唯我尊は、どうしようもないほどのクズでヘタレな、自尊心の塊だ。本当は実力なんてないくせに、プライドばっかり高くていつも親のすねをかじって生きている。そんな自分がたまらなく嫌いで、いつも後で後悔してばかりのくせに、いつもいつも、親を盾にとって自分の下らないプライドを守っているのだ。彼に出会い、暫くして、私は言った。馬鹿みたい。馬鹿じゃないの。そうしたら、自尊心の塊である彼はその目に涙を浮かべて、だけど決して涙をこぼすことはなく、私を睨み付けた。間抜けだ。恰好悪い、と思った。しかしその姿は、私を黙らせるには十分だった。そんなの自分が一番分かってる。黙り込んだ私に、唯我の言葉。キミに言われる筋合いはない。そう言われて、確かにそうかもしれない、なんて、私は奇しくも唯我との、口論のようなそうでもないようなそれに、負けてしまったのだ。その時、私が思った事、それは悔しいとかの負の感情ではなく、どうしようもなく湧き上がる、唯我への好意だった。なんとまあ、間抜けというか、有り得ないというか、とにかく私はその瞬間、唯我尊という、親のコネでA級まで上がってきた坊っちゃんに恋をしてしまったのだ。
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「お前趣味わっる!」
出水先輩は、私の話を聞いて、開口一番にそう言った。私はまあ、そうなるよな、と妙に納得してしまい、「そうですよね」と頷いた。すると出水先輩は何故だが変な顔をして、はあ、と大きく溜息を吐き出した。「相変わらず変な奴」溜息と共にそんな言葉も吐出される。
「唯我ねえ」
出水先輩は呟いて、机に肘をついたまま明後日の方向を向いた。何か思案しているようなその顔付きに、「なんですか」問いかけてみる。しかし出水先輩は「べっつに」と首を横に振り何も答えてはくれなかった。出水先輩はいつも何やら唯我をからかっているようだし、何か思うところがあるのかもしれない。
「…唯我は、恰好悪いです」
「お………おう。お前好きなんだよな?」
「はい、好きです。でもどこが好きなのかは私にも良くわからないです」
そう言うと、出水先輩は微妙な顔をしてあっそ…と溜息を吐き出した。私も自分で、変なことを言っている自覚はある。だけど、どこが好きなのか分からなくたって、私は唯我が好きなのだ。それだけは確かだ。
出水先輩は、そんな私の話に呆れたのか愛想が尽きたのか、そのままどこかへ行ってしまった。私は黙って、出水先輩を見送って、嘆息。
「次は誰に相談しよう」
唯我の話、誰が聞いてくれるかな。
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「うそだ」
唯我は、震えた声でそう言った。好き、と、淡々とした私の言葉に、うそだ、と。何かに怯えるような、そんな声色。
結局のところ、出水先輩しか聞いてもらえるあてはなくて、ずっと唯我の話を勝手にしていたら、痺れを切らした先輩に、言われてしまったのだ。そんなに好きならさっさと告白すればいいだろ、なんて。私は暫く沈黙して、確かにそうだ、と納得してしまった。そうだ。告白しまうのが、一番手っ取り早い。そう言った私に出水先輩が一番驚いた顔をしていて、「…え、まじで?」なんて、唯我に引けを取らない間抜けっぷりであったことを覚えている。そうして私は、有言実行、唯我に告白した。そうしたら冒頭の、あの反応である。
「う、嘘を吐くならもう少しマシな嘘を吐いたらどうなんだ! 趣味が悪いぞ!」
「嘘じゃないよ」
「嘘だ! だってキミは、会って間もないボクに暴言を吐いた!」
あの時の、馬鹿みたい、を差しているのだろうか。あれを、まだ気にしていたのか。申し訳なくなった私は、眉を下げて、「ごめん」謝罪の言葉を述べた。唯我はウッと言葉を詰まらせて、しかし直ぐに首を横に振り、「騙されないぞ!」と私に人差し指を向けた。人を指で差しちゃ駄目だよ唯我。
「出水先輩が影で見ていたりするんだろう! ドッキリか!? そうなんだな!?」
「違うってば」
「じゃあ!」
ボクがお金持ちだからか!!
一番、辛そうな、悲痛な顔で問われたそれに私は少し、切なくなった。そして、黙って首を横に振った。唯我は本当に、馬鹿だ。
「私も、唯我のどこが好きなのか分からないんだけど」
「、は?」
「だけど、これだけははっきり言えるよ」
唯我の困惑した顔を真正面から見つめて、やはり間抜け面だな、と内心で笑った。
「お金持ちの唯我を好きになったんじゃない」
これで君は、少しでも安心してくれるだろうか。