おそろい未遂


「知らん」
「ええー……」
「何であんな趣味の悪いもん欲しがるかね」

つい昨日、午前中は任務が入っていたが午後は丸々オフだったから任務の帰りに大きめのショッピングモールに寄った。
わたしが探していたのは夏油くんと同じピアス。夏油くんに想いを寄せるわたしとしては、せめて何か夏油くんを感じられるものを側に置いておきたくて、彼と同じピアスがないかリサーチしに行ったのだ。
が、結果は惨敗。シンプルすぎてそもそもあの形のものが売ってない。変にごてごてした装飾がついてたりマーブル模様だったり、絶妙に違うものは沢山あったが、彼と同じものは置かれていなかった。
あれだけ大きいショッピングモールで見つからないとなるともうあとは本人にそれを買ったお店を聞くしかないけれど、勝手にお揃いにしようとしてることがバレたら気持ち悪がられてしまうかもしれないし、勘が鋭い彼のことだ、わたしの気持ちにも気付きかねない。その場でフられでもしたらおしまいだ。だから他の人で知ってる人がいたら教えてもらおうと思った。
五条くんに聞いたら絶対揶揄われるし夏油くんと仲のいい灰原くんは今日は任務でいなくて、わたしの気持ちを知ってる硝子を捕まえて聞いてみたけどハズレだった。

「え〜〜やっぱ五条くんにも聞かなきゃかなあ……絶対ネタにされるじゃん……」
「まーそうだろうね。」

わたしの方を見ずにどうでもよさそうに携帯を弄りながら煙草をふかす。わたしの話は真面目に聞いていないようだが煙がこっちに来ないようにという気遣いはしてくれるところに優しさを感じる。

「あっわかった!硝子が夏油くんに聞いてくれればいいんじゃない!?」
「めんどい。」
「硝子もわたしの気持ち知ってるんだからちょっとは協力してくれたっていいじゃん〜〜ケチ」

わたしがむすっと口を尖らせていると、硝子はさっきまで弄っていた携帯の画面をわたしに突き出して来て、わたしの動きは静止した。

「自分で本人に聞け」

その画面にはメールの送信履歴。時間はたった今。「名前がピアスどこで買ったか知りたがってるから教室こい」の文章。宛先は夏油くん。え、硝子何してくれちゃってんの。

「自分が協力しろって言ったんじゃん」
「そ そんないきなりこんなことするなんて聞いてないよ!!」
「だって言ってないもん」

どうしようどうしようと慌てている間にがらっと教室の扉が開かれ、話題の中心人物でありわたしの意中の人が入ってきた。

「私のピアス、どこで買ったか知りたいんだって?」
「あ、いや……その、黒くてシンプルなの、なんかかっこよくていいなーって……」

心の準備ができていなかったもんだから理由はふわふわしてるわ語尾は尻窄みになるわでいつ不審がられるかヒヤヒヤだ。でも、答えてさえもらえればわたしは夏油くんとお揃いのピアスに一歩近づけるチャンスとも捉えられる。さあ、これが吉と出るか凶と出るか。

「ごめん、私もどこで買ったかまでは覚えてないや。」
「そ そうだよね…」

最後の希望が音を立てて崩れていく。まあ冷静に考えれば自分が買ったピアスの店なんていちいち覚えている人は少ないか。本人が覚えていないならお揃いにするのはもうほぼ無理だろう。

「ていうか名前、ピアス開いてたんだね」
「あいてはいるよ、普段つけてないけど」

ひっそり落胆するわたしをよそに彼は「へえ、意外。」と覗き込むように屈んでわたしのピアスホールを見た。
距離が近づいたことでうるさくなりそうな鼓動をなんとか鎮める。

「ねえ、忘れてしまったお詫びと言ってはなんだけど、名前に似合う黒いピアスを私が選ぶというのはどうかな」
「えっ、い、いいの!?」
「次の土曜、空いてる?」

思わぬ展開に鎮めたはずの心臓が跳ねてばくばくと早鐘を打つ。まさか彼の方からそんな提案をされるとは。
予定帳を見ようと携帯を開けばいつのまにか教室から姿を消していた硝子から「タバコ1カートンな」とメールが来ていた。おまけでお酒もつけてあげよう。
夏油くんの提案してくれた次の土曜は幸いわたしもお休みだった。

「デート、楽しみにしてるね」
「で、っで、デー…!!??」
「私は、そのつもりだから」

ふ、と細められた彼の切れ長の瞳がわたしを捉えて離さない。
来週の今頃は、彼の瞳と同じような黒がわたしの耳にもついているのだろう。