ハロー! 我が愛しのテロリスト達!

*苗字は藤丸→春夏冬あきなしで固定


最後の記憶はよく分からない。時間神殿で正マスターである妹を進ませようとして記憶が途切れたから__まああの状況なら多分死んだのだろう。生きて帰るという強い意志があったわけではないが、別に死ぬつもりも無かったのだけれど。

多難な旅路に大切な妹を残して逝くことは心が痛んだ。立香はまだ庇護されるべき未成年であったし、それを抜きにしても大切な家族であるし。しかし、過ぎたことは今更言っても仕方がない。

もう俺が守れる範囲からは抜けてしまったから。五体満足でカルデアに戻って、美味しいご飯を食べて、人理修復が完了した世界で普通の女の子・・・・・・に戻ってくれたらそれでいい。


そんな今の状況で言えることはただひとつ、おそらく俺は世界を渡った。それも、かの剣豪の様に生きたままではなく__生まれ直して、だ。



少し前に、平成からH歴に元号が変わった。

大正、昭和、平成と来て突然ブチ込まれたH歴。他にも歴史はカルデアで学んだ記憶と要所で食い違い、表向き銃火器は排除されて、代わりの武器であるヒプノシスマイクで喧嘩をし、土地を代表するチームがラップバトルで領土を取り合う世界。こんなんもう「世界を渡った」としか説明のしようがないだろう。

世界を渡ったとは言えど容姿は前とほぼ同じ。少し癖のある黒髪と、黙っていれば優しそうな平凡顔。「ほぼ」と言うのは片目が妹の色をしているから。青とオレンジのオッドアイって何それめちゃくちゃラノベじゃん。しかも黒髪平凡顔。これはもうどっからどう見ても転生系ラノベ主人公ですわ。ハーレムでも作れんのかな? 妹みたいなバイオレンスハーレムは勘弁してもらいたいけど。


なーんて、思ってた時期も少しはあった。


それも本当に少しだけ。何故って? ひとたび家の外に出れば英霊と見紛うカラーリングの人間がそれはもうゴロゴロと居たからだ。ドクターと妹? あの人達は別。

国のトップは青い髪、ナンバー2なんかはピンクの髪。身近な例だと一瞬近所に住んでたちょっと年下の兄弟は皆オッドアイ。お父さんもオッドアイだったからおそらく遺伝だろう。オッドアイ……俺だけじゃなかったな……? ハーレム形成失敗フラグありがとうございます。

「また派手にやったなあ? 薙」

薙、とは前も今も変わらない俺の名前だ。今は春夏冬あきなし薙。初見ではまず読めない名前が多いこの世界で、字からそこそこ推察ができて画数も多くない苗字を持てたことは単純にありがたい話だ。

「遅いですよ左馬刻さん」
「俺も忙しいんだわ」
「若頭だから?」

ふかしていた煙草を踏み潰して「大変ですね」と言えば「思ってねえだろ」と、頭を掴まれる。では英霊達に揉まれていたから別に痛くは無いけれど、多分そこそこの力は篭っているはずで。頭が変形したらどうしてくれんだ。

薄暗い路地裏でケラケラと笑いながらアロハと戯れていると、ふと違和感を覚えた。そういえば足元に転がるチンピラの回収を依頼したもう1人・・・・の姿が見えない。

「入間さんは?」
「もう着くってよ」
「やっぱりお忙しいんですね」
「だからそう言ってんだろ」

まあ、相手はヨコハマを仕切る組の若頭と公務員。眠れないからって、夜な夜なほっつき歩いてチンピラ狩りをしている俺なんかとは比べ物にならないくらい忙しいのだろう。いや、比べるのも烏滸おこがましいか。「銃兎に引き渡したら飯行くぞ」と言ってくれる左馬刻さんに気の抜けたお礼を言う俺なんかよりよっぽど。まあヤクザと汚職警官だけど。マジで何なんだこの世界線は。

「ってか左馬刻さんは呼んだのだいぶ前ですよね? 実は声掛けてくる前から居たりしました?」
「あー……まあな」

口を尖らせて「じゃあ早く出てきてくださいよ」と言えば、歯切れ悪く「バトル中のテメーは何言ってっか分かんねえんだよ」と言われる。心当たりが無いわけではないけれど、ここで認めてしまうのも癪なんだよな。俺の滑舌が悪いみたいじゃん?

