「アンタ、最近随分と元気がないじゃないか」
スコッチがNOCだと発覚してから、そろそろ数年が経つ。とにかく色々あった。
バーボンとライには睨まれるし、ライはNOCバレするし、人質だったシェリーの血縁はジンに殺されたし、シェリーは死んだ。ついでに知らない間にアイリッシュも死んだらしい。アイリッシュについては、一人で呑んでいた最中に絡んできたキャンティからさっき聞いた。
あの場にいたバーボンとライが俺を睨むのは理解できる。俺がいつ彼らがNOCだと告発するか分からないからだろう。俺にその気があろうとなかろうと、潜入捜査官としては気を張るべきことであるから甘んじて受け入れた。
むしろ、というか、告発する前にと先手を打たれていないことの方が驚きなくらいで。まあ、ヘマをしたわけでもない幹部をサクッと始末すると自分達が睨まれかねないし、俺は俺で、既に幹部まで上り詰めた優秀なNOCを告発する気はさらさらないしで、未だにお互いだんまりではあるが。
問題はライのNOCバレだ。ライ本人の不手際ではないために、彼を責めることはできないが──俺が告発するまでもなく疑惑のあったライを嵌める
組織の策とはいえ、取引現場に居座る老人に声を掛けてしまうFBIは、何というか。こう、お人好しが過ぎないだろうか。
構成員にもジジイはいっぱい居るぞ。声を掛けたFBI捜査官は表で生きる人間なので、仕方ないことではあるのだが。
ライがNOCバレしたことによって、ライを組織に引き入れたシェリーの血縁は殺された。ジンも忠誠心故の行動とはいえ、大概感情優位なきらいがある。少し考えたら人質が居なくなったシェリーが組織に残る理由がないことくらい分かるだろうに。
そしてシェリー。彼女は自ら未完成の毒薬を飲んで死んだ──ことになっている。というのも、遺体が見つかっていないからこその生死不明だ。
これだけ出てこないのなら死んでいるはず、という意味での『死んだことになっている』である。ようやくこのクソみたいな組織から逃げ出せたのだ。逃亡先があの世でなければ良いと思うのは、未来ある未成年に抱く感情としては不思議ではないだろう。
アイリッシュは──組織の人間にしては良い奴だったし、そのうち死にそうだなと思っていたので特になし。
「ちょっとアイラ、聞いてんのかい」
「あ……ごめん。俺は元気だよ」
「……鏡でも見ておいでよ」
「最近は銃も全然使ってないみたいじゃないか」と、呆れの中に心配を滲ませながらラフロイグを煽るキャンティに「銃は元々使わない方だ」と返す。元々使わない方という言葉に嘘はないのだが、その中でも使う頻度が急に落ちたことは確かで。
気分が乗らないのもあるが、一番の理由は──いや、今はその話はいいか。
以前なら四ヶ月に一度使う程だったのが、もう三年は弾すら込めていない。一応そのうち使う予定はあるからこそ、メンテナンスだけは他の道具と一緒にしてはいるが、本当にそれだけだった。
「やっぱアレかい、シェリーの」
「あー……確かに。歳若い子の自殺はキツいな」
「……それが違うならあのネズミだね」
「緑川ァ? ナイナイ、ただの元部下だろ」
「アイリッシュは?」と聞くと「アンタはアイリッシュでそうなるタマじゃないだろ」とのことで。まあそう。どうせ俺が死んだら地獄で会えるだろうから気にはしてない。間違いなく良い奴だとは思っていたが、それも組織の人間にしてはが枕詞に付く程度であるので。
あいつもどうせ地獄行き、俺も当然地獄行き。地獄があるのならばの話ではあるが、そういうものだ。どうせ近いうちに会える。
だらだらと喋りながら手元にサーブされたタリスカーで喉を焼いていると、不意に緩く巻かれたプラチナブロンドが視界の半分を遮った。これはまた。面倒なタイミングで面倒なのが来たな。
「へえ? それにしてはあのネズミの事を随分と気に入っていたように見えたけれど」
「ベルモット!? アンタ何時から」
「ハァイ、キャンティ。今日もアイラなのね?」
「やかましいね、文句でもあるのかい?」
「いいえ? 健気で可愛らしいと思っただけよ」
