の入口でどん、というような衝撃を感じ、何も身構えていなかった私は衝撃に押されるままその場に尻餅をついてしまった。地味に痛い、そして冷たい。
いきなりのことにびっくりして立ち上がれずにいた私の上から、少し慌てたような声が降ってきた。

「すまない、怪我してないか?」
「あ、はい。大丈夫で…」

す、と言いかけたところで、つい首を傾げた。この声、聞いたことあるよ?

「あれ、風丸くんだ」
「え?…あ、お前、みょうじか?」
「そうだよ、奇遇だねーこんな時間にー」


暗くてわからなかったが、ぶつかったのはサッカー部の風丸くんだったらしい。顔を上げると、薄暗くてぼんやりしているが、驚いた顔をした風丸くんが見えた。綺麗な水色のポニーテールも見える。

と、手が目の前に手が差し出された。え、この手は何だろうと思ったが、風丸くんのとりあえず立って話そうぜという言葉で合点がいく。尻餅をついたままの私に手を貸してくれるんだ、優しい。好意に甘えて手を掴むと、ひょいと立ち上がらせてくれた。私、重かっただろうな…。

改めて相手のことをみると、ああやっぱサッカー部は暗くても美形…はともかく、何故かジャージ姿。

「風丸くん、学校帰り?にしては遅い気もするけど」
「あー、明日提出の数学のワークあるだろ?教室に忘れたから取りに行ったんだ」
「そっか、なるほど。うちの学校、再登校は制服かジャージだもんねー」

風丸くん偉いな、私も家に帰ったら残りやらなくちゃ。
そっちは何してたんだと聞かれ、おつかい頼まれてサイダー買ってきてたと答えておいた。何故サイダー?と一瞬ぽかんとした顔をした風丸くん。珍しいものが見れてちょっと楽しいのだが、そろそろ寒い。ついでに買い物袋が手袋越しにも食い込み痛くなってきた。大きいペットボトル4本は結構重いし。けど、なんでこんなに重いのサイダー!

「えと、じゃあそろそろ帰る?寒くなってきたし」
「そうだな。…そうだ、みょうじはどっちに行くんだ?」
「私はこっちだよ」

と、十字路の左を指した。風丸くんはそうか、と笑い、ごくごく自然な動作で私の手からペットボトルを取り上げた。軽くなる手と、はい?と間抜けな顔をしているであろう私。

「俺もこっちだから途中まで持つよ」
「あ、そうなんだ…いやでも大丈夫、ちゃんと持ってけるし…」
「重くて手がぷるぷるしてたぜ?それにさっきぶつかっちゃったし、それのお詫びってことで」

言うが早いがすたすた歩き出してしまった風丸くん。行かないわけにもいかず、諦めてご好意に甘えることにしました。


通りすがりの、
(クラスメートとぶつかりました)

(ありがとね風丸くん、じゃあまた明日ー)
(ああ、明日な!…あ、朝迎えにくるから!待ってて、な!)
(…え?)

((なんでですか風丸くん。))
((やっと話せたこのベタなチャンス、無駄になんてしないさ!))


++++
裏設定
風丸とは同じ班(風丸班長)

旧サイトの1番初めに置いた短編です。拙さの戒めの為に連れてきました。


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