「えぇー? 左馬刻さん耳悪いんじゃないですか?」
「生意気な事を言うのはこの口かァ?」
はまほひはんいひゃいでふ左馬刻さん痛いです
「ハッ、ブッサイクな面だな」

いや、誰のせいだ。



「ああ、おかえり。また来てくれたんだ?」

煌びやかな店内から、入り口扉の鈴を鳴らした女性に声を掛ける。「いらっしゃいませ」ではなく「おかえり」。しかもタメ口な時点で察せられるとは思うが、ここはそういったコンセプトカフェである。具体的には執事系の。

「しばらく帰ってこないからもう来ないのかと思った」と冗談めかして言えば「またそんな事言って」と笑って流される。この顔でこれ・・を許されるキャラクターを割り当てられたのには驚いたけれど、お嬢達の反応を見る限り間違っては居なかったのだろう。

カウンターでシェイカーを振っているとお嬢から「藤丸、」と声が掛かる。さっきまでも普通に喋っていたのだけれど、わざわざ名前源氏名を呼ぶということは相応の話があるのか。

「何?」
「昨日の夜にそこの路地で絡まれたんだけどさあ、これって警察とかに言った方がいいかな?」
「え……大丈夫だった?」
「大丈夫大丈夫」

突然ブッ込まれた話題に思わず素で返してしまった。本人は大丈夫だと言っているし実際大丈夫そうだが、このご時世に絡みに行くような奴は大概マイク持ちなので危険であることには変わりない。何でわざわざそんなタイミングで店に来たのか。

「急に藤丸に会いたくなったんだよ」
「……顔に出てた?」
「もうバッチリ」

サーブしたノンアルに口を付けながら「気を付けなよ」とカラカラ笑うお嬢に毒気を抜かれる。H歴に変わってから女性優位になったとは言え、サーヴァントでもない彼女達は腕力を持ち出されたら抵抗手段が格段に減る。ずっと男に守られていろと言う気は微塵も無いが、危険が無いわけではない。最近は違法マイクの話も聞くし、特に彼女はマイクを持っていないはずだ。

「お嬢も気を付けなよ? 後で社会的に殺せるかもしれないとは言えその場で何もされないとは限らないんだから。お嬢が傷付くのは俺も嫌だよ」
「……私、藤丸のそういうところも好きだよ」
「そりゃどうも」

とはおそらく色違いの目の事だ。採用時にもオーナーに言われたけれど、やはりこの世界でもオッドアイは珍しいらしい。目の前の彼女の様に、この目を気に入って通ってくれているお嬢も居るくらいだからハーレム形成はある意味成功したと言えるのか。想像していたハーレムとはちょっと違う気もするけれど、悪い気はしないので気にすることではない。

それから。少し話したあとで「藤丸もああ言ってたし、今日は明るいうちに帰ろうかな」と言って帰って行ったお嬢を見送り、店内に戻る。今日は俺もあと数時間で退勤、そこからは掛け持ちしている中華のバイトも入ってなくて、締切が迫ったレポートもない。ならばお嬢が絡まれたと言う路地にでも行ってみようか。





「よォ兄ちゃん。人待ちか?」
「にしては誰も来ねえよなァ」
「振られたのか?」

退勤時間には既に暗くなっていた路地で紫煙を吐いていると案の定。

絡んできたのは、腰にマイクを付けたいかにもな男が複数人。お世辞にも綺麗とは言い難い笑い声を上げながら「ならデート代置いてけや」と言う彼らに自分のマイクをチラつかせると、ボスらしき男の口元が歪んだのが見えた。

「へえ、ヒョロっちい割に好戦的だな。いいぜ、ノってやるよ」

多対1、マイクあり。傍から見たら圧倒的に不利に思えるその状況にも怖気付くことは無い。どこかの王様みたいに慢心するつもりは無いけれど、これでもサブマスターとして妹を支えてきたんだ。大丈夫、俺ならできるよ。

相手がマイクを起動したのを見ながら心の中でカルデア式の召喚詠唱を唱える。わざわざ唱えなくても良いらしいけれど、これでスイッチが入るのだから別に良いだろう。

「行くよ船長」
「任されて♡」



「今回も派手にやりましたなあー?」

結果は、まあ、いつも通り。やり過ぎない程度に無力化したつもりだけど、スキルを考えるとせっかくの手加減も機能しているか怪しいところだ。ああ、この世界ではアビリティって言うんだっけ? 似たようなもんだろ。知らないけど。