「何!?」
「頼むから俺を挟んで喧嘩すんなよ……」
キャンティと、キャンティをからかい倒すベルモットの相性は言うまでもなく最悪である。こうなってしまっては関わらないのが一番であるので──現実逃避だ。潔く別のことを考えよう。
確か、以前アイリッシュに「二人が一緒に居るときにキレていないキャンティを見たことがない」とボヤいたことがある。それを聞いたアイリッシュは一瞬驚いた顔をして、その後盛大に笑われたっけ。
「お前の前ではそうだろうよ」なんて言われて、雑に頭を撫でられて。当時は意味なんて分からなかったし髪型が崩れたが、頭を撫でられた記憶なんてなかったから嫌ではなかった気がする。
──ちょっと待て、アレ何年前だ? 俺がまだ未成年だったから……いや、計算するのは止めておこう。
未だキャットファイトを続けるキャンティとベルモットを無視して思考を飛ばしていると、ベルモットの意識がこちらに向いたのが分かった。やめろやめろ話しかけんな。俺までオモチャにするんじゃねえ。
「ねえアイラ、あなたの愛しのアイリッシュが誰に殺されたか知ってる?」
「ちょっとベルモット! 黙りな!」
「愛しくはねえよ。あんなオッサン」
「あら、雛鳥みたいに懐いてたじゃない」
「雛鳥はやめろ」
願いも虚しく話しかけられて、そのあんまりな言い草に溜息を吐く。確かに間違いなく良い男だったとは思うが、だからといって別に愛しくはない。しかも雛鳥って。
──そういえば、キャンティから聞いたのは「アイリッシュが死んだ」だけだったな。構成員の死に方なんて事細かに知りたいものではないし、特に深追いはしなかったが。
小さく「知らねえな」と返すと、ベルモットが綺麗に笑ったのが見えた。この大女優はまた悪いことを考えているらしい。今度のオモチャは俺かキャンティか、或いは両方か。
「あれね、キャンティなのよ」
楽しそうにそう言ったベルモットの奥で、顔色を悪くしているキャンティを見る限り、それは嘘ではないのだろう。わざわざ俺に言わなかったことを暴露されている辺り、今度のオモチャはキャンティだったか。
この場合は俺も遊ばれてそうではあるが、正直に言ってどうでもいい。──そう、本当にどうでもいい。
「へぇ」
「あら、それだけ?」
気のない返事を返すと期待外れだと言わんばかりに目を細められた。だってそんなこと、俺に言われても。
「キャンティだって仕事だったんだろ」
「そう、だけどさ」
「じゃあいい。俺だって構成員くらい殺してるし」
キャンティとか、それこそアイリッシュに近い構成員も普通に殺した。だけど二人共、それを知っていてなお俺との距離は変わらなかったから。俺も特に変える必要はない。
組織はそういう場所だ。
──でも、そうだな。仲も良さそうだったバーボン辺りを殺したら、緑川は俺を殺してくれるのだろうか。
まあやらないが。色々合理的じゃないし。
◇
今朝方、全ての拠点を捨てて身を隠すようにと全幹部に通達があった。
つまり組織の力ではどうにもできない事態が起こったということ。数ヶ月前から、やたらバーボンが忙しそうだなと思っていた矢先にこれである。彼が動いているのであれば、具体的には存続の危機とか、存続どころか壊滅の危機とか。
緑川が離脱してライも離脱して、シェリーも消えてアイリッシュも死んで、少し前にはキュラソーも死んだらしい。それ以外にも山ほど死んで、山ほど殺して。ようやくこのときが来た。
世の合理に反する組織は誰かが潰してくれないだろうか、なんて。最初にそう考えたのはいつだったか。
もう忘れたが──外の人間の手で俺の狭い世界を壊されるときを、俺はずっと願っていた。
俺が内部から壊すのは無理だ。それにしては組織に浸かり過ぎていたし、できたとしても俺はしっかり悪人なために捕まるのがオチで。この国だと処遇決定の前に裁判だろうが、覚えてもいない罪を積み上げられるのは正直時間の無駄である。確認作業は大切ではあるが、限度を超えたものは無意味でしかない。
