渾身のプロポーズを躱されている

諸伏に元カノ(not夢主)が存在する世界線です。
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「ねえ諸伏、結婚しない?」
「俺ら付き合ってもないのに?」

 もう何度目かも分からない私からの問いかけに、笑いながらそう言った諸伏とは、中学からの付き合いだった。
 中学は当然としても、高校大学、それどころか、警察学校まで一緒になって。流石に級は違ったものの、ずっと付かず離れず、みたいな。あちらがどう思っているのかは知らないけれど、個人的には諸伏から見て悪友ポジションになれていたら万々歳程度の関係である。

 声良し、顔良し、成績良し、おまけに性格も良くて品行方正。運動だって当然の様にできてしまう。普通に考えれば考えるほど、私みたいな平凡な女が釣り合うとは到底思えない。
 けれど、好きなものは好きなのだ。綺麗な顔も、気安く喋れるところも、優しげな印象の割に結構ずけずけ言うところも。全部、大好きなのだ。

「諸伏の隣には常に降谷が居るから、顔面は……無理だろうけどさぁ」
「自分で言ってて悲しくならないの?」
「あはは! なるんだなあ、コレが」

 私がそう笑い飛ばせば、諸伏は少し困った顔で「なら言わなきゃいいのに」と零す。──ああ、この顔も好きだな。

「事実だからね。良い女は事実を受け入れてこそ輝くものさ」
「……はは、かっこいいね」
「でもさ、話戻すんだけどさ、ストレートの諸伏の一番近くにいた女は私じゃん? ノリも悪くないし、このまま行けば未来は公務員だし、安牌だと思うけど」
「ん〜……考えたことなかったな」

 顎に手を当て、普段のノリでサラリと躱そうとする諸伏には少しイラッとした。何が『考えたことなかった』だ。こちとらプロポーズだけなら高校生のときからやってるんだが。
 確かに私は諸伏にとって、諸伏を「ひろみつ」とか「ひろくん」とか呼ぶ勇気も根性もない、面と向かって好きだとも言えない、言ってしまえば歴代彼女にも及ばない「何かずっと近くにいるなあ」くらいの女なんだろうけれど。それでも、そこそこに心にはクるものはある。降谷に顔で勝てないことよりも、少しだけ心の奥がザワザワとするのだ。

 諸伏にとって私と一緒になる上でメリットになりそうなことを並べても、暖簾に腕押し、柳に風。のらりくらりと躱される未来しか見えない。というか、これまで似たようなことを言ったときもそうだった様に、今もそれ以外の結末は、諸伏に到底及ばない程度の私の頭では浮かばない。

 確かに私が幾ら未来の公務員と言えど、諸伏も未来の公務員だ。もっといえば、これからノリが合う女なんて幾らでも出てくるだろう。もっと美人な女も、私よりスタイルがいい女も、こんな冗談めかしたものではなく、ちゃんとしたプロポーズができる女も。
 あ、何か考えてるだけで泣けてきた。なのでもうこの話は終わりです。強制終了、ばいばいきーん。





「スコッチ、そろそろアレ……どうにかしないんですか」
「え? あぁ……アレはもう、無理だろ」

 潜入中の組織で、共に潜入しているゼロから、たまに暈して聞かれることがある。中学から一緒で、果ては警察学校まで一緒だった──事ある毎に自分の有用性をプレゼンして、プロポーズ紛いのことをしてくる女の子のことだ。
 とはいえ、付き合ったことはない。直接「好きだ」と言われた記憶も、ない。

 それでも関わるうちに、此方としてもやぶさかではない感情が生まれたことも事実だ。顔以外でも、ゼロには勝てるわけがない眉を下げて笑っていた表情も。まっすぐな芯があって、良い女であろうとしているところも。俺としても、絆されている自覚はあった。だから、応えようとはしたのだ。警察学校を卒業して、正式に公務員の地位を得た後に。
 しかし卒業後に配属されたのは、周辺の人と繋がりを断つことを要求される警視庁公安部で。しかも今は、国際的な犯罪組織への潜入捜査官だ。どうしたって応えられない。