調子よく「三三七拍ぉー子!」と言うサーヴァントを無視して入間さんに連絡を入れる。仕事を増やして申し訳ない気持ちはあれど、知り合いの警察官なんて彼しかしないのだから許して欲しい。

横から「やらないの?」と残念そうな声が掛かるが、まあいつもやらないので今日もやらない。多分今後もやらない。本人も別に気にしてなさそうだから、今更やらなくても良いだろう。

「今日もありがとうね、船長」
「……マスターにお礼を言われると気持ち悪いですな?」
「なんだとー??」

「拙者鳥肌立った」と腕を見せてくる大男と戯れていると、地面に伸びているボスらしき男が呻き声を上げた。店周辺の治安のためにもやっぱトドメは刺しておくべきなんだけどな。そうすると加減ができなくてこっちがしょっぴかれかねないから……。

「お前、なかなかやるな……」
「そりゃどうも。さっき警察呼んだから社会的に死ぬまでの余生を堪能しておきなよ」
「まあ……そう言うなよ。どうだ? お前も俺の船に乗らないか?」

どこにそんな元気が残っていたのか「俺とお前が組めばMTCなんて目じゃないぜ」と、尚も言葉を吐き続ける男に冷めた目を向ける。自分が下した相手に誘われて乗る人間が何処にいるのか。そうでなくとも、ここがヨコハマディビジョンであるとは言え、よりにもよってその言葉選びをするのか。

思わず起動したままのマイクを握り直すと、高いところから肩を掴まれて「薙氏」と制される。ガチじゃん。珍しく名前なんか呼んでくれちゃってさあ。そんなことしなくても分かってるよ。俺のスキ……んん、ヒプノシスアビリティは多用すると危険なんだから。

前の世界から変質してしまったそれは、バトル中にしか発動しない代わりに、バトルの相手を自分と対話可能なレベルまで落とす・・・ものだ。だからバトル相手以外には言葉の意味は通じないし多用も危険。いつだったか左馬刻さんに「バトル中のお前は何言ってるか分からない」みたいな事を苦い顔で言われたのは、このアビリティに起因しているのだ。断じて俺の滑舌が悪いわけではない。

「探しましたよ薙さん」
「入間さん、お疲れ様です」

良いタイミングで出てきてくれた入間さんに「呼び出しちゃってすみません」と言いながら、尚も勧誘を続けるボスを見やる。お前、入間さんの前でよくそんな真似ができるな。罪状増やされても知らないぞ。

「考えといてくれよ? お前と俺が組めばMTCなんて、」

よく本人を前にしてそんな暴言が吐けるな……と、ある種の関心を覚えていると隣から「これはこれは、公務執行妨害と侮辱罪も追加ですかね」と聞こえてきた。ほらもう言わんこっちゃない。引き立てられながらも引き下がる気が無さそうな男に、流石の入間さんも面倒になったのか「何とかしろ」との目線を向けられる。

後が面倒だしあんまり言いたくないんだけどな、と思いつつもこの状態なら埒が明かないことも分かってしまった。ならばもう仕方ないか。

「悪いけど俺の船長は1人だけなんだよね」

言外に「チームを組むつもりは無い」と言えば、入間さんが「そういう事だ」と連行してくれた。そもそも俺とチームを組んだところで、観衆がいる場でのラップバトルは出来ないのだけど。そこんところ分かってんのかな? 分かってなさそう。

とっくにマイクを切って霊体化したのに『なかなか嬉しいことを言ってくれますなあー?』なんてうるさいサーヴァントの相手をどうしようか考える。あの野郎、爆弾だけ置いて行きやがって。やはりトドメは刺しておくべきだった。





春夏冬あきなし薙/藤丸
__

運命がカードを混ぜ、我々が勝負する。
Fate shuffles the cards and we play.
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HYPNOSIS ABILITY −Mental Corruption精神汚染
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藤丸立香ぐだ子の兄。混沌/善。
fgo世界で死んだらラップバトルの世界に生まれ直したサブマスター。fgo世界ではただの精神弱体耐性だったのがヒプマイ世界に来て変質した。

