妖怪が視える花繪の幼なじみ/物怪庵
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母さんが昔から、そう言っていた。物心ついた時からずっと妖怪だとかそんなものが視えていた私は幼いながらにこれは言っていけないことだと理解して、ずっと隠してきた。
心霊番組だとか妖怪特集の類のテレビを母さんは特に嫌って、視る度嫌そうな顔をしていた。
『佑、貴方はあんな嘘%fかないでね?』
嘘じゃないよ=Aとは、言えなかった。
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つい昨日まで普通だった幼馴染に、妖怪が憑いていた。
…と、まあそんなふざけた語りで始まりましたが冗談ではなく、本気で幼馴染に妖怪が憑いている。私は昔から視える体質で、妖怪なんかはまあ見慣れていた。関わらないようにしてたからよく知らないけど。とにかく、視るだけなら毎日、産まれてからずっと見続けていた。
それが今、幼馴染の肩に乗っている。
「………花繪」
「…え? あーおはよう佑………」
「おはよう……なんか……ダルそうだね?」
「あーうん……ちょっとね…」
とにかく花繪に視えているのかいないのか、それが問題だ。視えているのなら私も視えると打ち明けて打開策を考えればいいが、そうでないのならまた別に対策を考えなければいけない。花繪は妖怪だとかそういうものを信じていないし、言っても多分変な顔をされるだけだろうから。しかしまあ、その辺は視えているのかいないのか分からなければ始まらない。
言葉を濁した花繪に、一か八かで「実は…」と言葉を選びつつ、切りだす。
「私、視えてるんだけど」
「……え?」
「その、後ろ、の」
「……も、モジャモジャ?」
「! うん、それ」
どうやら本当に視えているらしい。ホッとして頷くと花繪はパアッと顔を明るくさせて、ガシ!と肩を掴んできた。
「視えるの!? マジで!?」
「だから視えるんだってば」
「何で!? 母さんに言っても視えなかったのに!!」
「花繪、とりあえず落ち着いて」
興奮している花繪をとりあえず落ち着かせて、私が昔からこういうのが視えていたことと、それを隠していたことを伝えた。するとなんだか複雑そうな顔をしていたがまあそれはさて置いて、そのモジャモジャをどうしようかという話へと移った。
「なんかこいつに憑かれてから体調悪くて…」
「ああ、確かに顔色悪いね。…大丈夫? 今日は休んだら?」
「嫌だ! 入学初日に休むとか絶対嫌だ…!」
「っていってもさあ…」
花繪の顔色は尋常じゃないほど悪い。真っ青だ。足元はフラフラと覚束ないし、今にも倒れそう。今だって並んで歩いてはいるがスピードはいつもの倍近く遅いし、時間に余裕はあるが、いつ学校に辿り着くことやら。本当に辿り着けるのか、と聞いてみるが帰ってくる答えは同じだ。絶対に私は無理だと思うのだけども……と考えていたら隣でバタン、と何かが倒れる音。はたと隣を見て、やっぱり、と溜息を吐いた。ほら見ろ、やっぱり無理じゃん。
「あー、って違う、花繪、しっかりして花繪ー! おーい花繪ー!」
結局その日、花繪が教室に行くことはなかった。
▽
花繪が取り憑かれた日から暫く経ち、私は段々とクラスに馴染んできていた。当の花繪はといえば、あれから一度も教室まで辿り着くことなく、入学初日からずっと保健室で過ごしている。担任は面白がって花繪の名前が可愛らしいことをいい事に、花繪をさも病弱で可愛らしい女の子のように紹介して、クラスの男子に期待をもたせていた。保健室のハナエちゃん≠ネんて異名を聞いた時にはつい笑ってしまった。なんだよ保健室のハナエちゃん≠チて。笑っちゃうわ。
「なあ空木! お前ハナエちゃんの幼馴染なんだろ? ハナエちゃんってどんな子だよ?」
「え」
クラスの男子からの其の問いに、私は一瞬目を瞬かせて、パッと今しがた出て行ったばかりの担任を見た。出て行く直前に手を上げて謝るようなポーズをしていたので多分謝っているつもりなのだろう。謝れてないけどな!