 警察学校を卒業後は、当然それまでの交友関係を一切断った。潜入後に至っては、当然連絡なんて取れる状況ではない。
 彼女が希望していた交通課で、可愛い後輩を侍らせて満足気にしていることは既にリサーチ済みであるが、流石に協力者でもない人間に[[rb:公安部の潜入捜査官 > 俺]]からコンタクトを取れる訳がない。彼女を危険に晒したくないことは大前提だとしても、今更応えるなんてことはどの道もう不可能なのだ。

「無理だよ、バーボン。もう二度と会えないだろうから」
「……二度と会ない、の間違いじゃないんですね」

 既に絆され掛けていた中学のときから俺の感情に気付いていたゼロは、しばしば関係性を進めろとせっついてくる。でももう、無理だろ。

 市民を守る為に警察官になった彼女と、結果市民を守ることに繋がるとはいえ、愛用のライフルで人の頭を撃ち抜く俺。殺す人間が犯罪者とはいえ、広義で言えば俺の行動はとっくに法に触れている。釣り合うわけがないし、隣に並ぶ権利なんてあるわけもない。


 だからもう、二度と会うことなんてない。そう思っていた。


 12月、雪でも降りそうな天気の日の夜。俺は組織にノックだと割れた。自分の情報を組織に割れるようにしたつもりは微塵もなかったけれど、現にノックバレした今何処から情報が漏れたかなんて分からない。外部からか、考えたくはないが身内からか。
 やけにクリアな頭を回しながら、組織の追ってから逃げ続けた。とにかく組織から逃げなければ。逃げ切らなければ、携帯に残る公安部の仲間の情報が──どうしても消せなかった彼女の写真が、国際的な犯罪組織に流れてしまう。

 そう遠くない位置に追っ手が居ることは知っている。しかもその追っ手が、寄りにもよってライであることも知っている。俺とバーボンとでスリーマンセルを組んでいたからよく知っている、協調性はないが仕事はできるあのライだ。

 追っ手がライだということに気が付いてすぐ、これはもう何処にも逃げられないと悟って。ゼロに遺書めいたメールも送った。だから、あとは人気のないところに逃げ込んで、追っ手であるライの目の前で情報の詰まった携帯ごと自決する、だけ。

 人目を避け全速力で死に場所を探している間、最後に彼女に会いたかった。彼女の声を聞きたかった、なんて。そんなことを考えていたから──バチでも当たったのだろうか。

「も…………え?! 何であか、貴方と一緒に彼が居るんですか!」

 何で、ライに追い詰められて逃げ込んだ廃ビルに君が乗り込んで来たんだ。





 愛車を転がしていたら、ものすごい形相で走る知り合いを見つけたから。映画とかでよくある「Hey! お兄さん乗ってく?」をカッコよくやろうとして──何故、その知り合いが人に拳銃を向けている場面に遭遇するのか。
 ここは日本なので紛れもなく銃刀法違反である。お前の遵法精神どうなってんだよ。しかも相手は諸伏、言わずもがな中学時代から長年の片想いを拗らせている相手である。

 警察学校を卒業してすぐ「警察辞めるわ(意訳)」の連絡の後、音信不通になった諸伏──ついでに降谷──の所属は、何となく察している。その部署において潜入任務があることも、知識としては知っている。だから咄嗟に本名を言おうとして、やめた。

 知り合いも知り合いだ。隠しごとが壊滅的にヘタクソな普段の言動や、気を許したのか少しづつ開示してくれるようになった情報からFidelity・Bravery・Integrityを掲げる他国の組織に所属していることも察してはいたけれども。この場合はお互い、それぞれ正規の立場での会合でないことくらい馬鹿でも分かる。
 だからこちらも本名を──少なくとも、私が聞かされていて本名だと認識している名前を呼ぶことはしなかった。

