ハッピー・バレンタイン!


「はい、バレンタイン」

 いつも通りグリムを抱きかかえたまま教室への扉をくぐると、真っ先に席についていた友人二人の前に昨晩完成させたばかりの包みを置いた。一応自信作ではあるのだが、二人は瞳を丸くさせるときょとんとした顔で私とそれを交互に見る。

「突然どうしたわけ?」
「……え?」

 エースの言葉に私が首を傾げる傍らでデュースがまじまじと包みを見つめ、僕の誕生日にはまだ早いし……などと呟くものだからふとした疑問が脳裏を過った。

「やっぱりこの世界にバレンタインってないんだ……?」

 もしかしたら、とは準備の段階から思っていた。カレンダーに丸印を付け、材料を買い集めて浮足立つ私を不思議そうな顔で見ていた同居人達。
 この世界の事情に疎いグリムはさておき、ゴースト達が知らない時点でおかしい。彼らの亡くなった正確な時期がいつかはわからないが、以前90年前マジフト選手として騒がれていたと話していたし、現代とそこまで知識の差があるとは思えない。この世界には”バレンタイン”という文化そのものが存在しないと考えるのが妥当だろう。
 がくりと肩を落とした私にエーデュースの二人は顔を見合わせる。二人になんと説明すべきだろうか。そもそもで私もそこまでバレンタインに詳しいわけじゃない。
 お菓子企業の策略というか、なんでもイベントとして盛り上げたい日本人特有のお祭り感覚というか、色んな人間の思惑に踊らされている一人であって、一から十まで説明しろ!なんて言われた日には無理です、としか答えられない。

「えっと、日ごろお世話になってる人とか……あとは……えっと、うん」
「いや、『うん』じゃないっしょ。なんか今絶対大事な部分端折ったでしょ」
「そんなことないよ! 感謝のしるしにお菓子を渡す日なの!」

 搔い摘んだ──摘まみすぎた説明にエースがすかさずツッコミを入れてくる。我ながら誤魔化し方が下手すぎてデュースにすら訝し気な視線を送られている。

「オマエじれったいんだゾ!」

 抱きかかえたままだったグリムが突然バタバタと脚を揺らして腕の中から抜け出すと、プレゼントを詰め込んだ手提げの中身を勝手に漁り、一番出して欲しくない箱を取り出した。
 二人に渡した物よりかなり大きい箱は並べるとコレは特別なのだという主張が激しく、包まれた中身が二人に対する感情と同じものだと嘘を述べるにはあまりにも無理があった。

「はっはーん? つまり、監督生はこれをレオナ先輩に渡すために今日は登校した、と」
「随分デカいな……中身はなんなんだ?」

 遠慮のない視線が中身を探る様に箱に刺さる。いくら視線を注がれたところで中身が透けて見えるわけでもないが、嫌な汗が背中を伝う。
 高級ツナ缶で買収したはずの相棒は素知らぬ顔で、一言もレオナ先輩宛だなんて言ってないとか色々言いたいことはあったが、味方がいない教室で私は諦めて口を開いた。

「……生のお肉」

 始業前のざわつく教室内に私の小さな声は吸い込まれるように消えていく。だけどしっかりと聞き取ったのであろう二人は目を丸くして箱を凝視した。

「生……なのか」
「え、ってことはオレ達の分も……?」

 ごくりと息を飲むデュースの隣でエースは自分達にと渡された包みを掴み取ると不安そうな顔でこちらを見る。

「ち、違うよ! 二人のはちゃんとチョコ!」
「ちゃんと、ってことはバレンタインって言うのはチョコを贈る日なのか?」
「メジャーなのはチョコだよ。お菓子によって色々意味があるらしいけど」

 チョコと聞いて安心したのか、それぞれ自分の分を鞄の中に収めると改めて机の上の大きな箱と向かい合う。

「それで、これは……生、なのか」
「何回も聞かないでよ……!」

 何度聞かれても生肉が入っている事実が変わるわけがない。私だってこんな如何にもなプレゼントボックスに生肉を詰め込むだなんて、我ながらどうかしていると思う。だけど仕方がないじゃない。これを渡そうとしている相手はレオナ先輩で、先輩が好きなのはお肉で。なにより、ネコチャンにチョコとかそういうのはダメって猫を飼っている友達が口を酸っぱく言っていたのだから。

