04.5
芽唯が必死に扉目掛けて逃げ出すのでラギーが出ていくのと同時にすぐ魔法で鍵をかける。もちろん鍵自体も魔法で簡単に開かないようにしたのでいくら芽唯が扉を揺らしたところで開くことはない。
ゆっくりと歩いて近付いて諦めの悪い番の腕を握ったレオナはあくまで優しく引っ張るとぽすりと自分の腕の中に納まった小さな体が愛おしくて仕方がなかった。ヒトの耳が付いていたならさぞ真っ赤に染まっていただろう。今は己と同じ獅子の耳がぴくぴくと頭上で揺れ続けている。
「あっ、あっ、あの……」
「何も取って喰ったりしねぇって言ってるだろ」
「ひぅっ……!」
ぱくり、と耳を食めば悲鳴のような声が漏れる。本気で嫌なら逃げるだろう。
けれど芽唯は腕の中で大人しくレオナにしなだれかかりされるがまま。レオナの腕に触れた指先は羞恥からか、それとも何かを感じているのか耳と同じくぴくぴくと揺れている。
真っ赤に染まった頬に顔を寄せれば首を目一杯逸らして逃げられる。それが少し面白くなくて後ろから抱きしめ彼女の肩に顎を乗せれば「うぅ……」とまた芽唯が少し唸る。
「嫌、か?」
「そ……その聞き方はずるいです……」
彼女の身体から力が抜けたのを見計らって抱き上げたレオナは芽唯をベッドへ運ぶと優しく寝かせる。
「あ、あの……っ!」
当然のように己の上に跨ってきたレオナに目を丸くさせた芽唯に逃げ道はいくらでもある。レオナは彼女の四肢をきちんと避けて手足を付いている。色が濃く強い獅子の象徴である髪が作り上げるまるでカーテンで覆われたような空間でレオナと向き合っているのは彼女の意思だ。
何度も何度も瞬いて、芽唯は恥ずかしそうに……けれどまっすぐレオナを見つめる。
芽唯の気持ちは手に取るようにわかる。何をされるのだろうか。何をしてくれるのだろうか。期待と戸惑いに板挟みされて正常な判断を失っていることも。
「……不安にさせていたなら謝る」
自分たちの関係に進展がないと芽唯が悩んでいたのも無理はない。あれから変わったのは肩書とほんの少し距離が近くなっただけ。恋人らしい触れ合いなんてほとんどない。……膝を借りて寝てはいるが。
「そ、んな私……その……ひぅっ!」
すり、と尻尾と尻尾を絡ませる。肩を跳ねさせ驚いた芽唯には慣れない感覚だろう。レオナですらこんな触れ合いは初めてだ。ついでに頭上でぺたりと伏せられている耳を軽く揉んでやれば芽唯から艶のある声がし始める。
「ん……ふっ……んんっ」
口を腕で抑えても殺しきれない音が漏れ、芽唯は己の発せられる声にも戸惑ったように眉間に皴をキュッと寄せる。
「くくっ……」
そんな姿が面白くて、可愛くて。レオナは夢中でいつもと違う芽唯の耳や尻尾を責め立てる。あまり攻め過ぎると自分まで変な気を起こしてしまいそうだが、あくまでも芽唯を傷つけないよう慎重に、少しでも彼女の不安が解けるように避けていた触れ合いによる愛情を魔法薬の効果がなくなれば消える部位にそそぐ。
「せんぱ、レオナせんぱ……や、だめ……でっ……」
ついに耐えきれなくなったのか必死に言葉で抗議をし始める。けれど、それもレオナを……いや、男を煽るだけ。そんなことすらもまだわからない少女をぺろりと平らげてしまう気は毛頭ない。
もちろん彼女が危惧するように魅力を感じていない訳ではない。むしろ感じすぎているからこそ成人している大人として、まだ少女でしかない彼女に爪すらも立ててしまわないように慎重に丁寧に扱っている。
芽唯には自覚が足りないようだがレオナはどこまでも正しく獣だ。それは彼の遺伝子、そして性別を指す。魅力的な御馳走を目の前に出されて常にだらだらと涎を垂らし食らいつく瞬間を楽しみに耐えているというのに酷い話だ。
「だめじゃないだろ」
「っでも……んん……っ」
ただ耳を弄っているだけだというのに随分と気持ちよさそうで少し不安になる。いつかもっともっと大事な場所に触れた時この少女はどうなってしまうのだろうか。そして、それを目の当たりにした自分は。
芽唯の身体から徐々に力が抜けてとろりとした瞳でレオナを見上げる。すっかり受け入れ始めたのかぴくぴくと身体を跳ねさせながら自分を受け止める姿がいじらしい。
「れお、な、せんぱい……」
まるで飼い主に腹を見せる獣のように自分にされるがままの芽唯にむくむくと欲が沸き上がる。どこまで自分を制御できるか不安だが、このままやめてしまえばまた芽唯を不安にさせるのは目に見えている。
すりっ、と彼女の耳を指の腹で優しく撫でれば気持ちがいいのか瞼を閉じる。きっとこのまま唇に噛みついてもこの少女は己を受け止めてくれるだろう。むしろそれを望んですらいるのかもしれない。
自ら喉笛を差し出す獲物を噛まないなんて獣としては如何なものだろうか。けれどどうしても躊躇いがある。レオナにとって芽唯はなによりも大切だ。唇も、その他も、奪うことなんて簡単にできる。簡単すぎる。だからこそレオナは慎重にならなければいけない。
その躊躇いがいつか後悔を生むとしても、芽唯とのすべてを一つ一つ大切にしたい。
だから今は数日後には消えゆく刹那の部位に愛情を注ぐ。彼女の不安を優しくほぐすために。愛しているのだと少しでも伝わるように。
触れている耳に唇も落とせばレオナの腕の中で顔を真っ赤にさせていた芽唯は恥ずかしそうに……けれど嬉しそうに微笑んだ。