例え捕まらなかったとしても、組織を出たところで行く宛てもない。あったとしても、俺はそもそも表で生きられない人間だ。流れ着く先はどうせ似たような場所で。つまり環境はさほど変わらない。
だから誰かが、俺じゃない誰かが俺の世界を潰してくれたら良いなって。そう思っていたのだ。
「動くな」
シェリーが消えてから、俺の最後はここだと決めていた。もう誰も使っていない彼女のデスクだ。ここに入っている情報を全て理解出来る頭は俺にはないが、然るべき人間に渡すことができたら万々歳で。
勝手に何処かで生きていると信じているシェリーとか、背後の扉から此方に銃を向ける懐かしい声の主とか。シェリーが保護されていなかったとしても、アイツは優秀だから。きっと理解できるだろう。
「遅かったね、緑川」
「アイラ……!」
「バーボンも、お勤めご苦労」
先行の緑川に続いた足音と声からして、共に居るのはバーボンだけらしい。組織の仕事をこなしながらこの計画を詰めるとはよく頑張ったな、という気持ちが半分、二人居るなら別の部屋にある情報も持って行って貰うことができるなという気持ちがもう半分だった。
──そういえば、潜入捜査官だったからには「緑川」は本名ではないのか。どうせ最後であるし、名前を聞いてみてもいいかもしれない。
「なあ緑川。名前、何?」
「緑川、答えなくていい」
本名ではなく俺が知る名前で呼ぶ辺り、バーボンも大概優秀である。でもその優秀さも今は邪魔だった。
「組織の仕事として俺は此処に爆弾を仕掛けた。時限式だから早く取りに行かないと──大切な証拠が全て吹き飛ぶかもしれないな」
「な……!? ……クソ、」
一瞬の逡巡の後に、一人で研究所の奥に消えたバーボンに目を細める。やはり、バーボンはそうすると思っていた。かつて自身の危険を顧みずに助けようとした緑川を、いつ爆発するか分からない所になんて向かわせるはずがない。
ただ──それはそれ、犯罪者の前に自分より関わりの深かったバディを置いていくのは感心できないな。緑川がいくら優秀だとはいえ、万が一懐柔でもされたらどうするんだ。
「アイラは、何て名前なんだ」
「俺? アイラ、もしくは相手を良くする、で相良だよ」
「それはコードネームだろ」
「生まれてこの方、俺にアイラ以外の名前はなくてね」
施設に居たときも組織に来てからも、血縁にさえ名前を呼ばれたことはなかった。施設に居たときも、皆「おい」とか「お前」とか「お兄ちゃん」って呼んでたし。組織に来てからは流石に「お兄ちゃん」呼びはなくなったが。
戸籍を探せば名前はあるのかもしれない。それでも、俺が知っている俺の名前は「アイラ」だけだった。そもそも戸籍があるのかすら怪しいところだ。施設が日本にあったから日本語を主に話してはいるが、完全に日本人の顔立ちかといわれれば、そうとも言い切れない。
紫煙を吐きながら回転椅子を回して、今までずっと背を向けていた緑川の方を向いて。顔を見たことを、少しだけ後悔した。
何せ目の前の男が、悔しさを煮詰めた様な表情をしていたのだから。何でお前がそんな顔をするんだよ。
「……そうか」
「それより緑川、三年ぶりとはいえちょっと老けた? ちゃんと寝てるのか?」
「アイラも、サプリメントとアルコールで済ませてないだろうな」
「お前は犯罪者相手に何の心配をしてんだよ」
最近はサプリメントとアルコールで済ませるどころか、サプリメントをアルコールで流し込んでいるが、まあ。それはわざわざ言わなくてもいいことだ。
そんなことよりも。壊滅させる組織の幹部をすぐに拘束、或いは射殺しないのは捜査官としてどうなのか。あまつさえ軽口を叩いて。
間違いなく優秀な緑川が行動を起こさない理由として考えられるのは、一人で拘束を試みて返り討ちにされる可能性を考慮しているからか。そして増援が来る気配がない今は、バーボン待ちの時間、ということか。
別にバーボンを待っていなくても何もしないし、早く撃ち殺してくれても良いのに。この国では現行犯であっても諸外国ほど射殺もしないのだったか。犯罪者相手に律儀なことで。
