ご都合主義博覧会


※出てこない子もいる すみません


「先生!」
「苗字さん」
「名前さんっ!」
「苗字先生!」

きらきらと輝く期待に満ちた瞳が8つ。贅沢にもその全てがわたしに向けられている。その輝く宝石たちの正体は呪術高専期待の1年生たちだった。

「俺に稽古つけてくれるって話でしたよね」
「俺も俺も!苗字先生に見てもらいてえ!」
「ハァ?名前さんは今日は私と新宿デートって予定が入ってんの!残念でーーした!」
「ぼ、僕、前に苗字先生が見たいって言ってた映画借りてきました」

う〜〜ん、どうしたものかこの状況。
伏黒くんにも虎杖くんにも少し前に稽古つけてほしいって言われたからいいよって言った。釘崎さんとの新宿デートも約束した。吉野くんとの話題で見たかったけど結局見れないまま公開が終わっちゃった映画の話もした。
まさかその全てが今このタイミングでブッキングするなんて思ってもみなかったけれど。

「おっかしーなー、一年の担任って僕じゃなかったっけ」
「ふふ、名前は相変わらず人気者だね」

そう。本当は一年生を受け持っているのは五条先輩だし、稽古なら最強と謳われるこの人か同じく最強で近接にも強い夏油先輩につけてもらった方がいいと思うのだけれど……伏黒くんと虎杖くんはわたしがいいと言うし、釘崎さんとは数少ない女性同士仲良くさせてもらってるし、吉野くんには最近おすすめの映画を教えてもらってるし、早い話がわたしはこの子達にめちゃくちゃ懐かれていた。

「ホラホラ。コイツ病み上がりなんだからそのへんにしときな。名前、あんま無理して動くなって言っただろ」

困っていたところに家入先輩の助け舟が入る。
お恥ずかしいことについこの間の任務で呪霊とドンパチやったとき割と派手に怪我をしてしまって、家入先輩の反転術式のおかげでなんとか傷跡も残らずこうして五体満足でいるわけだが完治はし切ってないのでまあ暫くはあまり派手に動かない方がいいとのことで。

「苗字さん、怪我してたんですか」
「じゃあ無理しちゃダメじゃん!」
「ごめんね、伏黒くん、虎杖くん。稽古はまた今度やろう?」

しゅん、と見えない犬耳が垂れ下がるような二人を見て罪悪感が顔を覗かせた。こればっかりは自分の弱さが招いたことなので面目ないとしか言いようがない。

「新宿デートも延期ですか……」
「映画鑑賞くらいならできます、よね…?」
「うう……釘崎さんもごめんね……せっかくだから吉野くんの借りてくれた映画みんなで見ようか!お詫びも兼ねてお菓子はわたしが用意するから!」
「ぼ、僕は苗字先生と二人で…」
「あっ!ハイハーーイ!僕もいーれて!いいでしょ?」
「私も興味あるな、いいよね?」
「酒とツマミ持ってくよ」
「あれ、先輩方映画お好きでしたっけ」

5人で映画を観ることを提案したら意外なメンバーが食いついてきた。てっきり先輩方は先輩方で固まっていると思っていたので、任務以外でこういった輪の中に入ってくることはないと思っていたのだが……
そう考えている間に、校門の方から人影が二つこちらに近づいてくるのが見えた。

「ツナマヨ〜」
「はーだりぃ。俺が行く必要あったか?」
「あ、狗巻くんも甚爾さんもお帰りなさい!任務お疲れ様です!」

狗巻くんは術式はもちろん充分に実力のある術師なので最近は単独での任務が多かったが、今回はかなり厄介な呪詛師相手とのことで万が一のこともあり臨時講師であるはずの甚爾さんにもついて行っていただいていた。
二人の様子を見る限り、無事任務は完遂したようだ。

