ひとしきり嘆いてみても
アイツは良い奴で、人並みに悩みもあれば
隠れて努力してるのも知ってるわけで
准はその夜本当にずっと俺と一緒にいた。きっと夜遊びなんてしたこともない真面目くんなんだろうに、俺にあわせて、楽しそうにしていた。
結局家に帰ったのは朝方で、怒られたのは俺だけだった。何故か、俺の母さんの方に。准のとこのおばさんは何も言ってこなかったのに、何でうちのババアにいろいろ言われなきゃいけないんだ。多分母さんは准を取られたことを怒っているのだろう。母さんはずっと、俺よりも准のほうが好きだから。
「まったく……こんな年になってまで准くんに迷惑かけて」
帰らないと言ったのは准の方なのに、母さんはまるで俺が悪いとでも言うように、そう決めつけるようにものを言う。母さんの中で准は絶対的に正しくて、理想だ。出来の悪い俺なんかよりずっと可愛い、大事な息子。本当に気持ちわりいなって思う。どう足掻いたって准は母さんの子にはならないし、母さんの子は、母さんの言う出来の悪い俺≠ネのだから。
俺がなにか言うとまた説教が長引くので何も言い返さずに黙っていると、ふと准が部屋に入ってきた。何故かうちと准の家はお互いを自由に行き来できる。普通に我が家のように家に入ってくるのだ。准も、副も佐補も。
「あら、准くん。ごめんなさいね、見苦しいところを……今、昨日准くんを連れ回したことを叱ってるところだから、」
「違いますよ」
「…、え?」
「違います。昨日は俺が日向といたいって言って帰らなかったんです。日向は悪くない」
これを言うためにわざわざこちらに来たらしい。母さんはまさか准に訂正されるとは思っていなかったらしく、頬を引きつらせて黙り込んでしまった。良い気味だババア、と内心で思っていれば、母さんが復活して「なによそうなら早く言いなさいよ〜!」なんて俺の肩をたたいてきた。やめろ触んな、どうせ俺が言ったって信じなかったくせに。准は俺の方に歩いてきて、俺の腕を引っ張った。来てくれ、と言われて大人しくついていく。
「あ、准くん…」
「…今日はクリスマスパーティ、やりましょうね。ちょっと日向を借りてもいいですか?」
「、え、ええ! 勿論よ」
母さんににっこりと笑って会釈をした准は、さっさと俺の腕を引いて歩いて行く。向かうは俺の部屋らしい。我が物のように、俺の部屋への道を歩く。
パタン、と扉が閉まったと同時に、肩に准の頭が乗せられた。抱きつかれているらしい。
「やめろ気色わりい、」
「ごめん」
「、」
「ごめん。俺が昨日連れ出したから、日向が怒られた。副と佐補に言われて気付いたんだ。おばさん、俺には優しいけど副と佐補にはそうでもないらしくて、「日向兄ちゃんがいじめられる」って教えてきて」
「…別にいじめられてねーし」
母さんが好きなのはあくまでも嵐山准≠ニいう理想の息子で、嵐山家≠ナはなかった。だから副と佐補への態度は准より明らかに冷たかったし、優しくもなかった。准には気づかれないようにしていたみたいだが、俺は知っていた。一度可哀想になって准に言ってやろうか、と言ったことがある。しかし二人は首を横に振って「日向兄ちゃんが優しいからいい」と言った。母さんの態度が申し訳なくて、何度もごめんと謝った。
「…日向」
「…いじめられてなんかねーよ。一応あれでも母親だぞ。だから准の考えすぎ…」
「なあ、日向」
「、」
「俺にもっと、弱いところを見せてくれないか」
「……、は…?」
俺を見つめる准の目が怖くて、俺は一歩、後退った。准は一歩踏み出して、また俺に近づく。とん、と壁が俺の背中に当たった。すぐ目の前には、准がいる。
「…好きなんだ、日向」
「……は」
「好きだ。恋愛対象として、好きなんだ。だから弱いところを見せて欲しいし、もっと俺に頼ってほしい」
「な、に、いって」
「逃げないでくれ。……頼むから…」
