いつもどこか青褪めて見えるトゥイークの肌が、皮膚の内側から蝋燭の火を灯したように、ほのかにあかく染まっていく。震える指先が寄る辺を求めて、薄闇のなかに波打つシーツを掴もうともがく。いとけない迷い子のようなその手を絡めとり、すべらかな甲にくちづけると、まぶたの下に隠されていたジェダイトの瞳がようやく姿を現した。視線が交わる。欲しい、とクレイグは思う。今にも泣き出しそうな顔をしているくせに、薄いくちびるから漏れるトゥイークの吐息は、確かにクレイグのそれと同じ熱を有している。
クレイグはトゥイークの足を割り開くと、潤滑油を纏わせた中指を肉のあわいにそろりと忍び込ませた。もう何度もからだを繋げているとはいえ、そこは窮屈に狭まっている。いきなり奥まで侵入するような無作法な真似はもちろんしない。まずは入口近くをほぐすように、極浅く指を出し入れしてやる。
「あ、ア、は……っ」
「痛くないか?」
「ん、ン、へいき……」
なんともいじらしい言葉を返す恋人に、クレイグはたまらなくなってくちづけた。少し前までのトゥイークとはまるで別人だ。ちょっとした感動すら覚えてしまう。
初めてのインサートのときは、それは大変だった。互いに慣れていなかったのもあるが(女性経験もない高校生が慣れている方がおかしいが)、ほんの少し指を奥に進めただけで無理だ嫌だと泣き喚くトゥイークに、こちらまで泣きたい気持ちになったものだ。遠い昔の出来事のようにも思えるが、あれからまだ一年も経っていないのを考えると、人の成長にはまったく驚くべきものがある。
徐々に入口が馴染んできた。そろそろいいだろうと、クレイグは中指を、トゥイークのより深い部分へと推し進めていく。
「あっ、ぁ、や、や……」
いやいやとトゥイークがかぶりを振るが、それが快楽によるものであることはどう見ても明らかだった。浅いところにある彼の好きな場所を可愛がりつつ、クレイグはじっくりと内壁の奥を蕩かしていく作業に没頭する。
「く、クレイグ、だめ、も、だめ……」
「駄目って顔じゃないぞ、ハニー」
「っひ、ぁう、ほん、とに……だめっ……」
そこは今や三本もの指を飲み込んでいた。丹念な愛撫ですっかり柔らかくなった窄まりから、潤滑油がとろりと溢れ出す。
トゥイークの、金糸の髪と同じ色をした睫毛が小さく震えた。
「も、おねが……」
クレイグは指を引き抜き、か細い声でねだる恋人の頭をあやすように撫ぜた。ベッドテーブルに用意していたスキンを手早く自分のものに被せ、トゥイークの入口へと宛てがう。
俺はいまどんな顔をしているだろう、とクレイグは思う。きっと、ひどく余裕のない表情をしているに違いない。トゥイークが、そうさせるのだ。クレイグのひそやかな部分、本能という名の獣をかたく囲っている理性の檻を、トゥイークは声ひとつ、面差しひとつでいとも簡単に破壊してしまう。クレイグには、だから、いつか自分が激情に飲まれて恋人のことを殺してしまうのではないかという不安が、ひそかにあった。
ただし、そのいつかは今ではない。逸る気持ちをどうにか抑えながら、クレイグはゆっくりと腰を進める。は、は、と肩で息をするトゥイークを安心させるように、その額へ何度もくちづけを落としてやりながら。
「っハ……」
吸い付くような肉のうねりに、クレイグは深く息を吐き出した。下腹にじんと痺れるような熱が渦巻いている。いや、下腹だけではない、からだ中が、ひどく甘い疼きに支配されている。
「あっ、あっ、奥、クレイグの、奥、きてる……」
クレイグは、思わず目を瞠った。自分の体の下で、トゥイークがうっとりとした微笑みを浮かべていた。恍惚に濡れたその目。クレイグは奥歯を強く噛み締めたが、それしきのことで堪えきれるはずもない。恋人にこんな無防備な表情で、こんな無防備な台詞を言われて冷静でいられる人間がいるなら、是非ともその顔を拝んでみたいものだ。
「お前は、俺を乱暴な気持ちにさせる天才だな」
クレイグは、とうとう情動に任せてトゥイークの奥深くを貫いた。突然のことに驚いたのか、トゥイークはからだを大きく跳ねさせながら声にならない悲鳴をあげた。
「まっ、くれ、ぐ、まっ、て……っ」
「待たない」
待ってなどやるものか。蠢動する肉の襞のなかを、クレイグは遠慮なく掻き回した。先端近くまで引き抜いては最奥へ突き上げる。逃がさんと絡みついてくる深いところをごりごりと押し上げ、自分の形をそこに覚え込ませる。
息が乱れる。汗が零れ落ちる。互いの熱が融け合っているのを感じる。激しく脈打つ心臓の音は、一体どちらのものだろう? 熱くて気持ちが良くて、もうそんな簡単なことすらわからない。
「あっ、クレイグっ、くれ、ああっ、ン゛、んん……っ」