確かに俺は、特に隠れることもせずにこの研究所に入った。それでも、その相手が幹部だとはいえ、内情を知る潜入捜査官を二人も投入するのはどうなのだろうか。
現場指揮に潜入捜査官を二人入れたとしても、サポートで+αは欲しい。敷地の何処かには居るかもしれないが、物音も気配もないから、少なくとも近くには居ないだろう。
建物内に俺以外の誰が居るかも分からないだろうに、数で押すなら最低でも二十人は連れて来いよ。それでも一般構成員を少し鍛えた程度なら、愛用のナイフがあれば俺一人でも余裕だろう。
まあ、バーボン並みに動ける奴が二十人も来たら、ナイフがあっても流石に無理ではあるが。アレは飛び抜けて優秀な部類なので基準にしてはいけない。
近くに数が居ないのは──確実に居ることが分かっている俺が暴れたときに、人的被害が増えるのを危惧したのか。手の内を知る人間だけを送り込んできたと言うことは彼らでこと足りると思われたか、或いは彼らを捨て駒としたか。
確かに前者であれば、下手に
サポートを入れない方が仕留めやすい。しかし仮に後者としたならば、それは随分と勿体ないことをと言わざるを得ない。潜入中のバーボンは特に総本山の指揮に回っても良いだろうに。
──まあでも、そうだな。今のは全て想像のうちで、実際はどうか分からない。色々思うところはあれど、今日は久々に緑川の顔を見られて気分が良いのだ。時間稼ぎに乗ってあげることにしよう。
「緑川、これあげる」
「わ、何」
先端にカバーの付いた、ペン型のものを投げ渡す。ナイスキャッチ。拳銃もこちらに向けたままなのも良いと思う。驚いても銃口がブレた様子がないのは流石と言うべきか。
「研究所内に置いた爆弾の起爆スイッチ」
「ばッッ、そんなものを投げて寄越すな!」
ケラケラと笑って「カバーしてあるし別に良いだろ」と言うと「そういう問題じゃない!」と叱られてしまった。懐かしいなこの雰囲気、緑川が組織に居たときもあった気がする。立場は逆だったし俺はロミトラを仕掛けられていたときだったが。
「あ、さっきバーボンには時限式って言ったけど本当はそのボタンでの遠隔しか付いてないから安心して」
「は!? それは……渡して良かったのか?」
「お巡りさんだろ? 俺が持ってるより安心じゃないか」
「確かにそうだけど、」
「じゃあ良いだろ」
「名前、教えてくれねえの?」とやや強引に話を戻すも、緑川は難しい顔をしたままで。まあ──そうだよな。万が一取り逃した場合に本名が知られているのは良くない。
そもそも元上司とはいえ、犯罪者に本名を教える義理もない。この際別に、緑川ではない偽名でも構わないのだが。
「……アイラは」
「何?」
「こうなる事を望んでいたのか」
しばらく黙っていた緑川の口から絞り出される様に出てきた言葉は、緑川ではない何者かの名前ではなかった。それでも、疑問形を取ったその言葉には明らかに断定の意味が籠っていて。
「何で?」
「俺が緑川じゃなくなったとき、ライフルを使うならトリガーを引く方は残しておいた方がいいって言っただろ」
それはおそらく、俺が緑川の左手を撃ち抜いたときのことで。言った気もするが、言っていない気もする。俺ですらはっきりと覚えてないことをよく覚えているな、と感心すら覚えた。三年は前のことだぞ。
「……言ったっけ?」
「言った。あれは最初から俺を逃がすつもりだったからか」
「まあ、そうだな」
「それは、そのときからこうなることを、望んでいたからか」
──なるほど、それでさっきの質問に戻るのか。とりあえずの意図は分かったが、深意が分からない。
「それを知った所で緑川はどうするの」
「どうもしない。ずっと気になってただけだ」
「……あは、何それ」
本当に何だそれ。理由を聞いたところでどうもしないのは捜査官として正しいことだから別にいい。寧ろそれで情状酌量の余地があると思われる方が問題だ。
問題はその次、つまり緑川は組織を抜けて三年もの間、そんなことが『ずっと気になっていた』? 直属の上司だった時期も大して長くなかった犯罪組織の人間が言ったかもしれないことを、捜査に直接関連がなさそうなところでずっと考えていたと?