「説明……!!」
「していいのか?」
「やっぱ今のなし。あー、とりあえず私は何も聞いてないから、積もる話はどうぞ、その、お二人でご自由に」

 一瞬何も考えずに説明を求めかけたが、状況を半分程度理解していそうな赤井さんに怪訝な顔を向けられては正気に戻る他ない。何でこちらから何も言ってないのに半分も状況を理解しているんですか。天才だからですか。

 しどろもどろになりながらも、万が一のことを考えて、赤井さんが諸伏に向けている拳銃だけ没収して。目立たない所にしゃがみ込み、耳にイヤホンを突っ込む。実際に音楽を流しているわけではないけれど「聞いていません」アピールをする事は大事である。
 赤井さんの声で「証人保護プログラム」とか「俺はFBIだ」とか聞こえるけれど私は何も聞いていない。聞いていないったら聞いていないんだ。お前FBIだからって日本国内で銃を携帯するんじゃない。捜査協力もしていないだろうが。──いや、捜査協力に関しては知らないけれど。

 ──彼らが話し始めて少し、階段を登る足音が聞こえた。タイミング的に、私がここに来るまでに見掛けてガン無視した白のFDの金髪運転手で間違いないだろう。十中八九、諸伏と共に音信不通になった面の良い野郎である。
 ふう、と少し息を吐いて思考を整理する。やはり、どう考えても、このタイミングでこの場に来れる人は白のFDを乗り回していた人以外に見当たらなかったのだ。この少しの時間で、廃ビルが立ち並ぶ入り組んだこの一帯で。的確にこの建物まで来ることができる人なんて、彼以外に思い浮かばない。

 よっぽど諸伏が取りそうな行動を理解しているか、もしくは諸伏にGPSでも取り付けているか。天下の公安部が自分に付けられたGPSに気付かないことはないと信じたいし、前者ならば、それこそ幼馴染の降谷以外に居ないだろう。だからそのまま息を殺して、扉の影で気配を消していた。

 焦った顔をこちらに向ける諸伏なんて知らない。知らないったら知らない。





「で、お前はそこで何をしているんだ」

 気配を消しつつ素数を計算して暇を潰していたら、743まで数えたところで赤井さんは居なくなっていた。とりあえずの話し合いは終わったのだろうか。じゃあこいつらも早く帰ってくれないかな、大丈夫そうなら私も帰りたいんだが。

「この僕を無視するとはいい度胸だな」
「あ、私か」
「お前以外に誰が居るんだ」

 イヤホンを取られ、伏せていた顔を上げると私の前でしゃがみこんでいる降谷と目が合った。降谷の奥には困ったようにこちらを見やる諸伏も居る。
 否、この場合は「降谷」でも「諸伏」でもないのだろうけれど。暫定降谷と暫定諸伏は──ええいめんどくさい。

「個体識別の為のお名前をどうぞ」
「は? ……ああ、僕は安室。後ろにいるのは緑川です」
「そうですか、では安室さん。これを先程の長髪の男性にお返ししておいてください」
「分かりました」

 万が一を避けるために赤井さんから没収した拳銃を明らかに先程までとは口調が変わった安室さん・・・・に預け、帰宅するために腰を上げる。「では私はこれで」と安室さんに会釈をして横を通り抜けようとして──進行方向に立っていた別の人間に気付かなかった。

「うわ、本当に来た」
「本当にそのまま帰るつもりだったんですね」
「何でぇ……」

 近くに居た緑川さんに気付かなかった私は当然、彼の胸に突っ込む事になるわけで。おっぱい胸筋すご。私よりあるんじゃない? なんてアホな考えはすぐさま頭から消し去った。流石にそれは悲しすぎる、じゃなくて。