今世ではヨコハマでコンカフェと中華のバイトをしながら大学生してる。源氏名は忘れない為に前世の苗字をそのまま使用。ヒプマイ世界で成人済み。

サーヴァントについて:マイクを起動したら実体化、切ったら霊体化。霊体化していてもマスターとは意思疎通が可能。





『……およ?』
「どしたの船長」
『今妙に懐かしい気配が……』

初めてマイクを握った日、戯れに唱えてみた詠唱で全てを悟った。

起動と同時に現界したのは前で俺が唯一召喚できたサーヴァントエドワード・ティーチ、その人。共に特異点を駆け抜けた記録も、カルデアで性癖バトルをした戯れた記憶も、彼に引き摺られて何度も即売会を回った思い出も、全てを保持したままの同一人物。

触媒は無い。召喚陣だって描いていない。そもそも再召喚の場合、同一人物が喚ばれることは無いはずで。いくつものありえない・・・・・が重なった上で導き出される仮説なんてひとつしか無かった。

それでも記憶保持については説明ができないけれど、まあそういうもんだろ。仮説が当たっていたとしたら本当になんでもアリなんだから。チェイテ城に逆さピラミッドは刺さるし、その上には姫路城だって乗る。頂上には引きこもりの姫も居るし、歌姫を模した巨大なメカも居た。いや、アレはマジで何だったんだ。……だめだ、これ以上は考えない方がいい。

『いや、気のせいですな。忘れてくだちい』

しばらく考えるように黙っていた船長の声が、いつかのハロウィンに飛びかけた思考を現実に引き戻してくれる。いつもは鬱陶しいときもあるけど今回ばかりは正直助かった。それで何の話だっけ。そうだ、確か船長が懐かしい気配を感じた話。

かねてよりの懸案事項はこの世界の規模。放っておいても消滅してしまうものだったら良かったのだけど、『懐かしい気配がした』のならばそうでも無かったらしい。

「気のせいじゃないよ。多分ね」







ゲーティアを倒して命からがらカルデアに帰還したら、私を先へと進ませる為に途中で別れた兄が戻っていなかった。

ドクターだけでなく兄も消えて、カルデアは襲撃されて。マシュと小さいダ・ヴィンチちゃんとカルデアの皆、それからホームズと新所長で彷徨海にたどり着いた。シオンとネモにも会って、色々あって仲間も増えた。

人が普通に生活している異聞帯を自分達の為に無かったことにする。その過程にゆっくりと兄を悼む暇なんてあるはずもない。

毒耐性を持たない代わりに精神攻撃への耐性がすこぶる高かった兄。「立香が早く普通の女の子に戻れるように俺も頑張らないとな」なんて言ってよく頭を撫ぜてくれた兄。私が折れそうになる前に自分が矢面に立ってくれた兄。私ができて自分にはできないことを理解して、それでも私の代わりに怒ってくれた、大好きな兄。

思い出すほどに感情が揺らぐ。何で私を置いていったんだ。「俺に出来ることなら何でも言って」じゃなかったのか。じゃあ今すぐ戻って来てよ。声を聞かせてよ。顔を、見せてよ。

『__立香ちゃん、連続で悪いけど特異点・・・だ』

通信に入ったダ・ヴィンチちゃんの声に、重い体を起こして目元を拭う。

特異点、それは白紙化した地球で観測されるはずのないもの。ただでさえイレギュラーな下総国から帰ってきたばかりなのに。文句ならばいくらでも出てくるが、発生してしまったものは取り除かなければならない。そもそも文句を言ったところで状況は変わらないのだ。腹を括って息を吐く。微妙な空気にはなるかもしれないけど、小さな溜め息くらい許してほしいな。

『場所は日本、現代に近いけれど相違も多々あるみたいだ』
「へえ、新宿みたいな感じかな?」

想像以上に普段通りの声が出せた。これなら次の特異点も大丈夫そうだ。

いつも以上に考え込んでしまったのは珍しく精神攻撃を受けてしまったからだろうか。
下総国でリンボに掛けられた呪い・・にはかなり堪えた。精神系の攻撃はいつも兄が庇ってくれていたから、私が受けることなんて今までになかったのだ。

__ああ、だめだめ。今は切り替えないと。


『現地での元号は__H歴』


これは、私がやらないといけないことだから。






心のどこかで君を待ってた
___
2022.9.25(2022.11.23 加筆修正)