永遠の寮生
姫さんの妊娠がわかってから寮長……じゃないレオナ様はますます過保護になった。元々姫さんがふわふわとしたお人だから心配しすぎるくらいがちょうどいいとは思う。
王室から公式発表もしたため夕焼けの草原の第二王子夫婦には注目が集まっている。姫さんやお腹の中の子供を守るために気を引き締めねばならないと特に女性近衛兵たちが張り切っている。
元々世間から愛妻家だと謳われていた俺たちの王様は子煩悩のパパになりそうだとか、きっと生まれてくる子も彼に似て容姿や才能に恵まれるだろうとか民衆は想像を膨らませ好きに書き連ねている。……と、言ってもオレたち自身も「そうだろうな」と思うしレオナ様は既に子供のことで頭がいっぱいだ。
昼休憩に入ったばかりのラギーが「あの人、真面目に働いてんのかと思ったら名前考えてやがった……」と今も隣で愚痴っているのだから間違いない。
「まだ性別もわかってないのに考えてるって随分レオナ様も気が早いもんだ」
「『どっちも考えとくに越したことはない』とかなんとか。ま、公務もきっちりやってるから文句は言えないんだけど」
肩を竦めたラギーはそんなことを言いながら柔らかな笑みを浮かべる。なんだかんだこいつもレオナ様と姫さんの子供が生まれるのを楽しみにしているんだから当然だろう。
話題の中心である姫さんが暮らす離宮は毎日この話題で持ちきりで、まるでここにいる全員が親なのではないかと錯覚するほどだ。
「そのレオナ様は今どこに?」
「メイくんのとこ。さっきキッチンにやってきてシェフ困らせてたから部屋まで送ってくるって」
「あぁ……」
最近悪阻が少し落ち着き始めた姫さんはキッチンで度々シェフを困らせている。
レオナ様も姫さんの料理が好きだし、俺らもあの子が作る飯は大好きだ。けれど本来彼女はお腹に子供が居なくても家事なんてしなくて良い立場だし、ようやく少し落ち着いたとはいえあまり無理もしてほしくない。
「ひさしぶりの手料理にちょっと揺らいでたけど、安静第一って自分にも言い聞かせてたから今頃部屋でメイくんも食えそうなもん選んで一緒に食ってるんじゃないかな」
「ははっ、あの二人らしい」
姫さんは庶民派だとか大人しいとか控えめなイメージを持たれやすい人だし、実際オレも最初はそう思っていた。けれど、レオナ様との関係を見ていると振り回しているのは彼女の方だったりする。
横柄、怠惰、他人を使う立場の人。そんな言葉を向けられがちのレオナ様をあれだけ困らせて動かして何も怒られないのは世界にただ一人……いや、近い将来もう一人増えるのか。
「楽しみだなぁ」
きっとレオナ様にも姫さんにもよく似た子が生まれるに違いない。この離宮に勤める奴ら全員から愛されてすくすくと育って、いつか俺たちの母校であるナイトレイブンカレッジに通ったりするのかも。
「まったく……生まれる前から人気者ッスねぇ」
呆れたように笑ったラギーに釣られてオレも自然と笑みが零れる。
「そりゃ、オレらの寮長の子だからな!」
オレらはきっといつまでも、あの人とその隣にいる姫さんが大好きで。その二人の子供なんて当然可愛くて仕方がない。あの人たちに惹かれたオレらはきっとそういう群れなんだ。
レオナ様が、……寮長が姫さんといつまでも幸せに暮らせますように。
そんな祈りを毎日のように捧げながら、どんな手段を使っても自身の力で望んだ未来を掴み取る。不屈の魂を持つ者が選ばれるサバナクローは少なくとも寮長がいた頃はそんな野心に溢れた寮だった。
ほんの少し場所が変わっただけで今もそれは変わらない。どこにいてもオレは永遠にあの人の寮生なのだから。