--逃走すれば捕まる道理



今現在、私は校舎の陰でじっと息を潜めていた。何故ってあれだ、鬼ごっこをしているからだ。
提案したのは円堂。早めに練習が終わったから鬼ごっこしようぜと言い出したのだ。抗議もできないままスタートしてしまった鬼ごっこに、練習直後で疲れているメンバーは残った力を振り絞って逃げ出した次第である。

離れた場所から壁山のひぃぃなんて叫びが聞こえてくる。必死で逃げているらしいが、私は走るなんてまっぴらごめんなため、こうして隠れることにした。見つかりませんように、


「よっ、なまえ!」
「……っ、円堂…!?」


見つかりませんようにと祈った矢先に、後ろから肩を叩かれた。
え、私もう捕まったのこれ…?


「俺も隠れてていいか?ちょっと疲れちゃってさ」
「え…鬼じゃないの?」
「ん?ああ、俺は違うぞ。最初の鬼は鬼道で、捕まったやつも鬼になってる。確か…」


捕まらなくてよかったけど、あの流れだと言い出しっぺが鬼じゃないのかよ。
しかもこれ、増殖タイプの鬼ごっこだったようだ。円堂いわく、すでに豪炎寺や吹雪、春菜ちゃんや綱海も捕まったらしい。おそるべし鬼道、一番鬼になって欲しくない二人を真っ先に捕まえるとは…鬼道なだけに鬼は得意なのか。


「円堂、それ全部見てたの?」
「見てたっていうか…そいつらに追いかけられた!根性で逃げきったけどな」
「お、おそるべし円堂パワー…」
「褒めるなって。じゃあ俺行くな、なまえも頑張れよ」


褒めてないよそれ。そう突っ込む間もなく走り去った円堂、なんだったの君。けど収穫はあった、…逃げきれる可能性は限りなく低いことがわかったから。
やっぱり私は隠れるのに徹しようそうしよう。そう心に決めて前方を伺うと、あらびっくりピンクのもふもふがすぐ近くに。ばっちり目が合った。


「お、なまえ?」
「さよなら綱海!」


即刻逃げ出した。まさかこんなに早く全力疾走する羽目になるなんて…!
けどあれだ、私も走りならほんの少しだけ自信がある。加えてマネージャーの私の方が疲労度は軽いし、綱海だって疲れてるはずだ。どっかで撒ければ逃げ切るチャンスはある。
しかし、ちらっと後ろを見ると、またまたびっくりかなり近くにいらっしゃる綱海。え、何故。


「ちょ、疲れてないの…!?」
「いや、そんなに。彼女の前で格好悪いとこ見せらんねーしな。まあとりあえず、」


全部聞く前に前方を見据えて全力疾走。ほら、こういう遊びしてる時、捕まるのが妙に怖くなることがあるじゃない?そんな感じになったから、とにかく走った。走って走って、けど後ろの足音はどんどん近くなる。駄目だ、捕ま…る…!

と、ぐいっと手を掴まれた。急に後ろに引っ張られたためバランスを崩しかけたが、その前に体が持ち上がる。あの、お、おおお姫様だっこ、のように。けれど、それによってさっきの怖いという感覚は払拭され、逆に安堵感が芽生えた。…私は力強い腕に支えられて、自然と安心したようなのだ。

安堵感に促され、閉じていた瞼を開く。やはり近くに、満面の笑みを浮かべる綱海が見えた。


「とりあえず、嫁さん捕まえた!」


捕まえられた。



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