
二宮に告白されて、数日が経った。あれから、特に前と変わったことはない。連絡もたまに取り合うし、何なら家にだって遊びに来るし、何も変わったことはない。忘れてくれ、との言葉通り、あの日のことはまるっとなかったことになってしまったらしかった。それを心地良いと感じてしまう私はきっとまた間違っていて、こうしている間もきっと二宮のことを傷付けているのだ、ということは分かっていた。告白をなかったことになんてしていいはずはなかった。きっとこの関係が崩れてしまう覚悟が、二宮には出来ていた。だけど、それを踏みとどまってしまったのは私のせいだ。二宮は答えない私のために、ずっとこの関係に甘んじていたかった私のために、忘れてくれなんて、あんな事を言ったのだ。
もう、何を間違っているか分からないなんて言っていられない。私は二宮と、向き合わなければならない。
「二宮」
あの日のように、二宮が私の隣に座っていた。二人で、別に面白くもなんともないテレビを見ている。快活な声と軽快な音楽が、シンと静まり返った部屋に響いている。名前を呼ぶと、二宮が視線だけこちらに向けた。なんだか、嫌に緊張していた。
「ごめんなさい」
言ってから、順番を間違えたかもしれない、と少し焦った、だけどもう、言ってしまったものは仕方がないので、ここから話し始めることにする。
「何だ、その謝罪は」
「色々、ごめん、って」
「心辺りが多すぎるな」
「じゃあ、その心辺り、全部」
じゃあってなんだ、と二宮が軽く笑う気配がした。心が少し、軽くなっていく。たまに二宮が見せる笑顔が、昔から大好きだった。基本的に無表情か怒ってる顔ばかりであまり笑顔は見せないけど、たまの笑顔はとても格好良い。
「あの日の告白、答えられなくてごめん」
「…、」
「なかったことにさせてごめん」
「……」
「中学の時、人の目を気にしてばっかりでごめん」
「……」
「人の意見ばっかり気にしてて、ごめんなさい」
「……」
「…他にもいっぱい、沢山、傷付けてごめんなさい」
そう、呟くように言って、顔を伏せた。二宮は何も言わない。私は膝を抱えるように座って、ギュッと腕を抱いた。まだ、全部伝え終わっていない。まだ終わってはいけない。
「…空木」
「…、えっと」
「それでお前は、何が言いたい?」
問われて、戸惑う。言おうと思っていたことが、全て吹っ飛んでしまった。泣きそうになりながら、考える。最終的に、私の言いたかったこと。
「…たぶん、私も二宮が好きです」
「……多分か」
「……ごめん、まだよく分かんなくて」
空木らしいな、と二宮が呟くように言った。そう、私はきっと、多分、二宮が好きだ。曖昧なのは多分、まだ私の中にこの関係を壊したくない気持ちがあるせいだと思う。
「今まで二宮を沢山傷付けてきたから、私が言ってもいいのか分からないし、二宮がまだ私を好きかどうかも分からないけど」
「……」
「二宮のことが好きなんだと思う。世話焼きなところとか、ぶっきらぼうだけど優しいところとか、たまに見せる笑顔とか」
「……」
「都合が良いのは分かってるから、嫌だけど振ってくれたって構わないし、一応、幼馴染っていう関係が崩れる覚悟は出来た……と、思う…から」
「曖昧だな」
二宮はそう言って、深く溜息を吐き出した。ビクリと肩が震える。二宮の一挙一動が怖い。だけどあの時向き合えなかった分、私も向き合わなければいけない。
「まず、長年こんなどうしようもない奴に片想いしていた俺が、こんな数日で気持ちを変えるわけがない」
「…え」
「次に、その好きなんだと思うというのをどうにかしろ。はっきりしないのは嫌いだ」
「…う、え、っと」
「最後。お前の都合が良いのはもう慣れた。覚悟ができたって言うなら、俺は容赦なく壊しにかかる」
「えええ…」
冷や汗が背中を流れた。やっぱり出来てないかも、と言い直す勇気もなく、私は肩を落とした。二宮って結構怖い。
しかし肩を落としてから、まだ言っていないことがあったと思い出して、顔を上げた。
「二宮」
「、なんだ」
「えっと……名前で、呼んでいいですか」
つい何故か敬語になってしまったのを恥ずかしく思いつつ、私はジッと二宮の顔を見た。改めて見ると、やっぱり二宮ってイケメンなんだなあ、と再確認させられる。目がキリッとしてて、鼻が高くて、全体的にパーツのバランスがいい。自慢の幼馴染…じゃ、なくなるのか。今日からは。
「…聞かなくても良いだろう、そんなこと」
「えっと……いや、まあ。うん。じゃあ、呼ぶね」
「一々確認をとるな」
「匡貴注文多いな」
そう、呼んだ途端。二宮――匡貴、が、驚いたような顔をして固まった。あ、この顔好きかも、とどこか冷静にそう思った。匡貴のこういう顔は、結構レアだ。
匡貴はしばらく固まったあと、ふい、と顔を逸らしてしまう。多分、照れてる。
「…佑」
「うわあ、匡貴は確認とらないんだ」
「取る必要ないだろ」
まあね、と呟いて、俯く。またしばらく、沈黙がその場を支配した。懐かしい、心地いい沈黙だった。
「匡貴」
「…なんだ」
「これからよろしくね」
「…ああ」
近くて遠い、私達の恋が、これからようやく始まるのだ。