「保冷剤と、サムさんのお店で一番高いお肉をね……入れてあるの」
「オレ、たまに監督生のことわかんなくなる」
「一見普通の女の子なんだけど、僕もメイには驚かされてばっかりだ」

 微妙な空気が流れる中、グリムが大きく欠伸をする。居た堪れなくなった私は箱を手提げの中に押し戻すと授業を受ける準備をすべく、席に着くことにした。

◆◆◆

 いくら保冷剤を入れていたところで生のお肉を一日中持ち歩くなんて元の世界なら信じられないが、サムさん曰く特別な物らしく一日二日くらいなら密閉した空間に限りどんなものでも保存がきくらしい。恐らく魔法が使われているであろうそれを、有難く頂戴したのがつい2日前。
 私だって本当はハートの形にしたチョコとか、所謂『本命(それ)』っぽいものを用意したかった。
 けれど『獣人ってチョコ食べて大丈夫なんですか?』なんて聞いた日には理由を問いただされ、今日という日を待つ前に私がバレンタインプレゼントを贈ろうとしていることがバレてしまうのは必至だ。故に、内密に準備を行った私がチョコを贈れるわけもなく。無難とは言い難いが、レオナ先輩が確実に喜んでくれるであろうお肉をこうして用意した、んだけれども……。

「やっぱり、変だよね……」

 トレイン先生の授業を右から左へ聞き流しながら、ちらりと鞄の横に置いた手提げ袋に視線を下ろす。まず、この世界にバレンタインという文化が存在していないという点から問題だらけだ。先ほど二人に渡したような義理チョコならまだしも、本命のレオナ先輩に「好きな人にチョコを渡す自分の世界の文化です」なんて面と向かって説明出来る気がしない。
 何より、チョコを渡す文化と言っておきながら私が持参したのは生肉で……。
 零れ落ちそうになるため息をそっと喉の奥に押し込んで、黒板を見るフリをして揺らめくルチウスの尻尾をただ見つめた。


 
 授業の終わりを知らせる鐘が数回目の音を響かせ、漸くお昼休み。
 騒めく教室内、大半の生徒はこれから食堂に走るか持参したお弁当を広げ始める時間だ。普段なら私も植物園で待っているであろう恋人の所に急ぎ足で向かうところなのだが、今日は足が重い。

「あれ、メイ? 今日は愛しのレオナおじたんのとこ行かなくて良いの?」
「渡すんだろう、その……生肉を」

 座ったまま動かない私に近づいてきた二人。デュースの言葉にエースがあー……と少し濁った声を漏らす。大方、生肉のことは忘れていたんだろう。

「……今になって後悔してる。ど、どうしよう」
「どうしようって、オレらに言われても……なぁ?」
「ぼ、僕は思ったまま渡せばいいと思うぞ! キングスカラー先輩も恋人が考えてくれたプレゼントなら何でも嬉しいと、思う、し……」

 自信がないのか、最初だけ勢いがあったデュースの言葉は終盤ぶつ切れで、やはり生肉を用意する恋人というものがどれだけおかしいものなのか、という現実を突きつけられた気分になる。

「オレ様は好きな物もらえるんならすんげー嬉しいけどなぁ」
「オマエとレオナ先輩を一緒にすんなよなー」

 不思議そうに瞳を瞬かせるグリムは、今朝与えたばかりの少しお高いツナ缶を大事そうに抱えて私の顔を見つめる。実はお昼ご飯も少し奮発したツナで作ったグリムが喜びそうなものを用意してあるのだが、これはまだ彼には伝えていない。

「だってよ、エースとデュースだって今朝貰ったのがチョコじゃなくて自分の好きな食いもんだったとしても嬉しいだろ?」
「それは、まぁ」
「オレ様もツナ缶でめちゃくちゃ嬉しかったし。だからレオナもきっと喜ぶはずなんだゾ!」

 机の上に二本足で立つと「な!」とグリムはまっすぐな瞳で私を見る。

「だいたい、オマエごちゃごちゃ考えすぎなんだゾ。オレ様達レオナじゃねーからどんだけ頭悩ませたってわかるわけないし!」

 飾らないグリムの言葉は、二人の励ましよりも私の胸を強く打つ。確かに、私達がどれだけ並んで考えを言い合っても正しい答えなんてわかるわけがない。
 レオナ先輩が嫌がるか、チョコでないことを残念がるか、はたまた呆れるのか。それはレオナ先輩当人でなければわからないことなんだから。