 ──そういえば、さっき。安室さんの名前を聞いたときに、わざわざ開示する必要のない緑川さんの名前まで教えてくれたのは何故だろうか。「名前を知ったからには関わってないとは言わせないぞ」ということなのだろうか。なるほど、コレが公安お得意の恫喝か。
 そこまで考えて、ようやくスーパーブレインな幼馴染コンビに囲いこまれていたことを悟る。情けない声で「おうち帰してよお……」と泣き言を漏らすも、頭の上からは「やだ」とやけに楽しそうな声が降ってきた。
 いや、言い方よ。「緑川さん」はそういうキャラなの? 「安室さん」が諸伏よろしく好青年っぽい口調なのみたいに? どんな君でもかっこいいね。結婚してほしい。

「緑川さん」
「何……あ、待って嫌な予感する。言わなくていい」
「結婚して」
「初対面で結婚とかないだろ」

 最早反射で口から滑り出た挨拶がわりのプロポーズは、当然の如く一刀両断された。しかもド正論で。初対面じゃなければ結婚してくれるんですか? とは流石に、聞けるような状況ではなかったのだ。





 あれから。緑川さんと安室さんにセーフハウスなるところまで連行されて、強制お話し会を設けられて、はや数年が経った。当然セーフハウスなんて初めて行ったのだけれど、セキュリティがすごエグかった。元々豊富ではない語彙が消し飛ぶ程には凄かったのだ。
 セーフハウスなのだし当然ではあるけれど、今時スパイ映画でしか見ないようなものばかりで。現実逃避も兼ねてテンションを上げていたら、初対面の・・・・緑川さんからは微笑ましいものを見る顔をされてしまった。元はと言えばお前のせいだろうが。遺憾の意。

 そして、世界的な犯罪組織が壊滅したというニュースを見たのが一ヶ月前と少し前のことだった。夜食の餅を伸ばしながら、二人とも頑張ったのかな、と思ったことをを覚えている。確か、ピーナッツバターと餅の相性の良さに感動していた折のことだったか。
 ──何故今その話かって? インターホンに出たら、カメラの向こうにその片方が居たからだよ。

「久しぶり、元気だった?」
「私、緑川さんに住所教えてないんですけど」
「まあまあ」
「……まあ、立ち話も何ですし。どうぞ」

 推定不審者ではあるけれど、真冬だし、知り合いだし。そうやっていくつもの言い訳を並び立てつつも、来客を招き入れることにした。「良いの? ありがとう」とはにかむ緑川さんの鼻の頭は少し赤くなっていて。どれだけの間寒い外に居たのかと、心配してしまったことも理由の一つだった。

 公安だから他人の淹れたお茶なんぞ飲めないだろうとして「何のお構いもできませんが」と言うと、久しぶり見る顔で困ったように笑われた。ハイハイ、相変わらずお顔がよろしいですね。

「で、何の用ですか」
「ずっと思ってたんだけど何で敬語?」
「特に親しくないですし」
「えっ……」
「緑川さんとは」
「あー、そういう」

 形の良い眉を寄せて意図を察したらしい緑川さんは「今は諸伏だよ」と言う。なるほど、緑川姓を名乗らなくても良くなったということは、やはり例の犯罪組織は彼らが潜入していた所なのだろうか。ならば本題の前に必要なのは労いか。

「そう、おつかれ諸伏」
「……ありがとう」
「で、何の用?」

 労いも終わったし本題をせっつくと、途端に諸伏の目が泳ぎ出す。何?
 今は茶も出せない、その上こちらからは何も聞けないのだ。間が持たないから何かあるなら早く言って欲しい。

「あー、その」
「はい」












「俺と結婚してください」


「は?」



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夢主ちゃん
自分がプロポーズするのは良いけど諸伏からプロポーズされるのは聞いてないんだが? 赤井さんとはなんかその辺で会った(フワフワ設定)

諸伏
実はずっと好きだし、実は結構な時間インターホンを押すのを躊躇してた。