友達のいない子と御幸/dia
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左隣の席の子の名前を確認して、小さく口に出した。青道高校に入学して、入学式前のクラス入り。決まっている席に座って、両隣に座る子の名前だけ確認した。両隣ともに男子だ。ツイてない。溜息を吐きながら、もう一度、左隣の席らしい御幸一也の名前を読んだ。なんか、みゆきって珍しい名前だ。可愛いな。
「そりゃどーも」
「…え」
ふ、と、隣から声を掛けられて、思わず固まる。声が聞こえたのは、左隣。つまり、先程まで名前を口に出して読んでいた彼の席から。ぎぎ、と首を隣に向けると、黒縁メガネを掛けた、整った顔立ちの男の子がこちらを見て笑っていた。意地の悪そうな、性格の悪そうな顔をしている。
「俺がその「可愛い名前」の御幸一也ね。よろしく」
「え、あ、こ、えに…」
「出てた出てた。気づいてなかったの?」
まさか自分でもそんな馬鹿なへまをするとは思っておらず、頭を抱えた。隣、まだ来ていないと思っていたのに。いつの間に来たんだろう。全然気づかなかった。
「あーえっと……すみません…」
「ははっ、なんで謝んの? 褒めたんでしょ?」
「あーいや、その……みゆき、がどうせなら苗字じゃなくて名前で、ついでに女の子だったら良かったのになって思ってました…」
「え」
「友達になるなら女の子のほうがいいなって…」
つい、そこまで言って、あ、と口元を抑えた。しまったまたやってしまった。思っていることをすぐ口に出してしまうのは悪い癖だ。口を塞ぎながら、冷汗を垂らす。そしてもう一度、小さな声で固まっている御幸くんにごめんなさい…と謝罪を口にした。
「…ふ、ははっ、あはははっ!!」
「え」
しばらく固まっていた御幸くんは、なぜだか急に大声で笑い始めた。お腹を抱えて、まさに大爆笑、という表現がピッタリなほど暫く笑ったあと、席を立って私の両肩にポン、と手を置いてきた。ちょっとビビった。
「やっべ、おもしれー、最高」
「……おもしろい?」
随分と失礼なことを言った自覚はある。これで何度友達作りに失敗したか分からないくらい、人を怒らせてきたのだ。気を付けていないとすぐに思っていることが口に出てしまう。それを早速やらかしてしまったわけだが、目の前の彼は今のを面白い、と言った。意味が分からない。
「御幸くんて変な人だなあ」
「また声に出てる出てる!」
「あ、しまった」
「ははっ、やべーまじおもしれー!」
ゲラゲラと笑いの止まらないらしい御幸くんを不思議そうに眺めて、やっぱり変な人だ、と今度は口に出さないよう気を付けて心の中でつぶやいた。それか、相当心の広い人なんだろう。慣れてきた子相手ならともかく、初対面でこんなことを言われたら誰だって怒って距離を置くに決まってるのに。御幸くんは怒るどころか、笑っている。やっぱり変だ。
「そういや、お前名前は?」
「空木佑」
「空木ね。いやー笑ったわー。隣の席だし仲良くしよーぜ」
「…ここまで怒んないと一周回って怖いな」
「空木サーン、出てる出てる」
おっとしまった。また口元を抑える。御幸くんは何が面白いのか、また笑い始めた。なんだか御幸くん相手だと余計に本音というか心の声が出てしまうような。怒らないからだろうか。うーん、駄目だな。
「よろしく御幸くん」
「おー、よろしく」
「ほんとは女の子が良かったけど」
「お前気を付ける気ねーだろ」
「おっと」
▽
速水七瀬(ハヤミナナセ)
御幸と隣の席
思ったことをすぐに口に出してしまうせいで友達が出来ない
女の子の友達がほしい
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