「……うん、そうだね。そう、だよね。ありがとう、グリム」

 耳の炎に気を付けながらグリムの小さな頭を撫でる。私の可愛い相棒は手の付けられない所もある困った子だけど、いざという時に頼りになる優秀なネコチャンだ。本人にネコチャンなんて言ったら怒られちゃうけど、心の中で思うくらいは許して欲しい。

「私、レオナ先輩のところに行ってくる……! バレンタインの説明からしなきゃだし、急がなきゃ!」
「キングスカラー先輩によろしくな」
「あ、今朝言い忘れたけどコレありがと。昼飯と一緒に食べるわ!」
「うん……!」

 急いで鞄からグリムの分のお弁当を取り出して机に置くと、それぞれに渡したバレンタインの贈り物を片手に持った三人に見送られながら私は教室から飛び出すように出る。
レオナ先輩が待っているであろう植物園へ向かって駆けだす足は先ほどまでの重さが信じられないほどに軽かった。

◆◆◆

 植物園への道すがら、お世話になっている人達と出会うたびにそれぞれに用意したものを渡した。
 みんな不思議そうな顔をしたものの、私の世界で親しくしている人に贈り物をする日だと説明するとすぐに笑みを浮かべて受け取ってくれた。登校時は膨れ上がっていた袋もすっかり小さくなって残っているのはたった二つ。
 大きな箱を目敏く見つけた人は「予定が詰まっているんだろう」と話し込むことなく背を押してくれた。悟られていることに気恥ずかしさも覚えるが、周りの人たちにレオナ先輩との関係を認められているように思えて少し嬉しい。
 ナイトレイブンカレッジ内に限って……なんだろうけど、私でも先輩の隣に居て良いんだと言われているような気がする。
 そんな浮かれた気分で廊下を歩いていると目の前に急に影が差し、何かにぶつかった。

「いたっ……」

 打ち付けた鼻に痛みを感じながら、その正体を確認しようと上を向く。

「よォ、草食動物。随分楽しそうだな?」
「レオナ先輩……?」

 この時間、いつもなら植物園で待っているであろうレオナ先輩の登場に私は目を丸くする。咄嗟のことに一瞬手放しかけたが手提げとお弁当が入った鞄を強く握って落とさないように気を付ける。

「随分と俺を待たせてくれるじゃねぇか」
「ごめんなさい。だいぶ遅くなっちゃいましたよね」

 寄り道をしていたのだから当たり前だが、普段植物園に到着しているはずの時間はとっくに過ぎている。
 謝るとレオナ先輩は私の手荷物へと手を伸ばす。言葉にはあまりしてくれないが優しい先輩はすぐにこういう気配りをしてくれる。逆に遠慮すると機嫌を損ねてしまうので素直に鞄の方だけ手渡すとレオナ先輩は不満そうに唇を尖らせた。

「そっちは?」
「えーっと……」
「ん」

 だいぶ量は少なくなったとはいえ、本命が入ったままの袋は大きく膨らんでいる。重いというわけではないが、女性に見た目が大きい荷物を持たせておくのはレオナ先輩の中で何かに反するんだと思う。
 だからと言って渡すわけにもいかない。贈り物を渡す前に当人に運ばせるのはなんだか違う気がする。
 荷物の為に差し出された手を咄嗟に空いた方の自分の手で掴むと今度はレオナ先輩が目を丸くした。よくTVで見た、ネコチャンがびっくりした時にする顔に似ていて面白い。

「っ……おい、どこ行くんだよ」

 驚いたレオナ先輩の手を引いて大食堂を目指す。さすがに植物園で生のお肉です!と出すのは気が引けるし、ピークは過ぎただろうから厨房の片隅をお借りしても支障はないだろう。

