--「少し肌寒いですね」


買い物帰りでゆらっと見上げた空に、大きく見える光。
満月が近いのだなあと思って、ああそうか、今は秋だとふと気づく。やたらに暑くて忘れかけていた。ここ数日の夜は幾分過ごし易いし、ならばと少し目を瞑った。晩酌の時にでも、誘ってみても良いかしら。

「ねえ、この後、少し外へ出ませんか」
「何故?」
「満月の夜空を眺めるのも良いかと思って」
「秋の月見酒…たまには良いか」

思ったよりもあっさり誘われてくれたもので、少しばかり拍子抜けしてしまった。嬉しいものは嬉しいものだが、あらまあ、と口の中で呟いていたのを見透かされたようで片眉が跳ねる。

「誘ったのはお前だろうに」
「あまり興味はないかなあと」
「…風情を解する情緒くらいは持ち合わせている」

ほんの少し顰められた眉についつい微笑みながら、雲が流れてくる前に酒類と甘味を盆に纏めて。あとは羽織ものをと振り返れば、「風が出れば冷えるだろう」と既に彼の手元にあった。肩に掛けられた上着と引き換えに盆も持替えられて、あんまりに自然に優しさを浴びると、どうにも未だにくすぐったい。手持ち無沙汰になったこの両手をどうしてくれよう。

既に窓から外へ足を踏み出している背を追えば、ところが出てすぐで空を見上げている。どうしたかと袖を引いて見上げれば、僅かに朱の差した目元がこちらを向いた。

「月並みなことでも言っておこうか」
「月並みなこと?」
「――月が綺麗ですね、という奴だ」
「…あら、まあ」

言ってからすぐ、ふいと顔を背けられて。煌々と明るい満月が、少しだけ紅い肌の色を照らしている。ねえ、私まで照れてしまいますから、せめてこちらを向いていて頂戴。

***

過去参加の夢イベお題企画にてチャレンジしたもの。お月見です

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