夏空に見た愛
「ど、どうだ、メイ? うっ、すごくガチガチだな」
「そうだね……ちょっと固すぎるかも」
メイが撮ってくれた映像を確認すると画面の中では見慣れない姿をした僕がぎこちない笑みを浮かべていた。
僕が今日参加しているのは麓の街と学園の共同企画。
メイは毎回撮影係として呼ばれているせいか衣装選びも撮影の流れも随分と手慣れていた。
一方僕はパールのネックレスもオシャレなジャケットも着慣れないし、撮影なんてもってのほか。
こんな調子で島のおすすめスポット紹介をちゃんとこなせるんだろうか。
「靴の修理について詳しく紹介したいけど、僕の言葉だけで説明するのは限界がある……よな。うーん……」
いつもお世話になっているお店だからと張り切って来たものの、じゃあ魅力を紹介してください!と言われると難しいものなんだな……。
店内をぐるりと見渡せばいいところがたくさん思い浮かぶけど、僕じゃそれを言葉にしきれない。
「……そうだ! 今日撮影のついでに修理を頼もうと思って、靴底がすり減った靴を持ってきたんだ」
「もしかしてこれのこと?」
足元に視線を落としたメイが動くと紙袋がかさりと音を立てる。
彼女に預けていたそれを拾い上げて取り出せば、メイはすぐにその靴にカメラを向ける。
この靴は僕が愛用しているもので、修理に出すのは数回目。
こんな状態の物でも店長さんに渡せばまるで新品みたいになるんだから驚きだ。
「これを使って、実際に靴を修理するところを撮影したら、一発ですごさが伝わると思わないか?」
「確かに!」
「だよな! じゃあ、修理と撮影のお願いをしにいこう。えーっと、店長さんはどこだろう……」
もう一度店内を見渡せば、お店の奥の方にそれらしき姿が見えた。
「あ、いたいた。店長さん、すみませーん!」
このお店の店長さんはすごい人な上に良い人だ。
お願いをすれば二つ返事で聞いてくれて、僕はすぐにメイのところへ戻る。
「よかった。修理の実演を撮らせてもらえることに……ってキングスカラー先輩?」
すると、彼女の傍にはキングスカラー先輩が少し不機嫌そうに立っていて、メイは苦笑しながらキングスカラー先輩と何か話していた。
「メイ、どうしたんだ」
「レオナ先輩も店長さんに用事があるんだって」
「……ああなるほど! すんません、すぐに撮影終わらせてどきますんで!」
僕は慌てて頭を下げるけど、メイは「大丈夫だよ」なんてニコニコしている。
なんというか、恋人だからこその余裕なんだろうか。
僕としては先輩の邪魔になっていると思うとヒヤヒヤしてしまうのに。
「それじゃあ、さっそく撮影させてもらおっか」
そう言ってスマホを構えたメイはキングスカラー先輩のことをまるで気にした様子もなく店の奥へと進んでいった。
◆◇◆
撮影が始まると意外なことにキングスカラー先輩も混ざってくれていい感じの動画が撮れた。
僕らだけだったら、きっとソールやインソールの種類選びで戸惑ってしまったに違いない。
助言のおかげで店長さんのおすすめで仕上がった靴も輝いて見える。
「これで俺の分は終わったが……。メイ、そこに座れ」
「え、私?」
お礼を兼ねてこの後のパティスリーにキングスカラー先輩を誘おうと待っているとふとメイに声がかかった。
エスコートするように伸ばされた手を自然と掴んだメイは手繰り寄せられるように先輩の傍に行くと近くの椅子に座らせられる。
「足出せ」
「ちょ、ちょっとレオナ先輩!」
「えっ!」
きょとんと瞬きを繰り返すメイの前に傅いたキングスカラー先輩は彼女の靴を脱がせ、どこからか取り出した少しヒールの高い靴を自ら履かせる。
そういえばキングスカラー先輩は夕焼けの草原の第二王子なんだよな……。
マジフト大会で不正をしたり、留年もしていて、悪い評判も多いけど、その実力は本物。
僕には難しすぎる魔法を簡単に使いこなすし、メイが困っている時には気が付くと近くで寄り添っている。
今だって、メイの足に触れる手付きは自然で、慣れていて、まるで絵本の中から飛び出してきた王子様そのものだ。
その仕草に僕だけが固まり、メイは流されるままキングスカラー先輩の膝に足を預けている。
なんていうか、すごい大胆だ。
他のお客さんも二人を見ていて、やがて自然と自分の買い物に戻る。
キングスカラー先輩にとってあれが普通なのか、わざとやっているのかはわからない。
けれど、普通恋人同士だからってあんな靴の履かせ方はしないだろう。
「わ、えっと、え、な、なに?」
当然メイは戸惑っていて、自分の足先を飾る少し可愛らしいそれをじっと見つめる。
「お前によさそうな靴があった」
「よさそうって……」
気が付けば両足とも履き替えさせられていて「立ってみろ」と彼女を促すキングスカラー先輩はやっぱりメイの手を握っていて、そのままキングスカラー先輩に誘導されて数歩歩いたメイが立ち止まる。
「どこか当たるか」
「平気ですよ」
「……本当か?