「ふふ、内緒……です!」

 手を引かれるがまま歩き出したレオナ先輩は、いまだに私に荷物を持たせたままなのが気になるのか、振り返って顔を見れば少しだけ恨めしそうな視線を送ってきたが気にせず笑顔を返す。こちらが引く気がないと察して息を零すと少し大股で歩くとすぐに私の隣に追いついた。
 本当は全然二人の歩幅は違うのに、並んで歩くことが出来る関係に口元が少し緩む。
 同じ一歩でもレオナ先輩は私よりもっとずっと遠くに行けるはずなのに、私に合わせた小さな一歩。大きな体には不釣り合いだけれど、そんなところもまた愛おしい。
 自然と重なり合う足音と同じように、気が付けば繋いでいた手も指を絡めたものへと変わっていた。

「ふふっ」
「今日は機嫌が良いな? 何かあったのか」
「いいえ、特別な日ではあるんですけど……。今はただ好きだな、って思ってだけです」
「そうかよ」

 握られた手の力が少しだけ強くなった。



「あれ? メイくんとレオナさん、なんでこんなところにいるんスか?」

 大食堂に到着すると既に時間もだいぶ過ぎているので人もまだらで、一人遅い食事を始めていたラギー先輩がすぐに私たちに気付いて驚いて顔をあげた。

「ラギー先輩、ちょうどよかった!」

 首を傾げたままのラギー先輩にプレゼントを渡そうと先輩の手を離す。一瞬むっとしたレオナ先輩だったけれど、私が手提げの中に手を伸ばすので興味深そうに中を覗き込んでいる。
 レオナ先輩宛てに用意したものと比べると小さいが、だいぶ厚みがあるそれを取り出してラギー先輩の近くに置く。

「なんスかこれ?」
「バレンタインです」
「バレンタイン……?」
「なんだよ、それ」
「開けてみてください」

 状況が呑み込めない二人には物を見てもらう方が早いだろうと判断し、ラギー先輩に箱を開けるよう促す。
 レオナ先輩にも早くしろと言わんばかりに顎で指示され、ラギー先輩はリボンを解く。あまり可愛らしく飾るのもどうかと思い、白い箱にシンプルな黄色いリボンを付けた箱はそれを解くと簡単に開いた。
 箱が開くと甘い香りが周囲に広がる。輪っかの形をしたそれはラギー先輩の好物だったと記憶している。中身に気が付いたラギー先輩の耳が感情を表すように大きく動く。

「ドーナツッスか!?」
「はい! 今日は私の世界だと親しくしてる人とか、色んな人にチョコとかお菓子をあげる日なんです」
「タダでこんなの貰っちゃって良いんスか!?」

 目をキラキラと輝かせたラギー先輩は頬を赤く染めては私とドーナツを見比べる。……本当は翌月ホワイトデーという文化も存在するけれど、押し付けがましいのでこれまで渡してきた全員にそのことは教えていない。

「いつもお世話になってるので、受け取ってください……!」
「じゃあ遠慮なく!」

 さっそく一つ手に取り齧り付くラギー先輩の喜びように嬉しくなった私は、成り行きを見守り先に席についていたレオナ先輩の隣に腰を下ろす。
 すると、腕にゆっくりと何かが巻き付いた。

「レオナ先輩……?」

 ラギー先輩に一度視線を向け、すぐに私の顔を見つめるレオナ先輩。尻尾を引っ張りすぎないように気を付けながら手提げ袋を膝の上に乗せるとレオナ先輩は片肘をテーブルの上について手に頭を乗せるとつまらなそうに瞳を細めた。

「なんでラギーが先なんだよ」
「え?」
「いや、ラギーだけじゃない。お前のことだ、どうせ他の奴にも配ってたんだろ」

 手提げ袋を睨みつけフンッと鼻を鳴らすと、すっかり機嫌を損ねてしまったレオナ先輩はその不機嫌さを隠そうとせず私をじっと見つめる。
 確かに、朝から色んな人に配ってまわった。なんなら登校するとき、教室に向かう前に職員室に寄って先生方にもお渡ししている。
 先輩の言葉を付け足すならきっとこうだろう“なんで俺が一番じゃないんだ“。
 返事をしない私に肯定と受け取ったのであろうレオナ先輩は苛立ちを隠そうとせず喉をグルルルと鳴らす。先輩には悪いが、想定通りの発言に思わずくすりとしてしまう。