「え、何名前コイツのこと名前で呼んでるの?僕のことは未だに五条先輩なのに?僕寂しいんだけど!」
「確かにそれは私も聞き捨てならないな。」
「いや伏黒くんと区別つきづらくなっちゃうから名前で呼べって甚爾さんが…」
「ハッ、野郎の嫉妬は見苦しいなァ?」
「キレそう」
「悟、今回は手を貸すよ」
「いやいやいやこんなところで喧嘩しないでくださいよ……」
「おかか……」
「狗巻くん、あんな大人になっちゃだめだよ。」
「しゃけしゃけ」

狗巻くんや1年生のみんなの前で喧嘩をはじめようとする大人たちには困ったものだ。家入先輩は止めるどころか勝手にやってくれというスタンスである。

「そうだ、今みんなで映画見るって話してたんだけど狗巻くんもどうかな?甚爾さんも来ます?」
「しゃけ!!!高菜、明太子〜!」
「あ?名前が居んなら顔出すかもな」
「甚爾さん、ナチュラルに腰に手回さないでください。セクハラですよ」
「親父、苗字さんが困ってるだろ」
「ガキンチョは指咥えて見てればいーんだよ」

うーん、今度は親子喧嘩が勃発しそうな雰囲気である。ピリピリしてきた。こんなメンバーで映画なんて観られるのだろうか……

「苗字さん。ここにいたんですか」
「も〜!探したんだよ!」
「七海くんに灰原くん!探したって…何かあった?」

この短時間で人がどんどん増えるなあ。常に人手の足りないこの業界、これだけの人数が一同に会するというのはなかなかない。かなり珍しい光景なのではないだろうか。
それにしても同期の二人が揃ってわたしを探していたというのはどういうことだろう。もしかして、この間の任務の報告書に不備があったとか?記入漏れかはたまた書き損じか……正直自分ならどれもありえる話なので理由を聞くのがこわい。夜蛾学長怒ってないかな。

「なに、貴女が心配しているようなことではありませんよ。ただ、謝りたくて。」
「僕はさっきばったり会っただけ!」
「謝る…?」
「苗字さんの怪我は私の所為でもあります。申し訳ありません」

確かにわたしが怪我をした日は複数の1級を相手にした七海くんとの任務だったが……わざわざ謝られる覚えはないというか、七海くんが危なかったからわたしが考えなしにつっこんでしまっただけだ。

「えっ、そのこと!?全然気にしてないから大丈夫だよ!!っていうかわたしが敵に突っ込んで行って自滅しただけだから七海くんのせいじゃなくない?」
「いえ、貴女を守り切れずあんな怪我まで負わせてしまったのは私の責任です」
「七海が名前に怪我させたの〜!?しんじらんなァい!」
「五条さんは黙っててください。嫁入り前の女性に傷を負わせてしまったんです、今日は責任を持って私が…」
「いや、気にしてないってば!てかそもそもわたしもうお見合い相手のひとがいるからそういうこと心配しなくて大丈夫だよ」

「!?」
「は?」
「ええっ!?」
「……」
「ハァ?」
「おい」
「ちょっと」
「聞いてないんだけど」
「いや、言ってないし……」

なんだこの空気は。なんだか爆弾投下したみたいになっているが聞かれたことがなかったので言っていなかっただけで、わたしには親に孫の顔が見たいとせっつかれてだいぶ前にお見合いした人がいて、安心させてあげたかったし相手も別に悪い人ではなさそうだったし誠実そうだったので普通にお受けした。それだけの話だった、のだが……これだけの人数の呪術師たちが揃いも揃って目を見開いてわたしを見ている。いや、むちゃくちゃ怖い。

「それ、誰かな。まさか私たちの知っている奴じゃないよね?」
「俺、頑張って強くなるから…!」
「おかか!おかか!!」
「僕は苗字先生に結婚してほしくないです…」
「名前、僕とちょーっとお話ししよっか」
「私の名前さんを見たこともねぇ野郎に取られてたまるか!」
「俺より弱ぇなら認めねーからな」
「苗字先生、俺らに秘密にしてたんですか」
「貴女のためにも、ろくに知りもしない男はやめておいた方がいいでしょうね」
「悪いこと言わないから私にしときな」

「あの……皆、映画は……?」

拝啓
お母さん
孫の顔は当分見られないと思ってください
敬具