「平気ですってば」
疑うように何度も問いかけたキングスカラー先輩はすぐさま違うサイズの靴を差し出す。
「え、いや……」
「合わないんだろ。なら、こっちだ」
「ええ……」
問答無用で椅子に戻され、また手ずから靴を変えさせる。
そんなことを数度繰り返した二人はようやく合う靴が見つかったのか、メイが小さく「あ」と少し高い声を漏らしたことでキングスカラー先輩が口角を上げた。
「これだな」
「あっ、ちょっと!」
そう言ってメイに元の靴を履かせると、ぴったりだったらしい靴を箱に丁寧に戻す。
「ま、待ってください。靴なんて買っても合わせる服がないですよ」
「この前買ったやつがあるだろ」
「き、着ていく場所が……」
「ないなら作る。ンなもん後からどうにでもなるだろ」
有無を言わさないキングスカラー先輩はそう言ってすぐさま会計に向かってしまう。
ただパティスリーに誘うと思って買い物が終わるのを待っていたのに、すごいものを見せつけられてしまった。
早く声をかければよかったのかもしれないけれど、僕が入る隙間なんて存在しないんだと突きつけられているようで、メイが一人に戻ってようやく固まっていた体が動き出す。
ふと見れば、反論を全部はねのけられてしまったメイは少し困ったように頬を赤く染めていて、悪い気分ではなさそうだ。
「すごいなキングスカラー先輩は……。メイが持ってる服まで把握してるのか?」
「……というか、それもレオナ先輩が買ってくれたもののことだから」
「ああなるほど……」
そうか、だから自信をもって「この靴が合う」って推してきたのか。
メイのことだけじゃなく、彼女の持ち物まで含めて把握しているからこその行動だったんだ。
それが恋人というものなんだろうか?僕にはまだ少しわからない世界のことだ。
けど、唯一僕にだってわかることがある。
「キングスカラー先輩は本当にメイのことを大事にしてるんだな」
だからこそ、買い物中にメイに似合うかもって女性ものも見てしまう。
そして、ちょうどその場にメイが来たなんてキングスカラー先輩にしてみれば都合のいいことこの上なかったんだろう。
「少し強引な気がするけど……いつもこうなのか?」
「まあ……うん。高いものなら流石に本気で止めるけど……」
頬の火照りを手のひらで冷やしていたメイは僕を見上げると照れくさそうな笑みを浮かべる。
「レオナ先輩が私に贈りたいって思った気持ちは大切にしたいの」
だからいいの。
そう続けるメイが幸せそうで、ならいいかと僕も彼女の気持ちを受け止める。
もしかしたら、この場にエースやグリムがいれば惚気だなんだと茶化していたのかもしれないけれど、きっとこれが二人の恋人としての形なんだ。
二人が付き合うようになったと聞いて、最初は心配だった。
キングスカラー先輩は事件の首謀者だったし、オーバーブロットをした状態と戦ったこともある。
けれど、メイを通すと違う面がたくさん見えてきて、今日だってメイが幸せなんだと実感できた。
大切なマブがそれで笑顔になれるなら、僕は安心してキングスカラー先輩にメイを任せられる。
「なんか……いいな」
僕もいつかそんな恋をするんだろうか。
澄み切った空を見上げても、その答えは出なかった。