「潜入捜査官が幹部のロミトラなんかに掛かってんじゃねえよ」
「は!? 掛かってなんか、」
「緑川が組織を抜けたのは三年前。その間ずっと俺のこと考えてたんだろ? それも捜査に関わりのnさそうなところで。立派に掛かってんじゃねえか」
こうなってくると、かつての緑川が『割り切れないからロミトラは得意じゃない』と言っていたことも、全くの嘘ではなかったのかとすら思えてくる始末だ。これを言っていたのは三年よりもっと前だが、まあ、俺は覚えていても不思議ではない。性癖をめちゃくちゃにしてきた男なんてそう簡単に忘れられるわけがないのだから。
緑川もすぐには認められなさそうではあるが、元々ロミオトラップ──もといハニートラップは遅効性の毒だ。何度も何度も愛瀬を重ねて、重ねて、欲しがっている言葉を吐いて、最後に情報を抜き取ってさようなら。
大切な情報を抜き取られる程に心酔している相手は、その後こちらからアクションを起こさずとも、生きている限り勝手に情報を持ってくる。それを狙って最低限の情報を抜き取ったあとはすぐに始末せずに泳がせておくことだってザラにある。
元々緑川から情報を取るつもりはなかったが、こうも覿面に効いているとは。まだまだ俺も捨てたものではないらしい
「はは、そっかそっか。効果を知れただけでも僥倖だ」
「何を笑って……」
「いい冥土の土産になったよ」
おそらく命令は生け捕りだろうし、目の前で死なれたら捜査官としての面目も立たないということは容易に想像できる。それでもこれは、最初から決めていたことだから。
目を見開き、小さく息を漏らす緑川には悪いが俺は組織がなくなったあとも生きる気はない。生きていたとしてもどうせすぐに死ぬし、捕まっても悪行は正直全部も覚えていないから、自白も何もない。そっちで勝手に調べてくれた方が色々出てくるだろ。
「爆弾が時限式じゃないことは伝えたし、起爆スイッチも渡しただろ? シェリーのパソコンのパスワードは知らないけど……本人に聞けば分かるもんな。あと何か伝え忘れてることってあったか?」
「本人に聞けば分かる」のところで目を細めた緑川は、俺が彼女が生きていることを確信した上で組織に報告してない事に気が付いたらしい。スコッチのときによく見ていた仕事用の顔になった。
「他の幹部の行方は」
「さぁ? 知らない。どうせ皆その辺で野垂れ死ぬだろ」
幹部が何処に行ったかは知らないが、どうせアイツらの気質は変わらない。組織が再結成されたところで、元々NOCが山ほど居たところだ。どうせ次もそうなる。
そうでなくとも、この国の警察は優秀なのだ。この国でことを起こそうものならすぐに潰れる。ならば何も問題はない。
「そうそう、ここに居る組織の人間は俺だけだよ。後で緑川も色々持って行けば良い」
「……そうか」
もう他には伝え忘れたこともなさそうだし、とデスクに置いていた愛用の銃を手に取る。久しぶりの、一発分だけ重いピースメイカーがよく手に馴染んだ。
俺を組織に入れた親から与えられた銃だったが、平和もクソもない組織の人間が使う辺り皮肉が効いていて好きだっった。だからこそずっと使っていて。まあ、今から悪人を一人消すわけだし。その名に偽りはない。
「それじゃあ、緑川」
「……諸伏、諸伏景光」
「へぇ! 良い名前だな」
聞いたのはこちらとはいえ、本当に名前を教えるなんて捜査官としてナンセンスで。今俺が手元で遊んでいるピースメイカーも本来ならば今すぐ弾き飛ばすべきなのだ。
それをしないのはせめてもの慈悲か、或いは体が動かないだけか。この際どちらでもいいが後者ならば早く終わらせてしまわないと。
「じゃあな諸伏、また来世」
ピースメイカーをこめかみに当て、引き金を引いて。それから、頭の横に凄まじい衝撃を受けた。
そう、頭の
横。
「お前ッッ………………今かよ?!」
側頭部ではない。どちらかと言うと手の付近だった。
つまり俺のピースメイカーは、引き金を引く少し前のタイミングで、緑川の超精密スナイプによって弾き飛ばされたわけだ。弾かれた勢いでトリガーは引いたが、俺に当たるはずだった弾は床か壁に当たった音がした。
弾を確実に一発消費させ、対象も殺さない──本ッッ当に優秀だな!?
