耳郎さんと植物男子/mha
▼▲▼
▽
「………何で………、何っで、だよ……!!」
君は僕の上で、武器である耳朶にあるイヤホンジャックを僕の喉に向け、そう絞りだすように言った。ボタポタと、宝石みたいに綺麗な涙が落ちてくる。
「はは………泣かないでよ、響香ちゃん」
「、るっさい…!! あんた、なんかっ、」
「泣かないで………いつもは泣かないくせに」
彼女の頬に手を伸ばそうとすると、「動くな」と彼女のイヤホンジャックがグッと喉にめり込んだ。苦しい。
「痛いよ、響香ちゃん」
「名前呼ぶな」
「ねえ、放して、響香ちゃん。お願い」
「嫌だ」
ぎゅう、と彼女の手が僕の服をキツく握る。皺になっちゃうなあ、なんて思いながらも、彼女がつけたものだと思えば、それも愛しかった。
そうして、思い出す。
僕と響香ちゃんの今までの、友達≠ニしての、思い出。
▽
僕と彼女、耳郎響香ちゃんは高校からずっと同じクラスの、同じヒーローを志す仲間であり、友達だった。ヘタレで愛想笑いばかり浮かべていた僕と、サバサバした性格だけど実はお化けや幽霊が怖いなんて可愛い一面もある響香ちゃん。席が隣でよく話していた僕と響香ちゃんの仲は、一般で言うと多分いいほうに入っていたのだと思う。
「ウチ、耳郎響香。宜しく……えーと、空木?」
「宜しく耳郎さん。僕苗字嫌いだから、名前で呼んでくれるかな、ごめんね」
「あ、そうなん? なんかごめん。えーと、下の名前」
「佑」
「佑、ね。宜しく。じゃあウチも名前でいーよ」
宜しく、ともう一度返して、へら、と愛想笑いを浮かべる。愛想笑いは世渡りの上で身に付けた特技だった。僕は普通よりもちょっと外見がいいらしく笑っていればとにかく周りに人が集まってきた。だから、愛想笑いは僕なりの武装、のつもりだった。
響香ちゃんは艶のある黒髪に、三白眼が特徴の女の子だ。見る人によっては目つきが悪いと捉える人がいるかもしれないが、僕はそれも可愛いと思った。…正直に言おう、僕は響香ちゃんみたいな女の子がタイプドストライクだった。苗字が嫌いなのは本当だったけど、そのおかげで名前で呼んでもらえるようになったのでまあその辺は嬉しかったりもした。
「佑の個性ってなんなの?」
ふと、そんなことを聞かれて、僕は愛想笑いを浮かべたまま首を傾げた。ウチは見たまんまコレなんだけど、と耳朶のイヤホンジャックをふよふよと降って見せてくる響香ちゃんに笑顔を向けたまま、手を伸ばした。
「僕の個性はね…」
「…、」
ふ、と彼女の目の前に手を出した。パチン、と指を鳴らす。すると、ゲッケイジュの花弁が彼女の周りにひらひらと舞い降りてきた。響香ちゃんは驚いたような顔のまま、固まった。
「これ。植物をね、自由に出せるんだ。ただし、その名称と花言葉を知らないといけないんだけど」
「…へえ……この花は?」
「ゲッケイジュ。花言葉は、栄光、勝利、栄誉。これからお互い、成功していけますようにってね」
そう言ってもう一度笑うと、響香ちゃんは少し顔を赤くして、呆れたような表情を作った。「めっちゃキザじゃん」と言われて、ニコリと笑った。
そうしていると、近くにいた金髪の男子が「うわッ、早速個性でナンパしてる奴がいるんだけど!」と騒ぎ出した。僕が慌てて「えっ、ち、違うよ」と返すと、その子はその反応を面白く思ったのか、ニッと笑って、肩を組んできた。
「俺上鳴電気! なんかお前いたらナンパの成功率上がりそうだな! 名前なんて言うんだ?」
「空木佑……ナンパはしないよ?」
「何でだよー! お前なら成功間違い無しだって!」
「そうだろうけど、やりたくないよ」
「そうだろうけどって結構強かだなお前…?」
上鳴の言葉にニコリと笑う。自分の容姿の良さは自覚している。ナンパもきっと成功するだろう。女の子は一定以上のイケメンに綺麗な花を渡されれば、大抵落ちる。やったことはあるけど、見た目と上面だけに惑わされて好かれることが虚しいだけだったので、一度やったきりやっていない。
上鳴のナンパの誘いを笑顔で懇切丁寧に断りながら、僕は気付かれないようにふ、と笑顔を消した。
ゲッケイジュの花言葉は、栄光、勝利、栄誉。先程響香ちゃんに言ったそれは嘘ではないが、少しだけ、誤りがあった。ゲッケイジュ全体を指す花言葉は、響香ちゃんにいったもので間違いはない。しかし、僕が出したのはゲッケイジュの花≠セ。花言葉とは不思議なもので、部位によって花言葉も変わってくるものがあるのだ。だから、ゲッケイジュの花≠セけなら、また花言葉は変わってくる。
「佑? どうかした?」
響香ちゃんが、僕の顔を覗き込んで、不思議そうに問いかけてきた。僕はそれに笑い返して、ううん、と首を横に振った。
▽
「最初っから、ヒーローになる気なんて、なかった…?」
響香ちゃんが、震えた声でそう問うてきた。僕はその声に心を痛めながら、抑揚のない声で「なかったね」と答えた。グッと、彼女が服を握る手の力が強くなった。
「ウチらが頑張ってるの見て、笑ってた…?」
「笑ってなんかないよ」
「でも馬鹿だなって思ってたんだろ」
「思ってないよ」
「嘘だッ!!」
震えた声のまま、響香ちゃんが叫んだ。喉に負担がかかる叫び方だ。響香ちゃんの低くて可愛い声も好きなので、あまりそういう叫び方はしてほしくなかった。
「アンタはっ……嘘吐きだっ…!」
「…そうだね」
「何回アンタの言葉に救われてたのか、知りもしないくせに…! あれも、全部嘘だった…!?」
「………」
何も、答えなかった。響香ちゃんが僕なんかの言葉で救われてくれていたなら、それは喜ばしいことだ。だけど、僕が響香ちゃんに向けた言葉は嘘と本当が混じっていたから、一体それが嘘だったのか本当だったのかも、僕には分からない。僕は曖昧に、彼女に笑いかけた。
「っアンタの笑顔が好きだった……だけど、全部、もう全部っ…!」
「…響香ちゃん」
「なんで!!」
また、響香ちゃんが叫んだ。
「なんでアンタが敵なんだよっ!!」
悲痛な叫びに、僕は答えることはできなかった。
▽
デフォルト名:海棠篠(カイドウシノ)
耳郎さんが好き
自分のことをイケメンと自覚してるイケメン
物腰柔らかで紳士
だけどたまに毒舌
個性は花言葉と名称を知っている植物を出すことができる能力
敵一家で育った男の子が耳郎さんに恋して葛藤する話。
▲▼▲