「それでね、もうほんっとに可愛くて…」
「………」
夕日の差し込む教室、外からは部活動に励む生徒たちの声が聞こえてくる。ああ、青春してるんだなぁ、ってちょっとだけ羨ましく思う。きっと彼らの青春はキラキラと輝いているのだろう。羨ましい。
私の青春は、灰色真っ盛りだ。
「ねー、ちょっと聞いてる? 京」
「あー、聞いてる聞いてる」
携帯を弄りながら話を聞き流す私を、幼馴染である佐鳥賢は少し不満そうに咎める。
正直、賢の話は聞きたくない。
誤解のないように言っておくと、別に賢のことが嫌いとか、そういうわけじゃない。むしろ好きだ、恋愛対象として。
そんな賢の話を聞きたくないというのは、その話の内容というのが、賢の最近出来た彼女の話だからだ。
「そんなにあからさまに興味なさ気にしなくてもよくない!?」
「賢うるさい」
あまりに私が冷たい態度をとっているからか賢がぎゃあぎゃあと騒ぐ。余程彼女の自慢をしたいらしい。聞きたくない私は冷たい態度を崩さない。
「そんなに彼女の話したいなら、時枝とか嵐山さんとか、聞いてくれる人に話したらどう」
私、聞きたくないの。
冷たい態度のままそう言うと、賢は少し悲しそうな顔をした。その表情にギュ、と胸が締め付けられて、葛藤ののち、私はため息を吐き出す。仕方ないな、と。
ぱあ、と一気に明るくなる賢の顔を見ると一瞬どうでも良くなるが、しかし話が始まるとまた憂鬱になる。
賢の彼女は、それはもう明るくて可愛くて、皆から好かれている同じクラスの女の子だ。別に容姿が綺麗とかそういうのではなく、平均並みの容姿で、笑顔が可愛い。内面の良さがにじみ出ているような邪気のない笑顔を振りまく彼女は、素直な性格の賢と良く似合っていた。少しだけ頭が残念で、そのせいで皆によく弄られているけれど、そういう欠点も皆から好かれる要因になっているのだろう。
私も彼女が好きだった。
賢を、盗られる前までは。
「でさ、その時に…」
「賢」
「、ん?」
私は真っ直ぐに賢を見据えた。
賢はまだ話し足りないようで、少しもどかしそうに私が話しだすのを待っている。
きっとこれから言おうとしていることを賢が聞けば、賢は私の事を嫌いになる。
そのために言うのだから問題はないのだが、少し、悲しくなる。きっと賢はあの子を守るから。
「あんな子、どこがいいの?」
「、…………え?」
「うるさいし、馬鹿だし。私あの子嫌い」
「……京…?」
困惑したような、賢の顔。私はそれ以上何も言う事ができなくて、口をつぐんだ。賢が悲しむ。あの子の悪いところが出てこない。こんなに、嫌いなのに。それがまた、悔しくて仕方がない。
「何でそんなこと言うの…?」
「だから言ってるじゃん、私馬鹿な子は嫌いなの。それに―――…」
「京!」
賢が私の声を遮った。
賢の顔をまっすぐに見据えると、とても悲しそうな顔をしていた。
「……おれ、京の口からそんなこと、聞きたくなかったよ」
「………」
賢は、私が悪口も言わない綺麗な人間だとでも思っていたのだろうか。ずっと昔から一緒にいたのに、ちゃんと見てもらえていなかったと、そういうことか。
ひねくれた解釈に、自嘲気味に笑う。
「私ね、あの子のことも嫌いだけど」
「、京…?」
これを口に出せば、もう二度と賢と話すことはないだろう。もう、あの子の話を、私に向けて話してくることもない。
「あの子のことを大好きな、あんたの…賢のことも、大ッ嫌い」
「っ、ぇ」
賢から掠れた、喉から無理やり出したような声が漏れた。ショックを受けて固まる賢に、最後ににこりと笑って席を立った。賢は放心している。が、私が教室を出ていく直前に、掠れた声で名前を呼ばれた。
「………ばいばい、佐鳥」
「っ、ちょ」
逃げるように、教室を出ていく。
途中であの子とすれ違った。挨拶をされたけど無視した。不思議そうな顔をしていたが、賢が教室で待っているからか、あまり気にした風もなく教室へ向かっていった。
きっとまだ、賢は困惑して、ショックを受けたまま固まっているだろう。
このことがきっかけで、二人の間に亀裂が入ればいいのに。
たった今賢を傷つけたばかりのくせに、そんなことを思って、自嘲の笑みを浮かべた。
「―――…好きだよ、賢」
ごめんね。