いや、まあ別にそれはいい。私には一切、なんの害もないし、これはこれで面白いし。私はその男子にニコリと笑って「素直で明るくてちょっとドジな可愛い子だよ」とありのままを告げた。何も嘘は言っていない。花繪が素直で明るくてドジなのは間違いないし、私から見て花繪は可愛い幼馴染≠セ。だから、私の主観から見てこれは間違いではない。
それを聞いた男子たちは歓喜して、「ハナエちゃんバンザイ!!」と騒いでいたが私はもう知らない。花繪、クラスの中で今あんたは病弱な花屋の超美少女になってます。後は知らないので頑張ってね。
なんて考えつつ、不意に窓側の方へと目を向けると、一人の男の子と目があった。皆騒いでいるのに、彼だけ騒いでいない。金髪の、目付きは悪いが綺麗な顔をした男の子だ。
「(なん、か…?)」
不思議な感じがして、暫く私は固まっていた。しかし視線はすぐに向こうから逸らされて、男の子は机に伏せてしまった。
「(………変なの)」
なんとなく、同じ感じがした≠ネんて奇妙な感覚に首を傾げながら、私も彼から視線を逸らした。
▽
高校入学初日から七日、花繪は一度も教室へ来れていない。今日こそは、今日こそは、と毎日挑んではいるのだが、毎回毎回校門の手前で力尽きてしまい、結局保健室に送られてしまうのだ。昼休み、落ち込む花繪を目の前に、大きく息を吐く。
「なんかおっきくなってるね」
「うん………日に日に体調悪いのは増していくし、コイツは大きくなっていくしで……絶対何か吸われてってると思うんだよ…!」
泣きそうな花繪に苦笑して、私はのそのそと花繪の上を離れまいと動くモジャモジャをじっと見る。なんか、そんな悪意がありそうには見えないんだけど。ポン、とモジャモジャを触ってみると、結構気持ちいい。撫でてやると気持ちよさそうに目を細めている。うーん、なんか可愛く見えてきた。
「ちょっと佑ッ!! 和んでないでどうにかする方法考えてよ!?」
「、ああごめん」
花繪に怒られてしまい、パッと手を放す。いや、でもやっぱりこの子悪い子じゃないんじゃ…? でも今花繪に言ってもイライラしてるし、冷静じゃないから怒られるだけだな…
「とりあえず私、教室戻って鞄取ってくるから。戻ってきたら一緒に帰ろう」
「えっ、今昼なのに」
「一人じゃ帰れないでしょ?」
「う、うん………なんかごめん…」
「ん? 何が?」
「佑だって友達と帰りたいよね? なのに入学以来ずっと俺に付き合って…」
「ははは、何言ってんの。好きで一緒にいるんだからいいんだよ」
そう笑って立ち上がり、私は保健室を出る。花繪は気にしいだからな、と頭を掻いて、教室を目指す。さっさと鞄を取って、花繪と帰ろう。
「あれ? ゆうやんじゃん、何やってんのー?」
「は? ゆうやん? …ってフッシーじゃん」
「やっほー、もう帰んの?」
「あーうん、花繪と帰ろうと思って……っていうか何、ゆうやんって」
「あだ名ー、可愛いでしょ?」
「かわ……いい? いやまあいいけど」
鞄を取って、さっさと保健室に戻ろうとしていると、同じクラスのフッシーに話しかけられた。間延びした彼の喋り方は落ち着くが、なんというか……その、あだ名はどうなんだろうと思う。ゆうやんて可愛いのか…?