「俺がそう簡単にアイラを死なせるわけがないだろ?」
「は? お前緑川、今のは簡単に死なせる雰囲気だっただろうが!」
「諸伏な、諸伏景光」
「っかーーーーー! うるせえな諸伏!」
対象が居ないから嗜虐性は湧いてこない。ただ、銃を撃った感覚はあるから異常な高揚感だけがあって。事実はないが条件反射はある。つまり何かこう、普通に気持ちが悪い。
何処か冷静に欲を求める嗜虐性がない分、いつも以上に考えが纏まらない。何なら、思ったことがそのまま口に出る。本当にやめて欲しい。
「はは、アイラのトリガーハッピーってそんな感じなんだ?」
「ちげーよ! 何ちょっと笑ってんだテメー!」
「アイラ今武器は持ってるか?」
「話を聞け!」
「銃以外の武器は?」
にこやかに、しかし少し硬い声で同じ言葉を繰り返す諸伏の声に、少しだけ頭が冷める。俺がここで他に武器を持っていると言えば、諸伏は俺を殺してくれるのだろうか。
いや、ないな。『俺がそう簡単にアイラを死なせるわけがない』らしいから。ならば嘘をついたところで意味はない。
「……ねーよ。今日はピースメイカーにも弾一つしか入れてなかったんだわ。自害以外で使うつもりなかったから」
「そっかそっか、じゃあはい。確保」
「お前本当にクソだな」
その後、諸伏はデスクにしがみつく俺を小脇に抱えて。「力強いなー」じゃねえんだわ。体格が違うとはいえ、俺一応、近接特化の実働部隊だからな? スナイパーの癖に軽々と抱えるんじゃねえ。
そもそも犯罪者の言葉もそう簡単に信用するんじゃねえ。もっと疑って掛かれよ。
抱えられているのもお構いなしに暴れまくる俺と、それでも俺を抱えたままの諸伏の攻防は暫く続いて。合流したバーボンからは、驚愕と呆れの混ざったなんとも言えない顔をされた。
お前ら仮にも犯罪組織の壊滅作戦中だろうが。何気抜いてんだ。真面目にやれ。
◇
正直、組織での行動に罪の意識はなかった。
倫理的じゃねえよなとは思えど、精々その程度で。罪悪感に苛まれることなんてない。
仕方ないだろ。持ち前の素質と、環境で育まれた考え方をそんなに簡単に変えられるわけがないのだ。だから俺はここ以外では生きられないし、俺のままでは別の生き方もできない。
それでも。それでもどこかの捜査官の隣に並ぶのであれば、それは綺麗な人間でなくてはならなかった。
それで来世なら或いは、と思ったのだ。生来の素質は変えられなかったとしても、幼い頃の環境が違えば、考え方は違う人間が育つ、かもしれない。
だから以前よりも死にたくなって、無茶な食生活も無茶な行動もいっぱいした。ハイになることを加味しても、銃を使ったほうが殲滅効率が良い場面は何度もあった。銃を使わなかったことで怪我をしたときだって何度もあった。それでも頑なに弾を込めなかったのは、つまりそういうことで。
──ようやく、死ねると思ったのに。思い描いていた最後も、途中までは完璧だったのに。
全部、全部! お前のせいでめちゃくちゃなんだが!?
「そうだアイラ、司法取引って知ってるか?」
「諸伏お前馬鹿にしてんのか。知ってるけど減刑されたいわけじゃねえからやらねえ」
「だよなあ、じゃあもうアイラは俺の協力者ってことで」
「は? お前ロミトラ掛かるにも程があんだろ」
「ちょっと拘束と取り調べはするけどごめんな? 後で迎えに行くから」
「ウワ、マジで止めろ絶対来るな。手続きとか全然面倒くさくていいからそのまま裁いてくれ〜……」
「後で、迎えに行くから」
「お前本当に何なの?」
例えば俺が綺麗に生きられたとして
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