花園蓮香様より、バレンタインの小話を頂きました!ありがとうございます!


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「材料ОK、機材OK…足りないものは特に無さそうね」
「もし材料が足りなくなったら、皆で買い出しに行きましょう」
「エプロン装着も完了だよー」
「国近ちゃん、エプロンの後ろが固結びになってるよ」
「ふふ。ほら柚宇、結び直してあげるから後ろ向いて」
「はーい」

 場所は凩隊隊室の給湯室。加賀美ちゃんと今ちゃんが準備の確認をする中、国近ちゃんのエプロンの紐を人見ちゃんが結び直している。
 わいわいと賑わう4人を眺めて、ふと思う。

 何でこうなった…?










『Sweets memory』










「穂村ってさ。バレンタインにお菓子とか作ったりすんの?」
「は?」
「ていうかそもそも料理するの?」

 学校での昼食の時間。毎度勝手に机を寄せてくる犬飼と共にお弁当を食べていると、そんな失礼な質問が飛び込んできた。

「するわ。1人暮らし希望者ナメんな」
「へぇーするんだ、なんか意外」
「てか、何なのいきなり」
「いやほら、クラスでちらほらと話題が出てるじゃん。「誰にチョコ渡すのか」とか「今週末に一緒に作ろう」とか」
「ああ、なんか盛り上がってたね」

 最近周りが浮き足立っているのは何となく分かっていた…けど、そうか。バレンタインデーが近いのか。

「んで、最初の質問。穂村って誰かにお菓子あげんの?」
「やんないよ。最近はお菓子も作ってないし」
「そうなんだ? じゃ、久しぶりに作ってよ」
「は?」
「んで、俺にそのお菓子ちょーだい?」
「はあ? だからやんないって」
「あ、俺クッキーがいいな。飛行機の形に型抜きしたやつ」

 …コイツ、人の話聞けよ。


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「───…って事があってさ」

 その後の週末。ラウンジで見かけた今ちゃんと国近ちゃんと3人で昼食を食べていると、何故か先日の犬飼とのやりとりを話していた。いやまぁ…話の流れで。
 ちなみに、国近ちゃんは防衛任務が終わったところで、今ちゃんは太一が壊した本部の備品についての反省文の提出に付き添って(…もとい、引っ張って)来たらしい。…なんかごめんよ。

「それで、穂村ちゃんは犬飼君にお菓子作ってあげるの?」
「いや作んないよ。めんどいもん」
「(…犬飼君かわいそうに)」
「? どしたの? 今ちゃん」
「ううん、なんでもない」

 どこか遠い目の今ちゃんに尋ねると、苦笑いで返された。その後「そうだ!」と国近ちゃんから声があがる。

「なんなら皆で作ろうよ。バレンタインのお菓子!」
「いや、だからやんないって…」
「いいわね! どうせなら人見さんや加賀美さんも誘って皆で作りましょう」
「いや、だからね…」
「今度の水曜日なら鈴鳴第一(ウチ)は防衛任務ないんだけど、2人はどう?」
「太刀川隊(ウチ)もないよー」
「………凩隊(ウチ)もないけど」

 人の話聞いてくれませんかね、2人共!!


 ▽


 …うん、そうだ思い出したぞ。元凶は犬飼だな。今度模擬戦したら真っ先に撃ち抜いてやる。
 その後、加賀美ちゃんと人見ちゃんも空いてる事が分かって、場所はあれよあれよという間に凩隊隊室の給湯室に決まった。
 広いキッチンがある場所がA級隊室である事、太刀川隊は給湯室にも物がいっぱいでお菓子作りに不向きである事から凩隊(ウチ)に白羽の矢が立ってしまった。
 更には凩さんや名風ちゃんに「水曜日の放課後に給湯室を使いたい」という旨を伝えると、快諾された事から断れなくなってしまったのだ。…散らかしとくべきだったか。

「穂村ちゃん、どしたの? エプロン握りしめちゃって」
「うん…何でもないよ、国近ちゃん。ちょっと数日前を振り返ってた」
「?」
「ほら、橘さんもエプロン着ちゃって」
「はーい。あ、今ちゃん後ろ結んでくれる?」
「いいわよ。後ろ向いて」
「はーい」

