食べたくなる


「んっ……」

 何度も啄まれた唇がようやく解放され、私はソファの背凭れに身を預ける。こちらは息も絶え絶えだというのに捕食者は余裕そうな表情で唇をペロリと舐める。

「なんか、悔しい」

 最近、口喧嘩になりかけるといつもこうだ。黙れと言わんばかりに唇を塞がれ、抵抗する意思が折れるほど蹂躙される。キスの経験値は同じはずなのに、レオナ先輩は私の数倍キスが上手くて色んな意味で負けた気持ちになる。
 追い込まれているうちに、むくむくと膨れ上がっていた怒りも口を縛り損ねた風船のようにどこかへ飛んで行ってしまって喧嘩の理由は思い出せそうにない。

「そうか? 俺は楽しいがな」
「レオナ先輩、たまにわざと喧嘩売ってきてます?」

 なんとなく、そんな気がした。わざと煽って尖り始めた私の唇を嬉しそうにパクリと一飲み。眼前に迫る顔はいつも嬉々としていて、そこに怒りなんて感じない。
 私の問いかけに「さぁ、どうだかな?」と首を傾げたレオナ先輩はどちらのともわからない唾液で光った唇を開いて食べ終えてなかったお野菜を放り込んだ。

 あ、そうだ。あれが原因だ。

 いつもは文句も言わずにぺろりと食べてくれるのに、やたらと今日は食べたくない、嫌だ嫌だとグリムのように我儘を言い始めたレオナ先輩。
 じゃあ片付けると言っても、それもダメ。代わりに食べると言っても、それもダメ。
 押しても引いてもどうにもならなくて、もういいです!と怒った私は何故かソファに引き倒されて唇を食べられた。
 思い出してまたちょっとムッとしてきた私を見てレオナ先輩が笑いだす。

「お前、その顔他の男の前でするんじゃねぇぞ」
「な、なんでですか!」

 あの問答はなんだったのか。最後の一口まで綺麗に食べ終えたレオナ先輩はニヤリと笑って隣に腰を下ろす。

「食べたくなっちまうだろ」

 ゆっくりと弧を描くサマーグリーンを見つめていると大きな口がもう一度、私の尖った唇を丸のみにする。
 先輩の真意が分からず、悩んだままの私がレオナ先輩についていけるわけもなく。結局今回も翻弄されるがまま、その唇を、舌を、……愛を受け入れるしかなかった。

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