「フッシーは何やってんの? 今昼だよね?」
「んー、部活体験だよー。写真部」
「へー」
「ゆうやんも入る?」
「うーん、考えとくよ」
「そっかー」
じゃあね、とフッシーと別れて、写真部もいいかもなあと考えながら、保健室へと足を向けた。でもうーん、写真かあ、写真って色々写りこんじゃうんだよなあ……どうしよ。
悩みながら保健室に行くと、何故かいるはずの花繪がいなかった。
「………え、花繪?」
帰ったのかトイレにでも行ったのか……しかし鞄はないし、花繪が黙って勝手に帰るはずもない。なんでこんな数分の間に行方不明になってんだあいつ…五歳児かよ…
電話を掛けてみるが出ない。あー、何やってんだよあいつは……
「どうしろってのさ…」
それからどうすることもできず、とりあえず教室に戻り、午後の授業を受け、また保健室に戻るとやっぱりいなかったので保健室で待っていた。すると暫くして四時頃、花繪から着信があった。驚きながら慌てて出ると、いの一番に「ごめん!」と謝罪の言葉が耳に飛び込んできた。どうやら反省はしているようだ。
「あー、怪我とかは? つか何してんの? 今どこ?」
『あーえっと、怪我はない! 何してる…は、えっと何してんだ…? あ、今は屋上!』
「…? 屋上…?」
『佑まだ帰ってない!?』
「帰ってない」
『じゃあ今すぐ屋上! 来て!』
『おい芦屋テメェ、何勝手に人呼んでんだ!』
『ぅわあ!? ちょ、安倍さ、』
そのままブツッと切れてしまった電話を見つめて、私は数秒固まった。
「……何なんだよもう…」
▽
「花繪ー? ぅわっ!?」
「佑ー!! モジャが! 隠世にぃ!!」
「このっ、離れろ馬鹿!! それに何言ってるか全然わからん!!」
屋上に着いて扉を開けると、急に花繪がワケのわからないことを叫びながら抱き着いてきた。なんなんだと花繪を引き離しながら屋上を見渡すと、一人の青年が少し離れたところに立っていた。
「………あれ、」
見覚えのある青年だった。いや見覚えというか、同じクラスというか。なんで着物着て屋上なんかに、
「あ、佑、あの人は安倍さんっていって……俺の肩にいた妖怪を祓ってくれたんだ! 安倍さん、幼馴染の佑です!」
「…どーも、安倍晴齋です」
「…空木佑です。どうも」
同じクラスのはずなのにお互い名前知らないとか……いや、っていうか何してんの。なに、祓ったって。意味分からんのだけど。誰か説明プリーズ。
と思ってたら花繪が勝手に「聞いてよ!」と説明しだした。
どうやらあの後一人になった花繪は、ポスターの下に貼られた妖怪祓いのバイト募集の紙を見つけ、判断力の鈍った頭で電話したらしい。それに出たのが彼、安倍で、最初は断られつつも必死に縋って妖怪祓いしてもらうことになったのだという。そうしてあのモジャモジャの正体をきくと、死んだ動物が妖怪になったものらしく、気付いてくれた花繪に、嬉しさのあまり取り憑いてしまった…と、そういうわけだったと。大きくなってしまったモジャモジャを戻すには遊んでやらなければいけなくて、昼から今までずっと遊んでいたらしい。そして先程ようやく小さくなったモジャモジャを妖怪の世界…隠世へと祓ってもらったようなのだが、それに少し問題が発生してしまったらしい。
「………はあ? 百万?」
「そう!! しかも隠世の通貨で百万怨だって!! 安倍さんの妖怪祓いの手伝いで働いて返せって!!」
「あー、そう? まあしょうがないね、順番すっ飛ばして祓ってもらったんだから」
「そんなぁ!! 佑まで!!」
「うるせえな! ガタガタ言うな!!」
あまりに騒ぐ花繪にぶち切れた安倍が蹴りを食らわした。なんか教室とちょっとイメージ違うな……もうちょっと落ち着いてるイメージだったんだけど。
グズグズと嘆く花繪を見て、なんとなく不憫になってしまった私は息を吐きだして、とある提案をしてみた。
「手伝ったげようか?」
「…! え!?」
「は?」
「だからその借金返済、私も手伝ったげようか?って」
「えっ、で、でも……」
「ダメではないでしょ、安倍」
「…お前、妖怪視えんのか?」
「視えるよ」
そう言うと、安倍は少し驚いたような顔をして、少し黙った。
「…じゃあいい。そいつ一人よりマシだろ」
「あっ、安倍さん! でも!」
「なんだよ、お前一人でやりたいのか?」
「そっ、そういうわけじゃ……そりゃ佑がいれば心強いけど…」
「はい、じゃあ決定。花繪、さっさと帰るよ」
「あっ、ちょっ、佑っ!!」
こうして私の高校生活は、妖怪祓いの手伝いをすることで幕を開けた。
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鳳彼方(オオトリ カナタ)
幼い頃から妖怪とかそういうモノが視える芦屋の幼馴染。
視える体質のことは周りに言ったことはない。
つい最近まで(モジャのことがあるまで)芦屋にも内緒にしていた。
幼馴染が急に視える体質になって色々と巻き込まれてえ?ってなってる。
ありえないくらいの巻き込まれ体質な幼馴染を心配しながら自分もあれよと関わっていく。
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