 今ちゃんにエプロンの紐を結んでもらって、いざお菓子作りに取り掛かる。…といっても、(私以外が)話し合って作るものはクッキーで統一された。型抜きや生地に練り込むパウダー、デコレーション用のお菓子は各自で持ち寄って好きに作ろうという感じだ。
 女子高生が5人も集まれば、作っている間の話題には事欠かない。内容はボーダーの事に偏っているものの、和気あいあいと作業が進んでいった。

「穂村ちゃん?」
「ん?」

 しばらく聞く専門だったからか、加賀美ちゃんから声を掛けられた。その声に顔を上げると、横から国近ちゃんが眉間に指をぐりぐりと押し付けてきた。

「こんなとこにシワよせちゃってー」
「う…うーん」
「ごめんね、話に夢中になってて…楽しくなかったかしら」
「いや、そんな事はないよ」

 どうやら黙ってたせいで勘違いさせてしまったらしい。心配そうに眉を寄せていた加賀美ちゃんに否定の言葉を返すと、納得してくれたらしく、表情を緩めてくれた。

「お菓子は楽しんで作んないと、美味しくなんないわよ?」
「……楽しむ…」

 人見ちゃんからの指摘にふと思考を巡らせる。…お菓子作りで、楽しむ。
 今まで…ボーダーに入る前。いや違う、もっと前…“あの日”よりも前。

 …私はどんな気持ちで、お菓子を作っていたんだっけ…?


 ▽


 ちょっとぐるぐるした気持ちを抱えながら、お菓子作りは無事に終了した。お互いに自隊の隊員や友達に配る分を確保して、余った分は凩隊の隊室でお喋りしながら皆で食べた。
 全部、美味しかったな。今ちゃんの「抹茶クッキー」も、国近ちゃんの「ドーナツ風クッキー」も、加賀美ちゃんの「鳥型クッキー」も人見ちゃんの「ホラーキャラ風くま型クッキー」も。
 そして、2月14日の登校時、私の持つ紙袋にはシンプルにラッピングされた、飛行機型のクッキーが入っていた。


 ▽


「おはよー」
「おはよー、穂村!」

 朝、教室に入ると、珍しく犬飼が私より早く来ていた。ムカつく程に元気な挨拶と共にニコニコと手が差し出される。

「……なにその手」
「またまたぁ、分かってるくせに〜」
「…どうせ他の女の子から貰ったんでしょ?」

 このまま渡すのも癪だからと言葉を返すと、犬飼からは意外な返事がきた。

「断ったよ」
「は?」
「今年は穂村がくれるでしょ? だから断った」

 確かに、去年は紙袋に入れらていたチョコやお菓子が見当たらない。

「ふーん…」

 …何だかむずむずする。そう思いながら、持っていた紙袋を犬飼に突き出した。

「はい。味の保証は出来るけど、文句は受け付けないからね」
「わあ、ありがとう穂村! いただきます!」
「は!? 今食べんの!?」
「ちゃんと飛行機型にしてくれたんだね、俺嬉しい!」
「だから人の話聞けって!!」

 なんなんだ、こいつの最近の自己中っぷりは…!

「穂村」
「ああ゙?」

 話を聞かない犬飼への苛立ちと、手作りのものを目の前で食べられる気恥しさに舌打ちしつつ低い声で犬飼の方を向くと、朗らかな笑顔と目が合った。

「ありがとう、美味しいよ」
「!、………あっそ。なら良かった」
「あ、穂村照れてる?」
「照れてない」
「照れてるでしょ」
「うっさい。お前ちゃんとホワイトデーのお返し用意しろよ」
「もっちろん。また一緒にバームクーヘン食べに行こ?」
「…なら良し」

…To be continued…?

(犬飼)
(ん?)
(…ありがとう)
(うん? どういたしまして?)

(“お菓子作りを楽しむ”)
(その気持ちを少し、思い出せた気がする)

sweets memory

SANDGLASS