千佳ちゃんとパン派の先輩/wt


※男主です※


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「あちゃあ、空いてないね」

 隣で夏目出穂が呟いた。雨取千佳は一通り食堂を見渡して、頷く。やはり空いている席はない。
 その日、千佳と出穂はお昼をとるために食堂に訪れていた。いつも大体本部に顔を出している出穂はともかく、本部よりも玉狛にいることが多い千佳はあまり本部の食堂を利用したことがなかった。今日は休日で、珍しく二人一緒に午前から本部に顔を出していたので、せっかくだからと食堂でご飯を食べることにした。よく当真と一緒にその食堂を利用しているらしい出穂からオススメのメニューを聞いて、わくわくしながら食堂に向かった。しかし。その日は先程も言ったように休日で、午前から顔を出している隊員も多かった。勿論皆午後からも訓練や任務に明け暮れる。そんな中でまさか本部の外に食べに行こうなんてやつはいないわけで。自然と食堂に人は集まる。その結果、少し遅れてしまったらしい千佳と出穂はすっかり座る席をなくしてしまった。

「どうするよ? 時間ずらしてからまた来る?」
「うーん、お腹空いちゃったけど、空いてないなら仕方ないよね。少なくなってからまた来ようか」

 出穂とそうしよう、と頷きあってから、千佳は出口へと足を向けた。

「あー、お嬢さん達、お嬢さん達ー」
「……」
「えーっと、黒髪と茶髪のショートの女の子たちー」
「えっ?」
「うちらのこと?」
「うんうんそうそう。君たちだよ」

 不思議な呼び掛けの声に振り返ると、そこにはテーブルに座った男の人が千佳たちに向かって手招きしていた。顔を見合わせて、戸惑いながらも男の元へ駆け寄った。

「ここ、俺と相席で良ければどうかな? 席空いてないって声聞こえたから」
「え?」
「いいんすか!?」
「いやあ俺は全然。むしろこんな可愛い女の子二人と相席出来るなんて役得だよ」

 人好きのする笑みで男は言った。千佳と出穂は顔を見合わせて笑う。「ありがとうございます!」と揃ってお礼を言うと、男は二人の頭を撫でた。


「あ、俺空木佑。高三で、B級部隊の銃手やってる」
「夏目出穂っす。C級で……一応狙撃手っすね。あ、中二っす」
「雨取千佳です。B級部隊の狙撃手です。私も中学二年生です」
「出穂ちゃんに千佳ちゃんか〜。中二って若いねえ。あ、っていうか雨取千佳ちゃんって玉狛第二の大砲娘? うわあ有名人じゃん俺ってば知らずにごめんねー」
「えっ!? い、いえ…! そんな…!」

 男…空木佑は気さくな男だった。突然相席になった(佑が誘ったのだが)二人にも笑顔で明るく接してくれた。そのため初対面の人が座る席でも、二人とも緊張せずに話すことができた。元々二人とも人見知りするタイプではなかったが、流石に初対面の人と仲良く談笑しながらご飯を食べられるほど神経は図太くなかった。

「いやあそれにしても二人はご飯かあ。俺パン派だから昼にご飯ってあんまりないんだよね」
「えっ? あ、はい。そうなんですか」
「チカ子はご飯好きっすからね〜。アタシはどっちでもいいっすけど」
「ご飯美味しいよ?」

 千佳は好きなものは?と聞かれてその中に白いご飯≠入れてしまうほどのご飯好きだ。一方で佑も相当なパン好きで、一日の食事をほぼパンで済ませてしまうほどだった。勿論好きなものは、と問われたら千佳と同様パン≠ェ入っているだろう。

「あっははは、千佳ちゃん俺と真逆だけどある意味仲間だな〜」
「そうですね」
「え〜仲間ではなくないすか?」
「おおっと出穂ちゃん手厳しい!」

 佑はけらけらと笑うと、手に持っていたパンに齧りついた。

「…あれ? そういえばここメニューにパンなんかありましたっけ?」
「ん? あーえっほ」

 佑はパンを口に入れたまましばらくモゴモゴとさせて、すべて飲み込むと漸く出穂の問いに答えた。

「おばちゃんに「パンが食べたいです!」って言ったら次の日から用意してくれるようになったんだよな。おばちゃんの手作りだって! パン手作りとか凄くね? 俺感動しちゃってさあ、毎日食べに来てんだ」
「ま、毎日?」
「そー、太っちゃうよなあこれ。でも美味いから止めらんない」

 うえー、と出穂はそんな佑に肩を竦めた。しかし千佳は、佑の幸せそうな顔に思わず顔をほころばせた。きっとご飯を食べている時の自分もこんな顔をしているんだろうと。

「あっ、千佳ちゃんその顔可愛い!」
「えっ?」
「いやあ可愛い女の子の笑顔はいつ見ても至福だね」

 そう言ってへら、と笑う佑に戸惑いながらも、千佳は褒められた笑顔を浮かべた。


 ▽


「…え、空木先輩とお昼食べたの?」
「そーそー。すっごい変な人だった。良い人だったけど。…なーチカ子?」
「え、う、うん」

 お昼を食べたあと、千佳と出穂は狙撃手の合同訓練に赴いた。そこには同い年で友人の絵馬ユズルがいて、自然と三人で集まる形になる。どうやらユズルが三つ並びでブースを取っておいてくれたらしい。ありがとう、とお礼を言うと少し照れたように顔を赤くする。それに二人は顔を見合わせて笑った。
 そうして訓練が始まるまでの間、三人で談笑をしていた。話題は先の先輩――空木佑のことだ。

「ユズルくん、空木先輩のこと知ってるの?」
「え、うん。ウチのカゲさんとゾエさんと仲良くて、よくウチの作戦室にも来るんだ」
「へ〜」

 そういえば高校三年生だと言っていた、と納得して頷く。B級だとも言っていたから、いつかどこかで千佳の隊と当たることもあるかもしれない。

「空木先輩のこと気になるの?」
「えっ、えっと…」

 佑のパンを食べているときの幸せそうな顔を思い出す。見ていると、こっちまで幸せになってくる笑顔。

「…また、会いたいとは思う…かな」

 そうして、また一緒にご飯を食べられたら、と思う。


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佐倉悠佑(サクラ ユウスケ)
パン派
とにかくパンが好き
女の子も好き
十八歳普通校組
どっかの隊の銃手(特に決めてない)

中編アンケートとった際に素敵なネタを頂いたのでネタだけでもと書き起こしてみました…
ほのぼの書きたいんですがほのぼのだけで進められるか自身がないので恋愛入るかもしれません。

SANDGLASS