准が、縋り付くように俺の腕をぎゅう、と握った。足が震えていた。バクバクと心臓が鳴って、泣きそうだった。ばかじゃねえの、逃げないでくれなんて、そんなの、逃げたいに決まってるだろ、男が男を好きなんてそんなの、きもち、わるい、
「……っちがう」
「、日向?」
「ちがうだろ、お前は俺のことなんか好きじゃない、勘違いだろ」
「っ違う!! 俺は、」
「だってお前は皆の理想なんだぞ、格好良くて優しくて勉強も運動もできて、二次元から飛び出してきた主人公みたいな、完璧で……すごいやつ、で」
「……」
「だから、俺なんかを好きじゃいけないんだ。勘違いだ、勘違いって言え」
「いやだ」
「言えって言ってんだろ!!」
「嫌だって言ってる!!」
准が声を荒げたことに驚いて、俺はビクリと肩を震わせた。准は泣きそうな顔をして、俺を真っ直ぐに見ていた。
「…おねがいだから…」
「……」
「おねがいだから、勘違いなんて言わないでくれ…、拒絶されるよりつらい」
准が泣きそうだと、俺まで泣きそうになった。だって准は俺を好きじゃいけない。准は普通に女と結婚して、幸せで温かい家庭を築いていくんだ。だから、俺なんかを好きじゃいけない。おれは、突き放さないといけない。突き放して、正しい道に戻してやらなければいけない。それが今までひどいことばかり言ってきた俺に優しくしてくれた准へ出来る精一杯の恩返しだ。つきはなさなければ。
「…っぅ……く…っ」
「っ、日向? どうした?」
「っきる、わけ」
「え?」
「突き放すとかっ……できるわけねえだろ…っ」
「…え、」
「なんで突き放せるんだよっ……俺だって、おれ、だって…っ」
准が好きだ、と、言葉にしてはいけないし、思ってもいけないと分かっていたから。准は俺にとって疎ましくて、でも憎めない存在で、唯一無二の親友でなくてはならなかった。俺は、准とずっと親友で、大切な幼馴染でいなくてはならなかったのだ。
「…日向」
「…ぅう…っ…」
「日向、好きだ」
「うるせえっ……やめろ、聞きたくないっ…」
「好きだ、好きなんだ」
「お前はっ、皆の完璧で」
「俺は完璧じゃない!!」
「っ、」
「俺は完璧じゃないよ……日向が一番良く知ってるだろ」
「……っ」
知っている。当然だ。ずっと一緒にいるのだ。欠点だって、いい所の倍くらい知っている。嵐山准は完璧なんかじゃない。勉強も運動も影でうんと努力して頑張っている、ただのその辺にいる人間だ。そんなこと、知っている。
「日向が好きなんだ。それだけじゃ駄目なのか?」
俺を抱きしめて、准が言う。もう駄目だった。俺は、准から逃げられないことを悟った。
▽
いつだって俺は比べられていた。兄弟とかの身内じゃなくて、幼なじみと。ただ隣に住んでて、必然的に仲良くなっただけの他人と。嵐山准=Aなんて名前まで格好いいそいつは、卑屈で、嫌味っぽくて、顔も何をやっても平凡な俺なんかとは比べ物にならないくらい、本当に完璧≠ネ奴だった。人当たりが良くて、顔も良くて勉強や運動も出来て、本当にこんな奴いたんだと呆れてしまう程完璧なそいつと、俺はいつも、比べられていた。
しかし俺は知っていた。嵐山准が完璧なんかじゃないこと。それを知ったうえで、俺は嵐山准という人間を好きになってしまった。どんなに疎ましく思おうと、どんなに妬ましく思おうと、俺が准を好きな気持ちは変わらなかった。
俺は最初から、准のことが好きだった。
「…准、分かったから離れろ」
「いやだ」
「准」
「いやだ」
「………」
「…日向の心臓の音がうるさいのが面白い」
「だああもう離れろって言ってんだろ!!」
ぐいぐいと准を引き離そうとするものの、准は意地でも俺から離れようとしない。どうやら俺の反応がおかしいらしい。なんなんだこいつ、実はSだったのか。そんなの知らねえぞ。
「なあ日向」
「……んだよ」
「俺はずっと日向のこと大好きだからな」
「……あっそ」
「…心臓の音は正直だな」
「あああもう離れろよ!!」
やっぱりこんなやつきらいだ!!