彼の瞳に見つめられたいと思ったそのとき、私の恋はもう終わりを迎えている。周りの女の子たちがひっそりとささめき合う、あの冷たく整った顔立ちや、すらりと長い手足、何事にも動じないクールな性格は、もちろんとても魅力的だったけれども、私が何よりも惹かれたのはそんなものではなく、彼が彼の傍らの少年に向ける、ほのかにあたたかい眼差しだったからだ。
クレイグ・タッカーとトゥイーク・トゥイーク、二人の存在はこのあたりではあまりに有名で、彼らが付き合っているのは学校中、いや、それこそ町中のみんなが知っている事実だった。一年前にこの高校へ転校してきたばかりの私には、彼らがどういういきさつで関係を結ぶに至ったのかは知れなかったけれど、二人を取り巻く空気がほかと違うことには見ていてすぐに気が付いた。
特段、恋人同士であることを大げさにひけらかすような真似をしていたわけではない。ただ、時折重なり合う視線や、二人きりで言葉を交わしているときのちょっとした沈黙ーーそういった、親密な間柄の二人にしか楽しめない機微を、彼らはこっそりと、しかしきちんとものにして味わっているように見えたのだ。
ーーけれど、それだけだった。あんなにもひそやかに、静かにたゆたうものが恋であるなんて、私にはまったく信じられない。もっとずっと熱くて激しくて、時には痛みすら伴うような感情、私が今まで私のボーイフレンドたちに求めてきた恋というのは、そういうものだったから。そして、私の友人達がうっとりと語る恋も、私のそれと同じ熱量を持っていたから。
クレイグはなかなか女好きのする容姿と雰囲気とを持っていたから、同年代の女の子からデートに誘われたり、交際を迫られることも少なくなかったようだ。しかし彼はそのすべてを(私の知る限りではすべてを)、丁重に、けして相手を傷付けないように断り続けていた。
クレイグにそこまでさせるだけの何かが、トゥイークという少年に存在するとは、私にはとても思えなかった。神経質で、いつも怯えたようにそわそわとして、自信なげに眉尻を下げた少年。見目はそれほど悪くはなかったけれども、彼より優れたルックスを持つ人間なんていくらでもいる。クレイグは、あの子と一緒にいて楽しいのだろうか? ーーこんなふうに考えていた時点で、私はきっと、クレイグに何がしか特別な感情を抱いていたということだろう。けれど、私はそれに気が付かなかった。あの日、あの瞬間が訪れるまで。
放課後、忘れ物を取りにロッカー置き場へ戻る途中だった。廊下では疎らに残った生徒達が、勉強のあとの自由な時間をどう使うか、笑いながら相談し合っていた。そのなかにあの黒髪とブロンドを見つけたのは、もちろん偶然のことである。
彼らのどちらとも、私は親しいわけではなかった。だからそのときも、窓際で何やら話し込んでいる二人の横を、黙って通り過ぎようとしたのだ。
けれど、それは叶わなかった。これといって何があったというのではない。トゥイークが会話の合間に微笑み、それを見たクレイグが微笑みで返した。ただそれだけのことだ。でも、私はそのとき初めて、クレイグがトゥイークの隣にいる理由が、わかったような気がしたのである。
相手の微笑みに微笑みを返す、二人のあいだにあるものは、ただそれだけの、手垢にまみれたような、何の変哲もない結びつきだった。私が今まで恋の相手に求めてきた、身を焦がすような熱烈な繋がりとは、当然ながら違う。でも、誰かを好きだと感じたとき、それは確かにそこに存在していたはずだ。好きな人が笑っていると嬉しいという、あまりにもありふれた気持ち。クレイグにとってトゥイークは、そんなあたりまえの愛情を共有できる相手なのだ。
クレイグとトゥイークの視線が交わる。私はそれを、すこし離れたところから茫然と眺めている。クレイグの、ゆるやかに細められたこがね色の瞳。あの瞳に見つめられたい、と思ったそのとき、私は、私の恋にようやく気が付く。彼って、なんて素敵な男の子なんだろう。でも、その恋がけして報われないことを私はすでに知っている。なぜなら私は、彼が目の前の少年に向けるその眼差しにこそ、微笑みを返したいと思ってしまったからだ。