「何がおかしいんだよ」
「ふふ、ごめんなさい。安心してください、レオナ先輩。先輩が私の特別だから一番最後に渡したかったんです」

 手提げ袋から今日一番のプレゼントを取り出す。外側からでも少し冷たいそれは、しっかりと保冷されていることがわかる。

「私、好きなものは最後に取っておくタイプなんですよ。知りませんでした?」

 しっかりと両手で箱を持ちあげるとレオナ先輩に真っすぐ向き合って、彼の前にプレゼントを差し出す。

「ハッピーバレンタイン、レオナ先輩。大好きですよ。さっきは説明端折っちゃったんですけど、本当は好きな人に気持ちを伝えるのがメインのイベントなんです」

 義理とか本命とか、本当はもっと細かい部分が色々あるけれど、そんなことはこの際どうでもいい。だって、こちら世界には正しくこの文化を知る人間は私以外いないのだから。自分に都合のいい所だけを切り取って、一番満足できる形で大好きな人達に何かを返せればそれでいい。

「おまえな……」

 少しだけ躊躇しながらもレオナ先輩はしっかりと私の手から箱を受け取ると小さく舌打ちをする。一見不機嫌そうなそのしぐさも、褐色の肌にうっすらと刺した朱色が照れ隠しなのだと教えてくれる。

「それ、まだ完成じゃないんです。開けてもらえますか?」

 手渡された箱の冷たさに違和感を感じているのか、少し眉間に皺を寄せたレオナ先輩はテーブルの上にそれをゆっくり置くとリボンに手をかけた。丁寧に開き、その中を覗き込んだレオナ先輩が口を開く。

「……チョコを贈る日、じゃなかったのか?」
「お菓子とか、色々ですよ。相手が喜んでくれるなら何でもありです」
「だからって……これはねぇだろ」

 箱を手に取ると少し傾けて私に見せる。保冷剤の間から生肉が顔を覗かせている。流石サムさんに用意してもらった保冷剤、特に痛んだりした様子はない。

「だって、先輩お肉好きじゃないですか?」

 運んでもらった鞄に手を伸ばしてお弁当を取り出す。このプレゼントは今日のお昼ご飯と合わせて完成する。
 普段からお昼ご飯は私が用意しているので代り映えしないかもしれないが、今日のお弁当は全て私のお財布から出たお金で買ったものだ。

「素直にチョコじゃダメだったのかよ」
「ネコチャンにチョコはダメなんですよ!」
「お、おう」

 少し食い気味にチョコを否定するとレオナ先輩の可愛いお耳がぺしょっと潰れる。だって、友達が言ってたもの。チョコはダメって。
 先輩の手から箱を奪うとお弁当箱も抱えて立ち上がる。

「今お肉の準備してきますから、大人しく座っててくださいね!」

 駆け出す私にひらひらと手を振って見送るレオナ先輩は頭を抱えてテーブルに顔を伏せた。

◆◆◆

おまけ

 スカートの裾を翻しながらメイくんが背中を向けるのとレオナさんがテーブルに崩れ落ちるのはほぼ同時だった。
 少しだけ離れた席からドーナツの肴に二人の様子を窺っていたオレはレオナさんになんて声をかけるべきか、いやむしろ見なかったことにすべきなのか非常に悩んでいる。
 暴君さながら横柄な態度の目立つレオナさんだが女性には優しく、特に恋人であるメイくんに対してそれは顕著だ。二人が両片思いの頃から見守っているが、今もそれは変わることなく。それどころか、レオナさんの方が彼女に手綱を握られているようにも見える。
 要はあのレオナ・キングスカラーが彼女に振り回されている、というのがオレの見解だ。

「大人しく座っててください、ねぇ……?」

 彼女の言葉を反芻して、こちらの声に耳を立てたレオナさんをちらりと見る。

「時々恋人って言うより、ペットと飼い主みたいになるっスよね二人」

 オレの声は間違いなく聞こえているだろうに動くことのないレオナさん。ほんの少し反応を見せた耳は再び伏せていて、こちらから窺うことは出来ないが恐らく尻尾もわかりやすい動きを見せているのだろう。

「やっぱり、オレ達雌には逆らえないんスよねぇ」
「……うるせぇ」

 もっと可愛らしく惚れた弱みとでも言ってあげるべきだっただろうか。
 ちらりとレオナさんの頬に差す朱色が見え、なんとも言えない気分になったオレは己の為に獅子の手綱を握る少女が用意したプレゼントを堪能すべく、彼を視界の端から追いやった。

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