かわいい無知よ

「…ん? あれ、ここどこだ?」

 とある日の夕方頃、生まれ故郷であるはずの三門市で、私は迷子になっていた。

「うわあ、まじかあ」

 生まれ育った街で迷子になるとか笑えないしありえない。いや、ほんとに何してんだ私。なんで学校の帰りに迷子になるの。いやしかし、ここはどこだろうか。学校の帰り道のはずなのに全く見覚えのない場所だ。いつも目印にしてるボーダーの本部はいつも見える角度で間違いない。ちょっといつもより近く見えるのは気のせいだ。うん、そうに違いない。
 さて、暗くなる前には帰らないとお母さんが心配する。…いややっぱり心配はしないかもしれない。怒られてご飯抜きにされる。それは勘弁だ。あ、これはお母さんの愛情の裏返しとやらでいいのだろうか。やはりお母さんは心配しているかもしれない。それに少しばかりにやける自分にゾッとしつつ、とりあえず適当に歩くことにする。迷子の場合無闇に動かない方がいいって言うけど動かなきゃ帰れない。携帯は学校で使い過ぎて充電が切れてしまった。はは、馬鹿すぎるな私。携帯通じないから本気でお母さん心配してるかも。

「おい」
「え?」
「お前何してる」

 帰り道を探して彷徨っていれば、突然誰かに話しかけられた。見れば黒髪短髪赤目の年下だろう少年がいて、こちらを静かに睨んでいた。私は首を傾げ、「私?」と自分を指さした。少年は「他に誰がいる」と溜息を吐き出し、少しばかり呆れたような顔をした。む、年下のくせに生意気な。

「ここは警戒区域内だぞ。何をしてる」
「え、うそ」
「…知らずに入ってきたのか?」

 言われてみれば確かにボーダー本部が妙に近い気がした。なるほど、警戒区域内だったからか。いや、あぶねぇ何やってんの私。無意識に警戒区域内に入るって、いくら馬鹿でもどんな馬鹿だよ。

「はあ……送ってやるから着いて来い」
「…君こそ警戒区域内に入っていいの? というか年下のくせに敬語くらい…」
「風間蒼也21歳。ボーダー隊員だ」
「……は?」

 少年の言った言葉に、私は思わず固まった。…にじゅういっさい? 嘘だろ? どう見たって私より背低いし童顔だし……いやいや確かに雰囲気はちょっと大人びてるけど! けど! それとこれとは違う!! 何がどう違うのか分かんないけど!

「嘘だ!!」
「嘘じゃない。…まあ、信じようが信じまいがどっちでもいい。早く来い」
「あ、ちょ、」

 ムキになって証明しようとしないところがまた大人だ。やはり言っていることは本当なのだろうか。いやでも、背が…

「か、風間…さん…?」
「何だ、敬語は使えるんだな」
「つ、使えますよそりゃあ!」

 私だってそこまで馬鹿じゃない。しかしこうしてムキになっている私の姿はやはり子供じみていると思う。

「お前は何故こんなところにいるんだ。高校からはそこそこ離れてるだろう」
「いやあ分かんないんですよね。気が付いたらいたというか」
「馬鹿なのか」
「馬鹿なんでしょうね」

 風間さんは心底呆れた顔で再度溜息を吐き出した。いや、これに関しては何も言えない。警戒区域にはお母さんにも近付くなと言われていたし、私だって近付くつもりなんかなかった。だって怖いし。しかし無意識というか謎の方向感覚を発揮してしまったのは仕方ない。何がどう仕方ない。いやそれはさておき。

「お前は…」
「私はお前じゃなくて真辺京ですー。ちゃんとした名前がありますー」
「…真辺は、一応確認しておくがボーダーではないだろう」
「そりゃもちろん」

 自分でもめんどくせえな≠ニ思える返しにやはり大人な風間さん=Bしかし少し歩調が速まったので少しばかり苛ついたのだと思う。

「小さいくせに速い…」
「真辺」
「はいごめんなさい!!」
「? 何だ」
「え………あ、いえ。な、何でしょうか」

 うわああ、ビビったあ……心の声もれちゃってたよ…聞こえてないみたいだったけど。助かった。

「着いた。ここからは帰れるな」
「ああはい、多分?」
「……」
「帰れます!」

 勢い良く頷いた。頷くしかなかった。

「そうか、気を付けて帰れよ」
「は、はい…」
「…真辺」
「はい?」
「今回は=A近界民に襲われなくてよかったな」
「……は…?」

 そうわけの分からない言葉を残し、風間さんは行ってしまった。…今回は=H なんの事だろう、警戒区域に入ったのはこれが初めてのことなのに。というか。

「今笑った?」

 最後の最後に、色々ずるい人だ。
SANDGLASS