白い小さな袋から塩を一つまみ出して、履き慣れない革靴の上へ適当にふりかける。そのまま家へ上がろうとしたら、こういうのには順序があるんだよ、と傍らのチョロ松に咎められた。
「順序?」
「胸、背中、足元の順にかけるんだって。それまで玄関は跨いじゃ駄目」
葬式の帰りだった。社会人としてのマナーがどうのこうのと言っていやに意気込んでいたチョロ松の横で、今にもあくびが出そうになるのを噛み殺しながらの参列だった。だって、その人となりも名前も、顔すらろくに知らなかった親戚の葬式だ。どうでもいいというのが正直なところである。なんとなくはしんみりした気持ちになったりもしたけれど、帰りの車で着心地の悪いスーツの襟を寛げたときにはもう、腹減ったなあ、くらいのことしか考えていなかった。
玄関の前で、もらった塩は一応かけておくかと取り出したはいいが、こんなものにまで順番があるなんて、面倒くさいことこの上ない。
「ちゃんとかけないと、悪いものを連れ込むことになるんだってさ」
言いながらチョロ松が、肩越しに自身の背へ塩をかけ始める。
「悪いもの? ユーレイとかそういう話?」
「……たぶん?」
「ふーん……」
化けて出るってことだろうか。故人が? なんだかものさみしい話だなと思いつつ、チョロ松の言葉通り、袋からつまみ出した塩を胸元へふりかけた。細かい白い粒が、さらさらと下へ落ちていくのを見つめる。見つめながら、ふと思いついて、先に玄関で靴を脱ごうとしていた弟の背中に呼びかけた。
「なあ」
「なに」
「もし俺が死んだらさ」
顔だけで振り向いて、チョロ松が俺を見る。俺は続ける。
「塩は使わないで。お前んとこに化けて出てやるから」
チョロ松は呆れたようにため息をつくと、
「親戚の葬式であくび我慢してた人が僕より先に死ぬなんて、そんなの想像もできないね」