気が付くとトゥイークは涙を流している。喘ぎ声の合間に、クレイグの名を何度も呼びながら。痛くても気持ち良くても泣くんだな、とクレイグは快感にけぶった頭でぼんやりと考える。壊れてしまったのではないかと心配になるくらい、ぼろぼろと涙を溢れさせるから、彼はつい笑ってしまう。トゥイークは知らないのだ、自分の感情の御し方、心にかけられた手綱の握り方を。
常に何かに怯えているような少年だった。見放されることを恐れて他人の顔色を窺っているくせに、気が昂りやすく、すぐに癇癪を起こして泣いた。クレイグとはまるで正反対の人間だった。
泣いてばっかじゃわかんないって。どうしてそんな風になっちゃうのか教えてくれないと。
錯乱状態で泣き喚くトゥイークに、クレイグは一度訊ねたことがある。
我を忘れて取り乱す恋人を前にするとき、クレイグはいつもどこかで暗い悦びを感じていた。自分だけがこの憐れな少年を理解してやれるのだという甘やかな驕り。憐憫の情を持って誰かに接する瞬間、人は、心にしたたる蜜の味を知る。
しかしトゥイークは、狂乱のままにこう答えたのだった。
君に僕の何がわかるっていうんだよ。
強い拒絶の色がそこにはあった。それははっきりと二人を分かとうとする色だった。ならお前は、俺にどうしろっていうんだ。目の前で喚き続けるトゥイークを見つめながら、クレイグは歯痒い気持ちを持て余して途方に暮れた。慰めの言葉さえかけられず、ただ、気がおかしくなってしまったような恋人の隣で、時がすべてを解決してくれるのを待つよりほかなかった。
トゥイークがようやく冷静さを取り戻したのは、それから一時間以上経ってからのことだ。落ち着いたか、とクレイグが訊くと、彼は泣き腫らした目元を指先でぬぐいながら、おずおずと口を開いて、言った。
「ありがとう、クレイグ」
見捨てないで、そばにいてくれて、ありがとう。
そんなこと、とクレイグは思った。自分には、彼がなぜ苦しんでいるのか、それすらもわからなかったというのに。ただ隣で、赤ん坊のように泣きじゃくる彼を眺めていることしかできなかったというのに。そんなことが、ただそれだけのことが、トゥイークには、嬉しかったのか? 叫びすぎてすっかり枯れてしまった声で、わざわざ礼を言うほどに?
呆気に取られているクレイグの肩へ、不意に、トゥイークがもたれかかってきた。クレイグは、呆然としたまま、その背中を抱き締めた。あたたかい。自分と同じように。そして、唐突に理解した。
他人の感じていることなんて、結局のところ誰にもわかるはずがないのだ。
同情はできる。共感も。努力すれば、相手が考えていることのほんの一欠片くらいは、汲み取ってやれるかもしれない。でも、トゥイークがどうして怒り、泣き、笑うのか、そのすべてを理解してやることは、自分には到底できない。できっこない。当たり前だ。なぜなら二人は、まったく別の体と心を持って生まれた、別の人間なのだから。
わかるのはただ、トゥイークがクレイグと同じ体温を持っているということ。自分には、それを確かめる術があるということ。ありがとう、と彼は言った。ずっとそばにいてくれて、ありがとう。きっとまた、彼はクレイグには窺い知れぬ理由で喚き散らすだろう。だが、無理に理解してやる必要はもうない。目の前の体のあたたかさを感じること以上に重要で価値のある事柄などないと、クレイグはそのとき気が付いてしまったのだ。
肌と肌の触れ合う感覚が、からだ中を焦がしていく。クレイグは薄く笑んだまま、トゥイークの一番奥深く、彼自身すら知らないであろうひそかな場所に、屹立を強く擦り付ける。
「あっ、やっ、やだ、それ、やらあ……っ」
「いい、の間違いだろうが」
過ぎる快楽に逃げようともがく腰を捕まえて、しつこいくらいにトゥイークの弱い部分を穿った。本人の動きとは裏腹に、トゥイークのなかは自分を気持ち良くさせてくれるものを離すまいときゅうきゅうとクレイグを締め付ける。限界が近いのだ。
「や、あうっ、も、いくっ、クレイグ、いっひゃう……っ」
舌足らずに喘ぎながら、トゥイークがクレイグの背に爪を立てた。ちり、とした痛みに眉をしかめるが、腰の動きは止めない。止めてやることなどできるはずがない。絶頂をいざなうように、クレイグは何度も小刻みにトゥイークを突き上げる。
脳みそが焼き切れるような快感。
クレイグがスキンのなかへ放出するのを追うようにして、トゥイークもまた遂情した。
「あ、あ、は……」
息を乱したまま、トゥイークはぐったりと宙を見つめている。しっとりと汗ばんだ頬を撫でてやると、彼はクレイグに夢うつつなその目を向けた。きらきらと光るジェダイトの瞳。そこからは、依然として涙が溢れ続けている。クレイグは、恋人の濡れた目尻へそっとくちびるを寄せた。その雫が、けして甘くはないことを知りながら。
ああ、自分だって同じようなものじゃないか。涙の粒を啜りながら、クレイグは思う。自分の心にかけられた手綱。彼を前にすると、俺はその握り方を、いつのまにか忘れてしまうのだ。